人には寿命があり、家族のかたちも未来永劫同じではいられない。仲のいい夫婦も、いずれはどちらかが先立ってしまう。遺族として残されたら「遺族年金」を受け取って生活することになるが、その金額が十分だとしても、将来的なリスクをすべて回避できるとは限らない。実情を見ていく。
老後資金を崩しつつ、穏やかに暮らす夫婦だったが…
私たちの老後生活を支える公的年金。令和6年度は国民年金が満額で6万8,000円、厚生年金は40年間会社員をしてきた夫と20歳から専業主婦というモデル夫婦で23万0,483円となっている。実際の手取り額は額面の85%~90%であることから、19.5万~20.7万円程度となっている。
しかし、65歳以上無職の夫婦のみの1ヵ月の支出額は、平均25万0,959円だ。モデル夫婦の場合、毎月5万円ほど不足することになる。当然、不足分は貯蓄を取り崩すなどして対応することになる。
★65歳以上夫婦のみ世帯の月生活費
●消費支出…25万0,959円
(内訳)
・食料…72,930円
・住居…16,827円
・光熱・水道…22,422円
・家具・家事用品…10,477円
・被服及び履物…5,159円
・保健医療…16,879円
・交通・通信…30,729円
・教育…5円
・教養娯楽…24,690円
・その他の消費支出…50,839円
ざっくりとした計算だが、モデル夫婦の場合、65歳から20年同じ生活を継続するなら1,200万円、30年なら1,800万円の貯蓄が必要になる。
ここに、モデル夫婦と同じ、65歳の同級生の夫婦がいたとする。月々23万円(夫:国民年金6.8万円、厚生年金9.4万円、妻:国民年金6.8万円)の年金を受け取り、預貯金から毎月5万円を取り崩して生活していたとする。
だが、いつまでも同じ生活が続くわけではない。人には寿命があるからだ。もしこのタイミングで夫が急逝した場合、妻の生活はどうなるだろうか?
亡くなった方の遺族には「遺族年金」が支給される。国民年金に紐づく「遺族基礎年金」と、厚生年金に紐づく「遺族厚生年金」の2種類があるが、遺族基礎年金の受給対象者は「子のある配偶者」または「子」であるため、モデル夫婦の妻の場合、受け取れる可能性は低いといえる。厚生年金受給者が亡くなった場合は、遺族の生活を支えるために「遺族厚生年金」が支給される。
遺族厚生年金の年金額は、死亡した人の老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の3だ。このケースの場合、妻が受け取れる遺族厚生年金は月7万円程度で、自身の年金と合わせて、月13.8万円ほどになる。遺族年金は非課税なため、妻は13万円ほどを手にできるだろう。
夫婦で月20万円から、妻ひとりで月13万円――。
月7万円の減額だ。
ひとりきりになった高齢妻が抱える「家無しリスク」
2人の生活から1人の生活になったのだから、生活費もコンパクトになるかもしれない。確かに、食費や水道光熱費は、半分とまではいかないにしろ、金額は下がるだろう。
ならば、多少の節約生活で乗り切れるかというと、必ずしもそうとは言い切れないかもしれない。最も懸念が大きいのは、住居費だ。
もしも夫婦が賃貸暮しで、なおかつ預貯金がそこまで多くなかったら、どうなるか?
夫婦で月20万円の年金収入があったときは、家賃を払っても生活が回っていたかもしれない。だが、夫が亡くなったらどうか? 年金収入が7万円減額したいま、2人で暮らした賃貸物件に住み続けることはできるだろうか?
総務省統計局『小売物価統計調査(2024年1月)』によると、東京の民間借家の1ヵ月の家賃は1畳あたり4,492円だった。2人用40平米のマンションの家賃は11.7万円。遺族年金と自身の国民年金、合わせて13万年のモデルケースの妻の場合、支払いは無理だ。
1人用20平米ほどのマンションなら、5万8000円程度。これなら月13万円の年金収入でもなんとかなりそうだ。だが、さらにここで新たな難問がある。
高齢者の入居を嫌う不動産会社、大家は非常に多いのだ。
「申し訳ありませんが、ご入居いただける物件はございません」
こんな対応が続けば、思わず「これからどうすれば…」と頭を抱えてしまうだろう。
株式会社R65が実施した『65歳以上が賃貸住宅を借りにくい問題に関する実態調査』では、「年齢を理由に不動産会社に入居を断られた経験はありますか?」の問いに対して、26.8%が「ある」と回答。断られた回数は「1回」が最多だが、「5回以上」も11.9%となっている。
断られた人を年収別にみていくと「年収200万円未満」では27.7%に対し、「年収200万円以上」でも26.4%と同等だ。収入が高かろうが低かろうが「高齢者は家が借りづらい」というのが実情だといえる。
賃貸派の人は、将来「高齢になってからの家なしリスク」があるかもしれないことを、心に留め置いた方がよさそうだ。
いまは家族仲よく暮らしている人も、もしかしたら、1人きりで生きていく日が来るかもしれない。そのとき、自分がどんなリスクに直面する可能性があるのか、状況を把握したうえ、しっかりとシミュレーション・対策をしておくことが重要だ。
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