ヤーレンズが「M-1」に手応えを感じた瞬間「煌びやかなスタジオだけど、別世界ではない」

ヤ―レンズ 撮影:武田敏将

M-1グランプリ2023の結果発表、最後の最後まで優勝者がわからない劇的な展開で優勝者が決まった。準優勝のヤ―レンズは、すでに今年のM-1に向けて再びしゃべり続けている。二人の目的は……もっと長く漫才をしたい。彼らの「THE CHANGE」に迫る――。【第2回/全3回】

――伊集院光さんがヤーレンズを応援しているとか。

出井 「『伊集院光とらじおと』(TBSラジオ)でリポーターをやらせていただいたことがきっかけだと思います。ネタに関してアドバイスされたことはないんですけど、仕事に対するスタンスを学ばせていただきました。期待を裏切り続けてきたので、決勝に進んだ時は伊集院さんも喜んでくれたかなと思いました」

――M -1グランプリ2022の敗者復活戦は手応えがありましたか?

出井 「勢いが上向いた感覚はありました」

楢原 「去年より22年のほうが、予選でお客さんの後押しが強かったんです。1回戦からずっとウケて、3回戦はいまだにすゑひろがりずさんから「ウケすぎや」と言われるくらいだし、準決勝は後の出番だったモグライダーさんは「ヤーレンズがウケすぎて割を食った」とボヤいてました。でも、去年は2回戦、3回戦が「あ~、ヤーレンズね」という反応で、準々決勝でやっとウケた、という感覚なんです」

――予選を観覧するお笑いマニア的には、去年は「もうヤーレンズが面白いことはわかってるから」という感覚だったのかもしれません。とはいえ、決勝は山田邦子さんが「どこにいたの?」と言うような環境になるわけで。

楢原 「(博多)大吉先生にも知られていませんでしたから(笑)」

出井 「そこに断絶があるんです。最近はオタク文化が浸透して、ありがたい面もあるけど、壁にもなっているというか。いかにマニア層を突き破って大衆に届けるか、というのが課題になっていると思います」

楢原 「僕らはお笑いオタクに媚びるようなことはしないスタンスですから」

出井 「オタクに生活を握られないように(笑)」

楢原 「塩対応です(笑)」

出井 「それはよくないけど。去年も“大衆に届けたい”という気持ちで決勝戦に臨みました」

煌びやかなスタジオだけど、“別世界ではない”

――YouTubeチャンネルの振り返り動画を観ると、二人とも現場にいながら客観視していたようですが。

楢原 「普段のライブと同じような感覚でいられたんです」

――豪華なセットに怯んでしまうこともなく。

出井 「確かに煌びやかなスタジオだけど、“別世界ではないから”と自分に言い聞かせて。まぁ、裏を観たら木の板ですから(笑)」

楢原 「それに、セットを観ながらネタをやるわけじゃなくて、観覧で入った200人も満たないお客さんの前でネタをやるので、いつものライブと変わらないなと。長年売れなかったことがプラスになったと思います」

出井 「いろんな劇場に出てきたので、新しい場所で漫才することに慣れていたんです」

楢原 「しかも、まわりにいる芸人はみんな友だちという。(取材場所に貼ってあるポスターを見て)M -1グランプリ2018に出ていたら、先輩ばかりで話せる芸人はいなかったですよ」

――1本目の「引っ越し」では、『北京原人』という若い子は知らないワードを入れましたが。

出井 「僕のゴリ押しだったと思います。「つまらないもの」と言って本当につまらないものを出してくる。実写版『ドラゴンボール』とか実写版『デビルマン』もあるけど、『北京原人』が一番つまらないし、知らなくても言葉のリズムで笑ってくれるかなと思ったんです」

楢原 「『シベリア超特急』も候補にあったけどね」

出井 「そうそう」

楢原 「僕自身はこれといって言いたいことがないんです。ウケればいい。ただ、言いたいことがある人の言葉のほうが、魂が乗って面白く聞こえるはず。出井の言いたいことがあれば尊重してます」

――手数にこだわってますか?

楢原 「言いたいことはないんですけど、いっぱいふざけたい人ではあるので、手数は重視しているというか、隙があればボケたい。ネタ見せで、講師の方に“そこはボケなくていいよ”と指摘されることもあったけど、変なことを言い続けたいんです」

――08年と09年のM -1はNONSTYLEとパンクブーブーに代表されるように手数の時代でしたよね。

出井 「10年はスリムクラブさんがボケ数を絞ることで目立って。15年の再開後は、伏線回収ネタが多かったり」

楢原 「伏線回収ネタは苦手というか、伏線のところでボケちゃうから回収できなくなっちゃう。伏線を張ってる暇があればボケたいんです」

取材・文/大貫真之介

左:楢原真樹(ならはら まさき)。1986年11月17日生まれ、大阪府出身。
右:出井隼之介(でい じゅんのすけ)。1987年3月2日生まれ、神奈川県出身。
NSC大阪校28期生の楢原と29期生の出井が2011年9月に「ヒートアップ」を結成し、後に「パープーズ」に改名。2014年に「ヤーレンズ」へと2度目の改名。M-1グランプリ2023で準優勝。

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