『ドクタースランプ』は人生の応援歌 パク・ヒョンシク×パク・シネが見せた最高のケミ

「たとえ願った時と場所で宝物が見つからなくても、人生にはきっと意味がある」
「明日かあるいは次の場所で幸運が私を待っていると信じることにしたのだ」

Netflixで配信中の『ドクタースランプ』。パク・ヒョンシクとパク・シネが人生のスランプに陥った医師を演じて、互いに支え合いながら立ち直っていく姿を描いたヒーリングロマンス作品が、感動の幕を閉じた。本稿では第15話と最終話を紹介する。

ヨ・ジョンウ(パク・ヒョンシク)は、ナム・ハヌル(パク・シネ)にプロポーズをするが、ハヌルからは返事がもらえずヤキモキする。そんな最中、ハヌルに海外行きの話が持ち上がり、ジョンウは嫌でたまらない。しかし、ハヌルのためを思い、彼女の夢を応援することに。ハヌルの海外行きまでの1カ月間で、ふたりはこれまで以上にデートを重ねることにする。ジョンウは、覚悟を決めてハヌルを送りだすつもりだったが、ハヌルの海外行きが取り消しになってしまう。ハヌルの気持ちを思い、憤慨するジョンウだが、ハヌルは以前とは違い、上司に自分の思いを毅然と伝えることができた。

ハヌルの海外行きの話で、表面上は平静を装おうとするジョンウの家での様子が可笑しくてならない。本作は、全編を通して、パク・ヒョンシクのコメディ演技の秀逸さが、観る人を笑わせ、和ませ、癒しになっていた。愛嬌があり、コミカルさも併せ持つパク・ヒョンシクの演技は観ているだけで頬が緩む。パク・シネとの仲良しカップルぶりは、学生の恋のようなラブリーなシーンが盛りだくさんで、パク・ヒョンシク&パク・シネの抜群のケミの良さをたっぷりと堪能することができた。

ジョンウもハヌルも、共に支え合いながら、無事にスランプから抜け出すことができ、新たに人生を歩みだす。ハヌルは、心療内科で今の状態の検査を受ける。そこでハヌルは、「私は幸せだ」「心は平穏だ」という設問に「そう感じる」、「自分の将来を悲観している」「自分にガッカリしている」「私の人生は失敗ばかりだった」には「そう感じない」を選ぶ。もうハヌルは大丈夫だ。ハヌルは、主治医(イ・スンジュン)から、回復したと告げられ、「あなたはもう自力でトラウマを克服できます」「この先は今日までの努力があなたを守ってくれる」と温かい言葉をもらう。

もう通院しなくていいと言われ、主治医から見送られたハヌルは、待合室にいる患者たちを見回す。すると主治医は、「本を読みに図書館へ行き、絵を見に画廊へ行くように、皆さん治りたくてここに来るんです。だからきっと回復します」と言う。「回復とは幸せになるということ?」と問うハヌルに、主治医は「いいえ。不幸に強くなるんです。“またつらい目に遭っても大丈夫”“どんな不幸が訪れても耐えられる”と信じる力です」と答えた。この言葉は、人生という大海原で、時には荒い波に揉まれ、大きな壁を前に途方に暮れることもある私たちに、お守りのように響く言葉ではないだろうか。人生が薔薇色の幸福だらけであればどんなにいいだろうか。しかし、人生は酸いも甘いもあり、そのどれもが自分自身を鍛え、強くしてくれる。時には折れそうなこともあるけれど、そんなときは、図書館や画廊に行くように、心療内科で心が回復するのを待つのだ。そして、また人生を諦めずに、自分を諦めずに道を自分のペースで歩いていく。

ジョンウとハヌルだけでなく、ハヌルの弟バダの長いスランプ期も終わりを迎えた。これまで何をやっても続かなかったバダが、叔父テソン(ヒョン・ボンシク)の店で働くようになり、初めてもらった給料で姉に食事を奢り、母ウォルソン(チャン・ヘジン)には高価なバッグを買ってあげようとする。そんなバダがいじらしい。

結局、ウォルソンは高価なバッグではなく、財布を買ってもらうのだが、母と息子のやり取りにじんわりさせられる心温まる場面だ。医師である“できた姉”のハヌルと自分を比べるバダに、ウォルソンはバダを身ごもったときに「海にかかる虹の夢を見た」と話し、バダに「母さんにとってあんたは輝く海にかかる虹よ。自分自身が輝ける道を探しなさい」と愛情を示す。不甲斐ない息子が心配で叱ってばかりいたウォルソンの満面の笑みと、自分の進む道がわからずにいたバダの明るく希望に満ちた笑顔に、こちらも嬉しくなり心が温まる。全編を通じて、コメディ担当のバダだったが、バダにもしっかりと歩いていく道が見えそうで嬉しくなった。

ジョンウは、新たに自分の病院を開業し、完全にスランプから脱した。ハヌルもまた、医師として以前とは違って毅然と働くことができ、ジョンウとの結婚に向かい、スランプから抜け出した。共にスランプに落ち、支え合いながら人生の大きな壁を乗り越えることが出来たジョンウとハヌル。ジョンウは、ギョンミン(オ・ドンミン)の死も「悲しみに溺れず思い出を大切にすることも覚えた」と乗り越えることができたのだ。「不幸が訪れてもそばに必ず幸せもある」「悲しみや苦しみに耐える強さを手に入れた。それさえあれば十分だ」とジョンウは前に向かって歩みだす。

本作は、第1話から珠玉の言葉が紡がれ、観る人の心に響くヒーリング力のある作品だった。スランプから登場人物たちが立ち直っていく姿に共に癒され、勇気づけられた人もいるのではないだろうか。パク・ヒョンシクとパク・シネが演じたジョンウとハヌルのカップルは、これからもずっと学生のようにラブラブしながら、共に手を携えて人生を歩んでいくだろう。

『恋のゴールドメダル~僕が恋したキム・ボクジュ~』『その男の記憶法』などのヒット作を生み出したオ・ヒョンジョン監督と、『キム秘書はいったい、なぜ?』『九尾の狐とキケンな同居』の脚本家ペク・ソヌが描いた世界は、パク・ヒョンシク&パク・シネという最高のケミを誇るカップルによって、視聴者をときめかせ、癒し、温かな気持ちを抱かせて美しく幕を閉じた。
(文=にこ)

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