朝ドラ『虎に翼』のキーワードは「はて?」 伊藤沙莉「自分自身にもリンクする」

NHK連続テレビ小説『虎に翼』の放送前出演者会見が3月21日にNHK放送センターにて開かれ、主演を務める伊藤沙莉のほか、石田ゆり子、岡部たかし、制作統括の尾崎裕和が登壇した。

本作は、日本初の女性弁護士で後に裁判官となった一人の女性・猪爪寅子を描いたリーガルドラマ。脚本は、NHKよるドラ『恋せぬふたり』で向田邦子賞を受賞し、『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』(テレビ東京系)などを手がけてきた吉田恵里香が担当する。伊藤が演じる寅子のモデルの三淵嘉子は、現在放送中のNHK連続テレビ小説『ブギウギ』のヒロインのモデル・笠置シヅ子と同じ大正3年生まれで、2作連続で同時代が描かれることとなる。なお、今回の会見はマスコミ向けにオンライン試写が行われた上で開かれている。

伊藤は第1週目の完パケを観て、「テンポが良くて、猪爪家の楽しい雰囲気も伝わって、すごく気持ちのいいスタートが切れたんじゃないかと思いました」と満足げな表情で語る。クランクインは2023年9月。日々撮影を重ねるにつれて、「果たしてこれは合ってるのか」「本当にこれでいいのか」と徐々に不安になりかかっていた時に届いた第1週に伊藤は「面白い。よかった。このまま突き進めばいいんだ。なんだ、別にいちいち立ち止まらなくていいじゃないかっていうふうに思えた」と嬉々と語る。

4月1日の放送開始を想像し、「いろんな感想が生まれると思うんですけど、そういうのも踏まえて、全てパワーにできる気がして。放送はとっても緊張するんですけど、すごく楽しみで、自分に活を入れる一つのエネルギーというか、原料になるなっていうふうに今は思っております」とSNSでのエゴサーチも想定内であることを話していた。

伊藤、石田、岡部の3人は撮影を重ね本当の家族のように仲良しに。会見中のフォトセッションの時間にはセットに描かれたイラストに夢中になり3人の時間になってしまう一幕も。石田は娘役の伊藤について「チャーミングでかわいくて、いつもそばにいるのにーー私、毎日のように撮影をしているのですが、彼女のお母さん役をできることがとても幸せなことだなって改めて思いました」と第1週を視聴した感想を述べる。

石田が演じる母・はるは、猪爪家の家計も家事も完璧に管理するしっかり者で、常に現実的で、寅子には早く結婚してほしいと思っている人物。石田は、これまで演じてきた母親役の中で最も強く、厳しい母親だとしつつ、「それがこの旦那さんと娘との関係の中で自然に出来上がる」と語っていた。

伊藤自身が「吉田さんから授かった、聞き心地のいい、耳に残る口癖が1つ2つある」と話しているように、『虎に翼』では寅子の「はて?」というフレーズが第1週よりキラーフレーズとして頻発する。

上川周作が演じる直道が「はて?」をすぐさま自分のものにしているシーンを紹介しながら、伊藤はその「はて?」の意味について語っていく。寅子が直面するのは、女学校在学中に結婚を決めるように急かされ、仕舞いには「女性は無能力者」と言われてしまう現実。それでも女性は本音を言えずに、スンッとした顔でいるしかなかった。

「寅子の意見は現代的で、『なんで?』と素直に言える子なんです。その『はて?』は貴重なもので、私自身も寅子の『はて?』はいつも正しいというか、そりゃそうだよなって思うというか。私の『はて?』の代弁でもあるというか。劇中の『はて?』に対して、疑問を持たずに 『はて?』って言えるんです。寅子の『はて?』は、自分自身にもリンクするので共感しています」と伊藤は『虎に翼』を代表するセリフになるであろう「はて?」の意味合いについて話した。

第1週のラストには六法全書を手にした寅子の周りに様々な立場の女性たちが描かれている。「寅子の成長はもちろん描かれているんですけど、その背景には必ず寅子だけでなく、家族や友達とそれ以上にたくさんの強いたげられてる人たち、困ってる人たちがいたり。そういうのを背負ってやっていくということを、そういった演出で見せていたのは、身も気も引き締まりましたし、掲げたメッセージがしっかりあるところが、私は素敵だなって思いました」と伊藤は細かい部分にもしっかりメッセージが込められていることを伝えた。

会見後には制作統括の尾崎の囲み取材が開かれた。会見中に石田が「法律を扱っていることが、今の時代の日本にもピッタリくる」と話していたことについて、戦前の法律は女性が男性に比べて低い立場にあったことから、現代の視点からでも改めて法律や男性と女性の立場を見つめ直す、考え直す内容になっているのではないかと提案する。

また、岡部は第1話の冒頭で寅子が、法の下に平等であることを定めた日本国憲法第14条を握りしめている後ろ姿に「表情を見せなくても、戦ってきた、信じてきたことが見えて心掴まれた」と話していた。そのシーンについて尾崎は、寅子のモデルとなっている日本初の女性弁護士となった三淵嘉子のインタビュー音声がNHKのラジオの記録から残っていたことを明かす。

そこでは戦後に憲法が新しくできたことで男性、女性の区別がなくなり、自身もそれまではなることができなかった裁判官になることができたのが大きな人生のターニングポイントだったことが語られており、そのエピソードが元になっているのが『虎に翼』の始まりのシーンだという。

(文=渡辺彰浩)

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