Novel Core、誰かを救う“HERO”になるまでの軌跡 初の日本武道館ワンマンを振り返る

傷つき、ひとりで苦しんでいたラッパーが、仲間を見つけて夢を叶え、今度は誰かを救う“HERO”になる物語を見た――。1月17日に行われた、Novel Coreの自身初の日本武道館ワンマンライブ『ONEMAN LIVE -I AM THE HERO- at BUDOKAN』でのことである。

【画像】Novel Core、“デビュー3年以内に武道館ワンマン” 夢叶えた一夜)

本ライブのタイトルを冠した「I AM THE」で幕を明けると、「フルスロットルでいくぞ!」という宣言どおり、Novel Coreは序盤から積極的にオーディエンスを巻き込んだライブを展開。〈ooh-ooh…〉のシンガロングが響いた「No Way Back」、フロア全体でハンズアップした「WAGAMAMA MONDAIJI」と畳みかけていく。

“デビューから3年以内に武道館でライブをやる”――そう彼が決意した時はまだコロナ禍で、ライブでは観客が声を出せない状況だった。MCでは「1曲目からイヤモニが吹き飛んだんだからね、みんなのせいだよ!」と笑い、「声聞かせて?」と自身の耳で直接大歓声を受け取る。続けて「俺が大事にしたいのは一体感。今日は皆さんもライブの主役です。一緒に最高のライブを作りましょう!」と呼びかけると、「次の流れを作ってもらおうかな?」とオーディエンスのひとりを指名。次にどんな曲をやってほしいか、3つの候補を挙げ、選ばれた「BYE BYE」を披露した。

「SORRY, I’M A GENIUS -Mega Remix-」では、自身もダンサー4人と一緒に踊りながら歌を届けていく。「今後はもっと踊ります!」とダンスへの挑戦意欲も見せつつ、「生きていると、いろいろやっかみとか言われることもあると思うけど、気にしないでほしい」「だって、評論家の銅像ってないんだよ? ヤバイ生き方をしてるヤツのほうが教科書載ってるの。これだけは負けないっていう武器を見つける生き方をしてほしい」と熱く語りかけた。

中盤、山中拓也(THE ORAL CIGARETTES)がゲストとして登場。新曲の「カミサマキドリ feat. Takuya Yamanaka (from THE ORAL CIGARETTES)」が披露されるという思わぬサプライズに会場が沸くなか、「今日、新曲かなりやってるけど気づいている?」「さらっと言うけど、日付変わったらアルバム出るから」と、自身の誕生日でもある翌日1月18日にアルバム『HERO』をリリースすることを発表し、客席からはさらに大きな拍手と歓声が起こった。そんなアルバムにも収録される「RULERS」を披露した後は、「ようやく日本武道館で歌う日がきたぞ!」と、自身のメジャーデビュー曲「SOBER ROCK」へ。曲が始まる否や大歓声が起こり、〈Oh-oh-oh-oh-oh…〉のシンガロングが会場に響きわたった。

ライブもいよいよ後半に差し掛かった頃、ピアノの音色が響くなかで、Novel Coreは今までの活動を振り返った。15歳でラップを始めたこと、路上で歌っていても素通りされ続けたこと、『高校生RAP選手権』での準優勝は嬉しかったが、同時に厳しい言葉を向けられる機会も増えたこと、世間からのバッシングに苦しむなかで救いだったのはファンの存在だったこと。そして、ある時、物販でひとりのファンがTシャツを買ってくれたのが嬉しかったといい、「離れていく人たちじゃなく、信じてそばにいてくれる人たちのためにステージに立ち続ける」と決めたという。

また、ファンとともに自身の支えだったのが、先輩アーティストの存在だという。そして、自身が所属するBMSGのCEOであり、尊敬するアーティストとして、SKY-HIの名前を口にした。2017年にSKY-HIが武道館2DAYS公演を成功させた際、「自分も続けたらこんな景色が観られる」と思ったという。あらためて彼への感謝を述べ、「俺にとって大事な曲を、どうしてもここで歌いたいです」と語った。

披露された“大事な曲”とは、SKY-HIの「Over the Moon」。〈派手に転んだらさ/足下に月がいた〉――この歌詞は、「SOBER ROCK」の〈寧ろ派手に転ぶ方がRight way〉の引用元でもあるという。歌詞に合わせて、舞台上のスクリーンには月が浮かぶ。曲が終盤になると、ステージが虹色のライトに照らされる。まるで、苦難を乗り越えた末に憧れの先輩と同じステージに辿り着いた、Novel Coreの軌跡を表しているようだった。

さらに、「Letter」「EVE」といった家族への感謝を綴った楽曲を、言葉の一つひとつを噛みしめるように届けていく。この日を迎えられたことに「自信持って言えるよ、幸せです。ありがとう!」と告げると、その喜びを表すように「Green Light」を明るくパフォーマンスした。

終盤では、音楽の道を志したきっかけが合唱コンクールで指揮者を務めたことだったと話し、そこから指揮者を目指すも挫折、ラップに辿り着いたと語る。「夢、叶えていい?」と告げたNovel Coreは、合唱アレンジが施された「THANKS, ALL MY TEARS」「ジェンガ」を披露。ステージ背後のスクリーンには一緒に曲を歌う専門学生たちの映像が映され、時折スクリーンにも顔を向けながら、大勢で一緒に歌える喜びを全身で感じているように見えた。

「しんどくなったら人を頼ってください。ひとりで生きていこうなんて思わないでください」と、オーディエンスへ向けて語ったNovel Core。「『この人なら信じていいかな?』という人を探してください。いないなら、俺がその1人目になります」。そう優しくメッセージを送ると、客席の一人ひとりを見回しながら、ラストに「HERO」を届ける。スマートフォンのライトで美しく照らされた会場を見て、Novel Coreは「俺はこの景色を忘れません。また絶対武道館に戻ってきます」と宣言した。

「あなたのHERO、Novel Coreでした」と告げて彼がステージから去ると、スクリーンに浮かび上がったのは“I AM THE HERO at BUDOKAN“の文字。ライブタイトルに、公演開始前にはなかった“HERO”の文字が付け加えられていた。

「I AM THE」で始まって「HERO」で終わった、自身初の武道館公演。このライブは、Novel Coreというひとりのアーティストが、SKY-HIという“HERO”に出会い、夢を叶えて今度は自分が“HERO”になるまでの軌跡を描いたものだったのだと思う。そして、次は私たちの番だと伝えてくれているように感じた。「HERO」では〈夢を見て 躓いた君の目は僕によく似ていたんだよ〉と歌われているが、この歌詞は自身のことを歌っているようにも、私たちに語りかけられているようにも思える。誰でも“HERO”になれる――ライブを観て、そんなことを教えてもらったような気がした。

(文=かなざわまゆ)

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