『大奥』亀梨和也が一人二役で“人生の重み”を表現 大奥を揺るがす真実が明らかに

自身の出自にまつわる秘密を倫子(小芝風花)に打ち明けた家治(亀梨和也)。あまりに大きな秘密を前になす術を見出せずにいる倫子のもとに、定信(宮舘涼太)から贈り物にまぎれ込ませた文が送られてくる。そこには、血の繋がりを感じずにはいられぬほど、家治にそっくりな歌舞伎役者と出会ったということが記されていた。

最終章に突入した『大奥』(フジテレビ系)第10話では、亀梨和也が一人二役に挑戦。家治と瓜二つの歌舞伎役者・市村幸治郎の登場により、大奥を揺るがす真実が紐解かれていく。

大事なのは血筋じゃないと倫子に励まされたことで出自と向き合う決心をした家治は、城に幸治郎を呼び出す。そこで暴かれるのは、田沼(安田顕)の罪。結論から述べると、家治は正真正銘、9代将軍・家重(高橋克典)の子供だった。

母・お幸の方(紺野まひる)が歌舞伎役者であった桜田真太郎(猪塚健太)と関係を持ったのは家治が生まれた後であり、2人の間に誕生したのが幸治郎。つまり、家治と彼は異父兄弟ということになる。たしかに母親が同じだけあって二人が向き合うとまるで合わせ鏡のよう。けれど、その佇まいや声色は異なる。武家に生まれた家治の凛然とした雰囲気、歌舞伎役者である幸治郎の溢れんばかりの色気。それぞれの人生の重みが一挙一動に乗っていた。

こうして真相に辿り着いた家治は田沼を追及する。お幸の方から相談を受け、権力を得るために幼い家治を騙して自分の言いなりにさせてきた田沼。「そなたはもはや人間ではない! 鬼だ!化け物だ!」と家治は責め立てるが、そこで田沼は初めて人間味のある表情を見せた。

「それがしのほかに、誰がこの国を変えられるのですか?」と家治に問いかける田沼の瞳が潤む。吉宗(伊武雅刀)の時代から側用人として政治に携わってきた田沼。国を良くしたい。その気持ちに嘘偽りはなかった。だが、吉宗の後に将軍職を引き継いだ家重は酒と女色におぼれるばかり。それなのに徳川の血を引くというだけで皆がひれ伏し、庶民の批判は代わりに田沼へ向けられる。どれだけ国に尽くしても手応えの得られぬ虚しさが田沼を変えてしまった。

後悔はないという田沼だが、一つだけ見落としていたことがある。それは心から自分を認めてくれていた者たちの存在だ。吉宗も家重も「田沼を重用せよ」と家治に言い残していた。本来ならば、己の才覚と働きだけで政の要となれていたはずが、田沼は自らの悪事でその功名を汚したのである。田沼に自分が徳川の人間ではないと思い込まされてきたからこそではあるが、家治もまた身分によって分断されぬ世を作りたいと願ってきた。目指す未来は同じであり、田沼が悪事に手を染めさえしなければ、2人は手を取り合うことができただろう。

「それでも悔いはないか」という家治の問いかけに田沼の中で張り詰めた糸がプツンと切れたように見えた。家治は田沼に蟄居閉門を命ずる。もしかしたら田沼自身も背負うものの重さに耐え切れず、罪が暴かれる日をどこかで待っていたのかもしれない。

倫子と家治に立ちはだかる壁が一つ陥落し、残るは定信だけとなった。だが、この国を良くするという名目のもと罪を重ねてきた彼もまた田沼と同類だ。大奥で壮絶ないじめを受けていた松島(栗山千明)が自分を救ってくれたお幸の方から託され、家治を守るため鬼の皮を被ってきたように、そこには必ず鬼になった理由がある。苦しい時代であればなおさら、綺麗な心を保つのは難しい。

もしかしたら、倫子や家治だって何かが一つ違えば鬼になっていたかもしれないのだ。けれど2人は出会い、今もなお互いに向けられた愛情によって清い心を保てている。倫子への思いも遂げられず、自分を慕ってくれた猿吉(本多力)も失った今、一人でか細く立つ定信にも拠り所となる存在がいたらと思わなくもない。

しかし、悪事は必ず明るみになるもの。猿吉の遺体から遺書が見つかり、裏で彼を操っていた存在に家治が気づく。大奥全体を巻き込んだ最後の戦いを見届けたい。

(文=苫とり子)

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