「今は全員がガード」稀代の司令塔キッドが現代NBAを語る「発端となったのはレブロンだと思う」<DUNKSHOOT>

現代のNBAでは、身長2mを超える選手がいとも簡単にボールを操り、ドライブからフィニッシュまで持ち込むだけでなく、ハーフコートオフェンスではボールハンドラーとなって攻撃の起点となっている。

その傾向は決して最近生まれたトレンドではない。現地3月21日のユタ・ジャズ戦を前にした記者会見で、ダラス・マーベリックスのジェイソン・キッドHC(ヘッドコーチ)は「ポジションの概念はなくなった」と持論を述べていた。

現役時代、キッドはポイントガードとしては大柄な193cm・95kgのサイズで司令塔を務めあげ、トリプルダブルは歴代6位の107回を記録。ファーストブレイクで味方のイージーバスケットを演出したほか、そのサイズを武器にポストアップから起点となってゲームを組み立てた。NBAで19年間プレーした稀代の司令塔は、次のように語る。

「ポジションの概念はもうなくなったと私は考えている。ポイントガード、シューティングガードに限らず、誰もがシュートしている。それにみんながハンドリングできている。別の面ではみんながリバウンドを奪っているんだ。昔はポイントガードからプレーが始まっていたが、今では試合のペースが上がり、多くのアスリートがコートにいるから、誰がリバウンドを奪っても(相手に)問題を引き起こすことができる。6フィート8インチ(203cm)や7フィート1インチ(216cm)、7フィート5インチ(226cm)がそのままボールを運んでしまうからね」
キッドHCは、「その発端となったのがレブロンだと思う」と言う。

レブロンとは言うまでもなく、現在ロサンゼルス・レイカーズでプレーするレブロン・ジェームズのこと。2003年のドラフト全体1位でNBA入りした“キング”は、206cm・113kgという重量級の肉体に器用なハンドリング力を備え、歴代有数のパスセンスも持ち合わせている。得点・リバウンド・アシストと3拍子揃った選手として、21シーズン目の今季もトップレベルを維持して活躍を続けている。

レブロンの活躍以降、リーグには同じようにガードのようなスキルを持つ大柄な選手が登場。211cm・109kgのケビン・デュラント(フェニックス・サンズ)や208cm・113kgのパオロ・バンケロ(オーランド・マジック)といった選手が、難なくハンドラー役をこなしている。

今季の新人王有力候補のヴィクター・ウェンバンヤマ(サンアントニオ・スパーズ)もその1人だ。224cmの高さと240cmの長いウイングスパンを持ちながら、ペリメーターでも起用にプレーし、華麗なドライブやアシストを繰り出すことも珍しくない。 また、キッドHCが指揮を執るマブズには、188cm・88kgで本来ならポイントガードのカイリー・アービングがいるが、最も長くボールを扱っているのは201cm・104kgのルカ・ドンチッチだ。

「カイ(アービングの愛称)は怒るかもしれないが、ルカを見ていれば、彼がポイントガードになる。このチームのクォーターバックだ。それに、ウチには(196cm・97kgの)ダンテ・エクサムというもう1人のビッグガードがいる。彼は3ポイントを50%の確率で決めることができる。カイがストレッチ4あるいはシューティングガードになるんだ」とキッドHC。

続けて、現在のリーグの傾向も踏まえてこう話していた。
「今のリーグは選手たち個々のサイズが大きく、かつアスレティックになっている。彼らはみな、10歳の頃からスキルを磨いている。最初にドリブルの練習をし、次にするのがハーフコートからのシュートなんだ。レンジを広げるためにね。一時期は小柄な選手たちがセンターになることを望み、センターたちはガードになろうとしていた。でも今は全員がガードなんだ。それが今のリーグのスタイルなのさ」

現在のNBAでは、90年代以前のようなパスだけをするポイントガードや、ゴール下の仕事に専念するセンターが減り、代わりにフォワードやセンター級のサイズを持ちながら、ガードのようにボールを操る選手たちが増えていることは間違いない。

“ビッグガード”として活躍した現役時代から、指揮官となった現在に至るまでリーグの変遷を見続けてきたキッドの眼には、レブロンがそのパイオニアだと映っているのだろう。

文●秋山裕之(フリーライター)

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