【3月22日付社説】農作業の事故防止/周囲の安全確認を忘れずに

 毎年、農作業が忙しくなる春先に事故が増える傾向にある。安全を最優先に作業に取り組み、不慮の事故を防ぎたい。

 農林水産省によると、国内で2022年に農作業中の事故で亡くなった人は238人に上る。農業従事者10万人当たりでは11.1人となり、全産業平均の1.2人を大きく上回った。危険な作業が伴う建設業の約2倍だ。

 建設業や製造業などの他産業に比べ、農林業の多くは家族や個人で従事している。会社などと異なり、作業前の点検や安全確認の仕組みや手順が整っておらず、実践されていないことも、死亡事故の多い背景にある。

 大事に至らずとも、大きなけがなどを負うケースが少なくない。一人一人の農業従事者が日頃から安全意識を高め、作業手順の確認や機械の点検を徹底するなど、事故につながるリスクを減らす取り組みが求められる。

 単独で作業をしていると、事故の発見やけがの手当てが遅れ、命に関わる。なるべく複数で作業し、1人の場合も家族らに作業内容などを伝えるよう心がけたい。

 県とJAグループ福島によると県内で23年に発生した8件の農作業中の死亡事故のうち、7件が農業機械に起因し、トラクターやフォークリフトを運転中に転倒、機械に挟まれるなどした。過去10年間に発生した84件の死亡事故のうち、農業機械による事故は全体の8割近くを占める。

 乗用型トラクターなどは傾斜地に限らず、平地でも軟弱な地盤や障害物があるとバランスを崩して転倒するという。乗用型の農業機械ではシートベルトの着用時に比べ、非着用時の死亡率は約8倍になる。転倒や転落して体が投げ出され、機械の下敷きになるケースもある。公道を走行しないときでもシートベルトやヘルメットを着用し、命を守ることが大切だ。

 近年、増えているのは歩行型トラクターでの事故だ。後進時にビニールハウスの支柱や樹木との間に挟まれたり、転んだりしてロータリーに手や足などが巻き込まれたりする人が多いという。

 歩行型トラクターは、家庭菜園などで使用している人もいる。後進にギアを入れるときは、背後に障害物がないか確認してほしい。

 農水省によると、22年に農作業中の死亡事故で亡くなった人は65歳以上が86%を占めた。県内の農業従事者の半数以上が65歳以上で死亡事故の発生リスクが高い。自身の体力や判断力を過信せず、不慣れな農機の使用や危険な場所での作業を回避してもらいたい。

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