ハードワーク、だけじゃない。攻撃でも違いを見せた前田大然が、北朝鮮戦で打った布石。フル出場は指揮官の信頼度が高まった証拠だ

[W杯予選]日本 1-0 北朝鮮/3月21日/国立競技場

先のアジアカップで8強敗退という大きな挫折を経て、チーム再建が求められる日本代表。2026年北中米ワールドカップに向け、再出発となった3月21日の北朝鮮戦(アジア2次予選)では、力強い一歩を踏み出さなければいけなかった。

特に不安視されたのが、伊東純也(スタッド・ドゥ・ランス)と三笘薫(ブライトン)の両ウイングの不在。右に関しては、アジアカップで存在感を示した堂安律(フライブルク)がいるからまだいいが、左はなかなか代役が定まらない状況が続いていた。

森保一監督は昨年3月の第二次体制発足後、非凡な得点力を誇る中村敬斗(スタッド・ドゥ・ランス)を重用。彼自身も8戦6発という結果を残してきたが、個の打開力という部分では見劣りするところも少なくない。

中村が怪我で不在だった11月シリーズでは相馬勇紀(カーザ・ピア)と浅野拓磨(ボーフム)を抜擢したが、これも確固たる解決策ということにはならなかったのだろう。今回も彼ら3人を含めてどうするかが注目されていた。

そこで、森保監督が北朝鮮戦で抜擢したのが、前田大然(セルティック)だった。指揮官はアジアカップのイラン戦でも前田を左サイドで先発起用。“鬼プレス”を武器とする韋駄天は、ロングボール供給の起点となっていた相手右SBレザイアンを阻止する仕事を全うした。

前田がベンチに下がってからイランの蹴り込みサッカーが威力を増し、最終的に日本が1-2で屈することになったのを考えると、森保監督も前田の重要性を再認識したはずだ。

今回も前田は強度の高い守備を試合開始から前面に押し出した。開始2分の田中碧(デュッセルドルフ)の先制弾も、前田のボール奪取がきっかけ。田中が左サイドのポケットを取って右に展開。堂安が折り返したところに南野拓実(モナコ)が詰め、このこぼれ球を再び堂安が拾ってマイナスに折り返したところに田中が飛び込み、鮮やかなシュートでネットを揺らした。

この直後にも前田は自らのボール奪取から決定的なシュートを放つ。これはわずかに枠の外。「あれを決めたら、もっと楽な試合になったかなと。そこは反省しないといけない」と本人も申し訳なさそうにコメントしていた。

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ただ、この日の前田の勢いはとどまるところを知らなかった。単にハードワークや守備で存在感を示すだけでなく、ドリブル突破で敵をはがし、伊藤洋輝(シュツットガルト)との縦関係から効果的な崩しを披露。おしゃれなヒールパスからチャンスをお膳立てするシーンもあった。

「ハードワークだけでも、もちろんチームは助かりますけど、それプラス、何かを見せないといけないのは、アジアカップが終わってから自分の課題かなと思っていた。自分はスピードがあるので、それを活かさないのはもったいない」と前田も語ったが、それは昨季から今季にかけてセルティックで指導してくれたハリー・キューウェル・コーチ(現横浜監督)から口を酸っぱくして言われたことでもある。

「なぜ仕掛けないんだ」と毎日のように言われ、試合後には映像を見ながら長時間、オン・ザ・ボールの課題に向き合ってくれた恩人の教えを、前田は愚直に実践し続けたという。

第二次森保ジャパンでもサイド要員として位置づけられるようになったが、指揮官の信頼はなかなか得られない。前田も「代表ではまだまだということだと思う」と自信を持てずにいた。

しかしながら、イラン戦で必要な選手だと印象付け、今回は攻撃面でも異彩を放った。となれば、「三笘不在でも前田で十分にいける」という評価になっても当然だ。

今後のことは未知数ではあるが、彼がドリブルの突破力を磨き、フィニッシュの精度を高め、“爆発的なスピードでチャンスメイクもできて、点も取れる選手”になれれば、三笘に匹敵する存在になることもあり得る。北朝鮮戦ではそれだけの大きなポテンシャルを示したと言っていいだろう。

チームとしてもイラン戦の反省を踏まえ、早めに5バックにして守り切ったことは1つの前進だろう。前田もフル出場し、最後まで強度の高い守備と一瞬のスピードを示し続けた。

これまではスタメン起用されても早い時間帯に交代することが多かったが、このフル出場は森保監督の信頼度が高まった証拠でもある。この調子で攻守の両局面でプレーの幅を広げ、常に脅威を与え続けられるアタッカーになってくれれば理想的。

20代後半になってブレイクする選手は昨今、少なくないだけに、前田にもここからピークを迎えてほしいもの。彼は北朝鮮戦でその布石を打ったのではないだろうか。

取材・文●元川悦子(フリーライター)

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