老後の貧困を全力回避…年金繰り下げ+75歳までシャカリキ就労→年金月額33万円に感涙も、人生最後の番狂わせに「なにかの間違いでは?」

(※写真はイメージです/PIXTA)

多くの人が頭を痛めている、老後資金の問題。年金の繰り下げ受給をおこなえば、最大84%まで増額可能だが、それに伴い、さまざまな負担も増加することはご存じだろうか。基本的な部分を見ていこう。

平均的な元会社員夫婦、年金収入のみでは家計が赤字に

厚生労働省『令和4年度厚生年金保険・国民年金事業の概況』によると、国民年金の老齢年金受給者の平均年金月額は5万6,428円であり、基礎のみ、共済なし・旧国年の老齢年金受給者の平均年金月額は5万1,607円だった。

厚生年金保険(第1号)の老齢給付の受給者の平均年金月額は、併給の老齢基礎年金を含めて老齢年金が14万4,982円であり、65歳以上の受給権者の平均年金月額は、男性が16万7,388円、女性が10万9,165円だった。実際の手取り額は額面の85~90%となることから、厚生年金受給者の場合、男性は14.2万~15.0万円、女性は9.2万~9.8万円程度になる。

一方、65歳以上の夫婦のみ世帯の1ヵ月の生活費は25万0,959円だ(総務省『家計調査 家計収支編』〈2023年平均〉)。

ここからわかるのは、平均的な元会社員夫婦の場合、年金収入のみでは毎月1万~1.5万円程度の赤字になるということ。不足分は貯蓄で対応することになる。

長生きすることによって、準備していた老後資金が底を突き、困窮――。まさにこれが「長生きリスク」なのだが、これを回避するには、平均寿命を大きく上回っても心配ないほどの老後資金を形成するか、もしくは極限まで生活を切り詰めるか、就労する期間を延長するしかない。

とはいえ、それほど多くの老後資金を準備するのは一般のサラリーマンには難しく、また、節約するにも限界がある。そうなればやはり、定年退職後の就労が一番現実的な選択肢となるだろう。

総務省の『労働力調査』によると、原則公的年金がもらえるようになる65歳以上の就業率は25.2%であり、「65~69歳」は50.8%、「70~74歳」は33.5%、「75歳以上」でも11.0%が就労している。いまや70代の3人に1人が働いているのである。

必死で働き、年金の受取額を増やしても…

年金を受給できる年齢となっても就労を続ける高齢者のなかには、自分の稼ぎだけで生活できる人もいる。そういった人たちは「年金の繰下げ受給」をしているケースが多い。

年金の繰り下げ受給とは、原則として65歳から受給できる年金を、66歳~75歳までの間で繰り下げて受給することで、年金を増額して受け取れるという制度。1ヵ月繰下げるごとに年金が0.7%ずつ増額され、最大84%まで増額できる。増額された年金額はその後、一生変わらない。なお、老齢基礎年金と老齢厚生年金は別々に繰り下げることが可能だ。

たとえば平均的な元会社員夫婦の場合、75歳まで繰り下げることにより、65歳時点で「16万7,388円」だった夫の年金額は「30万7,993円」に、「10万9,165円」だった妻の年金額は「20万0,863円」に増額される。合計すれば月50万円と、およそ2倍近い金額になる。ここまで増えたなら、まさに感涙ものだろう。

だが、留意すべき点がある。収入が増えれば、税金や社会保険料も増額されるのだ。いざ受け取ったとき、天引きされた金額に驚いてしまうかもしれない。

もうひとつが「医療費負担」の増大だ。仮に、夫の年金が65歳時点で「18万円」だった場合、75歳まで繰り下げると「月33万1,200円」、年間「397万4,400円」になるが、この場合夫は「現役並みの所得者」となり、医療費負担は3割になる。

「現役並みの所得者」とは、課税所得が145万円を超えたケースを指す。課税所得は公的年金控除などの各種控除を引いたあとの金額で、収入に直すと383万円未満、月換算31万9,100円未満となる。75歳以上の医療費負担は「年金とその他の合計所得金額」が「年200万円未満」で1割負担、「年収200万~383万円未満」で2割負担、「年収383円以上」だと3割負担。繰下げ受給制度を利用することで年金収入が増え、基準を超えると、医療費の負担額も増えてしまう。

医療費の自己負担割合は、該当する年度の住民税の課税所得によって決定されるが、繰下げ受給で増額率が決まれば、その後は生涯変わらないことから、以降の課税所得が変わることは考えにくく、そのため、医療費の自己負担額も変わらない可能性が高いだろう。ちなみに、妻の課税所得がゼロの場合も、夫の課税所得が145万円を超えていれば、夫婦とも自己負担割合は3割になる。まさに「なにかの間違いでは」といいたくなる数字だ。

年齢を重ねれば、だれでも病気のリスクが上がる。せっかく無理を重ねて年金額を増やしても、夫婦で大病すれば水の泡だ。

年金額は増えるのは魅力的だが、残念ながら、それに伴う様々な負担も増えてくる。それらの点と自分の健康状態を包括的に考えて、年金受給のタイミングを決定することが重要だろう。

[参考資料]

厚生労働省『2022年 国民生活基礎調査』

厚生労働省『令和4年度厚生年金保険・国民年金事業の概況』

総務省『家計調査 家計収支編』(2023年平均)

総務省『労働力調査(基本集計)2023年(令和5年)平均結果』

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