北朝鮮戦で続いた悪い流れ...何事も起こらなかったのは相手が格下だったから。気になったのは日本ベンチ前の光景

[北中米W杯アジア2次予選]日本 1-0 北朝鮮/3月21日/国立競技場

日本代表は3月22日、北中米ワールドカップ・アジア2次予選で北朝鮮代表と国立競技場で対戦。1-0で勝利を収めた

スタメン全員が欧州でプレーする日本代表は、FIFAランキング114位(日本は同18位)の北朝鮮に世界基準のレッスンを施す立場にあった。

実際、積極的なプレッシングを敢行する日本に対し、4-4-2の陣形で待ちの姿勢で臨んだ北朝鮮は、寄せもコンタクトも甘く、逆に日本の圧力に押されて随所にミスが見られた。

両チームの経験値の違いは明白で、北朝鮮の選手たちからは慣れない厳しい状況下でのプレーで力みや焦燥が連鎖し、可能性の乏しい裏狙いのフィードしか活路は見当たらない様子だった。

日本は開始早々の2分に田中碧が先制ゴールを挙げ、口火を切ったので、もし直後のビッグチャンスで前田大然が畳み掛けていたら、北朝鮮は心理面も含めて決壊していた可能性が高い。

【PHOTO】日本代表の北朝鮮戦出場16選手&監督の採点・寸評。及第点を上回ったのは4人、最高点は決勝弾の田中碧
前田はコントロールにもたつく右SBキム・ギュンソクからボールを奪い取ると、そのままシュートに持ち込んでいるので、チームの姿勢でも、個のレベルでも格の違いが一層顕著になるところだった。

それでも前半の日本は完全にゲームを支配し、セカンドボールも拾い続けて相手陣内で悠然とパスを繋ぎ続けチャンスも積み上げた。

ちょうど半世紀前に来日した北朝鮮随一の強豪チーム「平壌4・25」は、同じ国立競技場で日本代表に4-0で快勝している。まだ日本代表には夢の舞台だったワールドカップで、すでに北朝鮮はベスト8進出を果たしていた。あまりに一方的な試合展開で、平壌側のGKは身体が冷えないようにクロスバーで懸垂をしていたそうだが、この夜は逆に日本代表の鈴木彩艶がセンターサークルまで上がって推移を見つめた。

ところが日本が再三のチャンスを逃し、スコアを動かせなかったことで、後半に入るとピッチ上の空気が変わった。北朝鮮は後半開始から3枚替えを行ない、レフティのカン・グクチョルという起点を用意し、中盤から前線で積極的な守備を強めた。

そして後半開始早々にはGKのパントキックをジョン・イルグァンが頭で落とし、ハン・グァンソンのシュートがGK鈴木の指に触れてポストを叩く。これで勇気を得た北朝鮮が、前半とは見違えるようにゲームを組み立て、日本を脅かすようになるのだった。

気になったのは後半途中からの日本のベンチ前の光景である。森保一監督と並んでスタッフ3~4人がボードを持ち出し、延々と話し合いを続けている。この間には立ち上がった長友佑都がピッチに向かって声を張り上げていた。

結局、日本代表が3枚替えで5バックに変更したのは74分。確かに「守備を安定させてカウンターを仕掛ける」という森保監督の狙いは功を奏した。しかし、北朝鮮は後半開始から攻勢に出ていた。30分間近く続いた悪い流れの中で何事も起こらなかったのは、相手が明らかに格下の北朝鮮だったからと考えるべきだろう。

トップレベルのピッチ上は、瞬きでもする間に変化していく。そこでの対応の遅れが致命傷になることは、先のアジアカップが大きな教訓になったはずだ。まさか最終決断が合議制で行なわれているわけではないだろうが、これでは相手ベンチやピッチ上の選手たちにも日本代表の困惑ぶりが一目瞭然だ。

もちろん、スタッフや選手たちから多くの意見を吸い上げるのは悪くない。しかし実戦の最中に会議の時間はない。船頭を増やすのではなく、独断で迅速に的確にゲームを動かしていくのが指揮官の仕事である。

「粘り強く守れて無失点に抑えられたことは、ディフェンスラインの選手たちの自信になったと思う」

試合後の森保監督の言葉だ。

本当だろうか。「世界一を目ざす」と目標を定めた日本代表の中に、この無失点を自信に充足できる選手がいるのだろうか。

大望を抱くのは良い。しかし大きな目標を定めたからには、その覚悟に即した妥協なき言葉が要る。

取材・文●加部究(スポーツライター)

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