shallm、紫 今&大宮陽和と示した新時代の息吹 liaの底知れぬ才能が弾けた2ndライブを観て

自ら作詞・作曲を手がける現在19歳のボーカリスト liaによるバンドプロジェクトshallmのライブイベント『shallm 2nd Live - アイオライト -』が、3月10日、東京・恵比寿LIQUIDROOMで開催された。

2023年9月にユニバーサルミュージックよりメジャーデビュー、同年12月には代官山UNITでの初ワンマンライブ『shallm 1st Live - liliana -』を成功させるなど、順調にステップアップしているshallm。2024年に入って初のアニメタイアップ曲「まっさかさマジック!」(TVアニメ『姫様“拷問”の時間です』OPテーマ)も話題となるなか、前回よりもさらに会場の規模を増した今回のライブでは紫 今と大宮陽和を迎え、それぞれが新しい時代の息吹を感じさせるステージを見せてくれた。

この日のオープニングアクトを務めたのは、長崎県在住のシンガーソングライター 大宮陽和。アコースティックギターを抱えて裸足でステージに現れた彼女は、弾き語りで4曲を披露。1曲目の「東京noisy」から、可憐な見た目とは裏腹のささくれだったパフォーマンスで強烈なインパクトを与える。〈「私は一体何者なんですか」〉というフレーズが胸に刺さる「404」、学生時代の辛い気持ちを救ってくれた地元の真っ白な空や海を思って書いたという「真白の空」と続け、最後は彼女の現時点での最新リリースとなる配信シングル「リゼントメント」で締め。特に「リゼントメント」で、時に歌声がうわずることも厭わず、己を剥き出しにして言葉をぶつけ、終盤で膝をつき、ステージに倒れ込みながらギターを弾き続ける姿には鬼気迫るものがあった。筆者は彼女のライブは初見だったのだが、音源とはまた趣きの異なる弾き語りならではのフォーキーかつアグレッシブなアレンジ、鋭敏な感性がひしひしと伝わってくるステージングは、現場でしか体験できない魅力と緊張感があったように思う。

続くゲストアーティスト、紫 今の出番。暗幕が下りたままのステージから紫 今の歌声だけがアカペラで響きわたり、会場の空気感を一気に塗り替える。フェイクやアリアナ・グランデばりのホイッスルボイスを交えたその一節だけで、彼女が卓越した歌唱センスとボーカルのコントロール力、R&Bやゴスペルのフィーリングに近い豊かな声量とリズム感を持っていることが伝わる。そして暗幕が開くと、ステージには紫 今、ベーシスト、ドラマーの3人。サウンドは他の音を同期させながらも、リズム隊は生演奏というのが彼女のこだわりなのだろう。実際、1曲目の「酔い夏」から、会場の空気を震わせるほどの太い低音が作り出すグルーヴと、それに反応しながら気持ちよさそうにメロディを紡ぐ紫 今の歌声が、極上のアンサンブルを生み出していた。

以降も、ソウルフルな歌声とヨコ乗りのリズムアプローチがマッチした「エーミール」、蠱惑的にも威圧的にも響くダークポップ「Not Queen」、ライブ初披露となったKOYOINY名義の楽曲「青と棘」(作詞作曲はjon-YAKITORY)と刺激的な楽曲を次々と披露。そこから、あたたかくも感傷的なミディアムナンバー「夢遊病」、「Soap Flower」を挟み、バラードタイムへ。TVアニメ『青の祓魔師 島根啓明結社篇』のEDテーマ「学級日誌」では、中盤で聖歌隊のような声も聴かせながらドラマチックに歌う。そのアウトロで学校のチャイム音が鳴ると、電話のダイヤル音が重なって次曲「無言電話」に繋ぎ、エモーショナルな歌声を届ける。その後はジャジーな「ゴールデンタイム」、陽気でノリのいい「フラットライン」、昨年に話題を呼んだ「凡人様」とアッパーな曲を連続で畳みかけて完走。安定感抜群の歌声と一切の物怖じを感じさせない堂々としたパフォーマンス、洋楽のフレイバーを取り込んだモダンなアレンジなど、新しい才能の登場を感じさせるステージだった。

そして今回のライブの主役となるshallmが登場。この日のライブをサポートするのは、バンドマスターのえなっちこと鈴木栄奈(Key)、ゆうこりんこと石川裕大(Gt)、あさちゃんこと浅倉高昭(Ba)、のぞのぞこと北村望(Dr)。liaは愛用の白いエレキギターを手にして「お久しぶりです、shallmです。どうぞよろしくお願いします」と挨拶すると、初手から熱量高いロックチューン「stardust」を投入して会場のボルテージを一気に引き上げる。バンドのドライブ感溢れる演奏と、それを牽引するように力強く響くハイトーンボイス。楽曲ごとにさまざまな表情を見せてくれるのがshallmの魅力のひとつだが、この曲ではliaのロックボーカリストとしての真骨頂が見られたのではないだろうか。

そんなかっこいい佇まいから一転、MCでは等身大の自分を見せてくれるのも彼女のいいところ。笑顔は見せつつもやや緊張した面持ちで、今回のライブのタイトル『アイオライト』に込めた意味を説明する。多色性の鉱石であるアイオライトの石言葉は“人生の道標”。“自分の人生を正しい方向に導いてくれる”という意味があり、この日のライブに迎えた紫 今と大宮陽和は彼女にとってそんな存在でもあることが、『アイオライト』というタイトルにした理由のひとつだという(紫 今がMCで語っていたところによると、liaは何年も前から、彼女の弾き語り動画を観ていたらしい)。それと同時に、shallmを含むこの日の出演アーティストたちの音楽を現場で体感した観客それぞれの“人生の道標”になれば、という願いも込められているのだろう。彼女は「(先の2組のライブを観て)満足感たっぷりなんですけど、shallmは今からライブします!」とあらためて宣言し、ここから会場をさらに熱く盛り上げていく。

2曲目「メーベル」は、ボカロPのバルーンこと須田景凪の楽曲のカバー。liaの音楽的ルーツにはボカロ曲やアニソンがあり、shallmのYouTubeチャンネルにも彼女が好んで聴いてきた楽曲のカバー動画がアップされているが、「メーベル」はそのうちの一曲でもある。高低差の激しいメロディ、それがリズムと有機的に絡み合う捻りのきいたアンサンブルなどは、彼女の作る音楽にも通じることが再認識できた。そこからセンチメンタルな「ハイドレンジアブルー」、シンセブラスのゴージャスな音使いとliaの艶めかしくもパワフルな歌声が鮮烈だった「白魔」、迷いや不条理を断ち切るようなエネルギーに満ちたアップチューン「境界戦」を続けて披露。特に「境界戦」は、liaの好きなアニソン的なギミックがふんだんに盛り込まれていて、ファルセットと地声のあいだを行き交うようなミックスボイスの響きがエモーショナルな景色を描き出していた。

そして、彼女はこの日配信リリースされたばかりの新曲「花便り」をライブ初披露した。アイオライトの石言葉にちなんで制作したというこの楽曲。彼女は「自分の道を示してくれた人に宛てて書いた曲です。皆さんのなかには、自分を形作ってくれたような人はいますでしょうか」「それが友達だったり、恋人だったり、家族だったり、はたまた会ったことのない有名人やアーティストだったりすると思うんですけど、ぜひ皆さんのなかにいる、あなたを形作った大切な人のことを思い浮かべながら聴いてください」と客席に向けて呼び掛けると、このライブでの出会いを含む自らを形成してくれたすべての人々への感謝の想いを届けた。

その感動的なパフォーマンスに続いて、ノスタルジックな旋律が胸を打つミディアムバラード「短夜の星」を歌うと、青春の焦燥感がそのまま形になったようなアップチューン「if 1/2」に繋げ、手を振ったりハンドクラップして盛り上がる会場に切なくもあたたかな風が吹き抜けていく。その後のMCで、ライブグッズやバンドメンバーの紹介、「花便り」を皮切りに8月まで6カ月連続で配信リリースを行うことを告知すると、ここからはラストスパート。彼女が影響を受けたとたびたび語っている米津玄師(ハチ)の「マトリョシカ」では、ピックを客席に投げるサービスもしつつ、パンキッシュに弾ける。彼女のメジャーデビュー曲「センチメンタル☆ラッキーガール」(TVドラマ『女子高生、僧になる。』オープニング主題歌)では、オリエンタルなギターリフと軽快なグルーヴに乗せてエネルギッシュな歌声を響きわたらせた。

そこからボカロック的な疾走感と喧騒感が彼女らしい「脳内ディストーション」でフロアの熱気を一層上昇させると、ラストは「まっさかさマジック!」で締め。アニメのオープニングテーマらしいアップテンポで明るい曲調、喉がノッてきたのかますます伸びやかになっていくliaの溌剌とした歌声のみならず、〈出会い〉の喜びや楽しさをテーマにしたこの楽曲の歌詞が、普段は見知らぬ人同士が同じ目的のもと集うライブという場所において、さらに輝きを増す。会場全体が幸せな気持ちと高揚感に満たされるなか、ライブ本編は幕を閉じた。

アンコールは美波「ライラック」のカバーでスタート。生きていくうえで感じる窮屈な思いや渇き、人生の意味、その一瞬一瞬に向き合う気持ちを、ひたむきな歌声で届ける。〈人生そうラフに/人生そうタフに〉。そんなフレーズと、終盤での心の叫びのようなハイトーンから、さらに熱を帯びていくボーカルがあまりにも必死で胸を打つ。この曲は彼女のオリジナル曲ではないとしても、間違いなく彼女の“人生の道標”になったであろうことが伝わってくる、渾身のパフォーマンスだった。

そしてliaは、ずっと憧れていたLIQUIDROOMのステージに立てた感謝の気持ちと、今の思いを赤裸々に口にする。「うまくいかない時、“私は何をしているんだ”ってすごくネガティブに思っちゃって」「すごく楽しかったけど、苦しい2年でもありました」「でも、こんなにたくさんの人に聴いてもらえるようになってすごく嬉しいです」と涙ながらに話す彼女。「ずっと不安ですが、今日の日を思い出せば、きっとこれからも信じていけそうな気がします」「これからどんな夢のステージに立てたとしても、皆さんついてきてくれますか?」と聞くと、客席からはあたたかな声援と拍手が飛ぶ。「そういう気持ちを込めて作った曲をやって、終わりたいと思います。ありがとうございました」と語って、彼女がこの日の最後の楽曲として歌ったのは、自身の最初のオリジナル曲「夢幻ホログラム」。夢見た世界に向けてただ前に進む気持ちを歌った、ひたむきなまでにまっすぐなロックナンバーだ。サビの〈こんな日々を照らすような歌に変えて/向かっていこうあのステージへ〉をはじめ、ストレートな歌詞だからこそ余計に胸を打つ。liaは曲間で客席に向けて「最後、いけますか?」と直接呼び掛け、オーディエンスとこの日いちばんの一体感を作り上げてライブを締め括った。

shallmのライブを観てあらためて感じたのは、曲調/曲想の幅広さと、それをバンドの生演奏で表現してしまう技術力の高さだ。そもそもliaが作る楽曲はボカロやアニソンからの影響を感じさせるものが多いので、自然と演奏の難易度が高くなるはずだが、shallmはあくまでもliaを中心としたバンドプロジェクトなので、ライブでは名うてのミュージシャンをバンドメンバーに揃えることで演奏面でのクオリティを担保できる。それによって、ボカロもアニソンも横並びになった現代のJ-POPらしいオリジナルなバンドサウンドが実現できているのだ。そして、さらに感嘆すべきはliaの底知れぬ才能。歌唱力の高さと14曲を歌っても一切疲れを感じさせない安定感(むしろだんだん調子が乗っていた気がする)、ポップで耳馴染みがいいけど捻りもきいたメロディと歌詞、19歳らしいフレッシュな感性と19歳らしからぬ完成度の高さ。すでに『JAPAN JAM 2024』『METROCK 2024』といったフェスへの出演も決定しており、shallmがこの先さらに大きなステージに立つことは間違いないだろう。

(文=北野創)

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