タバコから米ドルの札束へ…過去20年でひどくなった北朝鮮のワイロ文化

韓国の統一省は先月、2013年から2022年の間に脱北した6300人を対象にアンケート調査を行った結果をまとめ、「北朝鮮の経済・社会実態認識」を発表した。それによると、脱北者の半分以上が、北朝鮮にいたころにワイロを渡した経験があると答えた。これについて、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が詳しく報じている。

脱北を9回試みてようやく成功し、2007年から韓国で暮らすイ・スンシルさんは、北朝鮮で起きる問題のうち7〜8割はワイロで解決できると語った。

「北朝鮮でワイロは、子どものころから経験するものです。大人が「ワイロを掴ませろ、ワイロを掴ませればいい」ということばかり見て育ちます。本当にひどいです。(北朝鮮では)すべてがワイロなしではできません。7〜8割はワイロでなんとかなります」

「軍隊に行く前の身体検査では、背が高く体格の良い幹部の家の子は、皆医者にワイロを渡して不合格になります。医者とグルになって病気であるように口裏を合わせておくんです。労働者や農民の家の出の子は、栄養失調のような状態なのに合格になり、いちばん大変な山奥にある高射砲中隊に行かされます。1つの中隊には7〜80人がいるのですが、(勤務が楽な)軍医所に行くとそのほとんどが幹部の家の出です」

「夜間に国境警備隊員の案内で、凍結した豆満江を渡るのですが、ライフルをぶら下げたまま、『もう捕まらないでください』と言われ、2000北朝鮮ウォンを支払いました」

「(取締官を)ぱっと見て、ぼろぼろの服を着て、ズボンがきちんとアイロンされていなければ、それほど高級ではなく、中級程度のタバコ1箱くらいでいいと判断して渡しました。一方で、『この人はちょっと難しいそうだ』と判断すれば、猫じるしのタバコ1箱は必要でした。猫じるしのタバコといえば、北朝鮮ではワイロによく使われるタバコでした」

「タバコをもらったからと吸うわけではありません。お金扱いされ、市場でタバコ商人に買い取ってもらい、コメや他のなにか(生活必需品など)と交換していました」

「私が子どものころには、猫じるしのタバコが通用しました。父も保衛部にいたのですが、その当時は猫じるしのタバコをもらっても悪くなかったのですが、今ではタバコではなく、すべてがドルです。わいせつ物を見て捕まったとしたら、農村部でも基本的に300ドル以上はもらっていました。生活の苦しい人でわいせつ物を見る人はほとんどいなかったので、ワイロは500ドル、1000ドル、多いときは2000ドル、3000ドルでした」(編集部注:2016年当時、1ドルは99円から121円)

「北朝鮮は共産主義社会主義体制だからと、配給を与えるんですけど、それだけでは生きていけなません。衣食住すべてを国が面倒見てくれません。検閲(監査)を行う前には対象に『そろそろ検閲に入るから気をつけろ』と教えます。そうやって助け合いながら人々は生きてしました」

慶南大学極東問題研究所の林乙出(イム・ウルチュル)教授はデイリーNKの取材に、北朝鮮で蔓延するワイロ万能主義は、過去の韓国と同様に、北朝鮮が民主主義に発展しない限り、改善を期待できないと指摘した。

「かつての韓国でもこのようなワイロの受け渡しは多かったが、今日の北朝鮮も同じ状況に直面しています。そこから抜け出すには、結局、その社会が開放され、民主主義が発展し、政治的・経済的な先進化が行われなければ、問題は根本的に解決されません。現時点でそれは非常に困難です。北朝鮮のワイロ文化はますます進化し、発展するしかないような状況にあると見ています」

米国のトレース・インターナショナルが毎年発表する「ワイロリスク予想」によると、北朝鮮のワイロリスクは、100点満点中92点で、対象となった194カ国の中で、2020年意向最下位を記録し続けている。

金正恩政権は国内の締付を強化しているため、ワイロの習慣がさらにひどくなることが考えられる。締め付けが厳しいほど、取締官の権限が増大し、要求する額が増えるからだ。

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