錦織圭が「ギリギリ楽しめないくらいのレベル」と総括した復帰戦。手応えと共に「1試合を通して90点の試合を…」と課題も<SMASH>

うれしさ、もどかしさ、悔い、そして希望――。

それら全ての感情が、玉虫色に、その時々で濃度を変えつつ入り混じるような、錦織圭の復帰戦だった。

公式戦のコートに立つのは、昨年7月末以来。多くのファンに、関係者に、そして報道陣たちにも「おかえり、ケイ」と祝福された男子テニスツアー「マイアミ・オープン」の1回戦は、世界40位のセバスチャン・オフナーに3-6、4-6で敗れる結果となった。

両者の対戦は、今回が初めて。対戦を控えた時点で錦織は、急成長中の27歳を「サーブが良く、フラットでボールを叩いてくる印象」と警戒していた。

確かにオフナーは、昨シーズンにランキングを150位も急上昇させたニューフェース。ただ今季は厳しい戦いが続き、「BNPパリバ・オープン」、さらに続くATPチャレンジャーでも初戦敗退。

「ここ数週間は負けが続き、自信を失い、もがき苦しんでいた」と、オフナーは打ち明ける。そのような中、今回の初戦で錦織との対戦が決まった時は、「試合に出ていないとはいえ、長くトップにいた選手。とても難しい試合になる」と受け止めていたという。
試合序盤は、そんな両者の警戒心が絡み合い、互いの出方を探るような攻防となった。サーブが強烈なオフナーだが、ラリー戦になると力んだようなミスが増える。第1ゲームで、重ねたデュースは4回。錦織にはブレークポイントもあったが、この場面では逆に錦織が、フォアのチャンスボールをネットにかけた。

スタートダッシュの好機を逃した錦織は、続く自身のサービスゲームを落とすと、第3ゲームでも2連続のブレークチャンスを生かせない。

それでも要所要所で、“らしい”プレーが光を放つ。サーブで相手を押し込み、前に出て強打すると見せかけつつドロップショットを沈める洒脱なプレーで、見る者のため息を誘った。美しいフォアの逆クロスウイナーも、観客たちの歓声を呼ぶ。

ただ結果的に、序盤で許したリードが、試合そのものの流れを左右したようではあった。第2セットも、創造的で美しいショットを繰り出すも、並走状態の第7ゲームで許したブレークの差を、詰め切ることはできなかった。
試合後に錦織は、「試合になると、(練習とは)違うだろうなとは思っていた」と、穏やかな口調で思いを口にする。

「硬くなるだろうし、一瞬でも気を抜いたりリズムが崩れたら、悪くなるだろうなという想定はしながら、試合には入りました」

比較的早いこのサーフェスで、相手が強打一発で決めてくるタイプであることも、リズムがつかみにくかった要因。懸案のヒザの状態は「だいぶ良かった」と言うものの、「やっぱりまだかばっていて、動きが遅かったりもする」とも明かす。

「なかなかラリーもさてくれなかったので、もうちょっとストローカーと試合ができたら、リズムをつかめたんでしょうけど……」

そんな小さな悔いを口にしつつも、「でも強かったですね、今日の相手は」と、素直に相手のプレーを称えた。

約8カ月ぶりとなる今回の実戦から、持ち帰った手応えと課題とは――? その問いに錦織は、さほど間を開けることなく、確かな口調でこう応じた。
「久しぶりに戻ってきた時、やっぱり一番起こるのが、試合全体を通して70%くらいは良いプレーができていても、1つ2つ、悪いゲームが出てきてしまう。自分のサービスゲームで特に1~2回エラーが出て、簡単にゲームを渡してしまう時間帯が今日も少しあったかなと。やっぱり1試合を通して、90点の試合をできるようにならないといけない」

まずは「課題」に言及すると、「まあそれに関しては、少し時間がかかるし……」と自分に言い聞かすようにつぶやき、こう続けた。

「でもストロークは、意外と良かったかなと思ってます。もうちょっと空回りする感じも想定はしていたので、その割には悪くはなかった。でもさっきも言ったように、フットワークだったり、細かいボレーだったり、ストロークのアンフォーストエラーだったり……、直さないといけないところは、もちろんたくさんありました」

それら全てをひっくるめ「ギリギリ、楽しめないくらいのレベル」と、彼は試合を総括した。

少しの落胆も、ある種の手応えも想定内――。そんな、どこか達観したような風情もたたえ、北米のヒューストン、そして欧州のバルセロナ、マドリードと続く「好きなクレーコート」へと向かっていく。

現地取材・文●内田暁

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