『グエムル』『トトロ』インスパイアなタイ産モンスター映画!?『ザ・レイク』は秀逸クリーチャーデザインも必見

『ザ・レイク』© 2022 HOLLYWOOD (THAILAND) CO., LTD.

タイ発おっぴろげモンスター映画

近年すぐれたホラー・スリラー映画などを送り出している東南アジアはタイの映画界から、ついに本格モンスターパニック映画が登場。その名も『ザ・レイク』(2022年)はハリウッド顔負けのSFX技術が光るモンスターのリアルさと、往年のモンスター映画から日本の国民的アニメまで、臆面もなく“オイシいところ”を頂戴した仕上がり。もっと検索しやすいタイトルにしてくれれば、と勿体なく思ってしまうほどの良作だ。

田園がひろがる美しい村。ある日、村に住む少女メイが大きな卵を持ち帰ってきた。家族は「元に戻しなさい」と忠告するが、メイはそれを聞き入れず行方不明に。さらに村には突如、謎の怪物が出現し、多くの人々が犠牲になってしまう。やがて怪物は都市部にも出没し……。

つまり、未確認生物が卵を取り返すために人々を襲う=それと戦う主人公たち、というパニック映画であり、モンスターと心を通わせてしまった少女の物語でもある、王道の(?)ストーリーが繰り広げられる。各登場人物の描き方はやや散漫だが、色んな名作映画から印象的なシーンのアイデアをごっつぁんすることで、どこかで見たことはあるけど安っぽくないという、絶妙な塩梅になっている。

『グエムル』や『ジュラパ』、あの国民的アニメまで…?

本作は“モンスター登場”までをダラダラと引き伸ばすようなことはせず、開始から3分ちょっとでガッツリほぼ全身を披露。エメリッヒ版『GODZILLA』(1998年)っぽい造形でありながら、湿地帯~湖に生息しているためか『WXIII 機動警察パトレイバー』(2002年)や『グエムル -漢江の怪物-』(2006年)の“アレ”のように両生類っぽさも意識していることが、その10分後くらいにはサクサクと判明。しっかり2足歩行にしたところには賛否あると思うが、とにかく出し惜しみしない姿勢に好感が持てる。

ゴジラ映画インスパイア的な“背びれチラ見せ”ショットに始まり、河川敷で人々が襲われる『グエムル』風シーン、沼地で一人づつ狩られる『プレデター』(1987年)風シーン、大雨のなか車内で息を潜める『ジュラシック・パーク』(1993年)まんまなシーン(アニマトロニクスによるモンスターヘッドの迫力がスゴい!)などなど、思わずニヤリとしてしまう“ごっつぁん”が続々登場。幼い少女の名前が「メイ」で、しかもヘソを曲げて家を飛び出したあとに湖でサンダルだけが発見されて……というシークエンスはまんま『となりのト◯ロ』で苦笑してしまう。

モンスターデザインは米ジャンル映画界の匠ジョド・シェル!

タイ映画としてはかなりの製作費が投入されているそうだが、とくに人間とモンスターが直接絡むシーンは誤魔化し感が否めない。とはいえ、その間の“つなぎ”がテキパキしている=サクサク襲われて被害者が続出するのでそれほどダレることがなく、観客目線で作られていることがよく分かる。また、登場人物とモンスターの間に“感染/呼応”という紐づけをすることで、ダメ押し的に隙間を埋めていく。それらを全てしっかり回収する気があるのかといえば、そうでもないのだが……。

なおモンスターデザインは、『死霊のしたたり2』(1990年)や『ガイバー』(1991年)、『ヘルレイザー4:ブラッドライン』(1996年)、『ギャラクシー・クエスト』(1999年)、『ヘルボーイ』(2004年)、そして『メン・イン・ブラック』(1997年)や『アバター』(2009年)といった大作、さらにエイフェックス・ツインのミュージックビデオなども手掛けてきた特殊メイク/スカルプター、ジョド・シェル(Jordu Schell)によるもの。最初からしっかり“見せる”ことを考えたうえで彼にデザインを依頼したのだろうし、最後まで観ればそれが大正解だったことが分かるはずだ。

また、『オンリー・ゴッド』(2013年)の日本刀カラオケ私刑おじさんでおなじみ、ヴィタヤ・パンスリンガムの出演も嬉しいところ。さすがの存在感で画面を引き締めてくれる、というか良くないことが起こりそうな気配をイッキに増幅させてしまうのはさすがだ。

『ザ・レイク』はCS映画専門チャンネル ムービープラス「YKK AP ムービープラス・プレミア」で2023年3月放送

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