審判の賄賂を示唆する“マネーポーズ”で罰金10万ドル。ゴベアはスポーツ賭博が定番化するリーグに警鐘「そうあるべきじゃない」<DUNKSHOOT>

現地3月8日に行なわれたミネソタ・ティンバーウルブズ対クリーブランド・キャバリアーズ戦の終盤、ルディ・ゴベアが退場となったシーンが一部で波紋を呼んだ。

第4クォーター残り30秒、97-96とウルブズ1点リードの場面。アンソニー・エドワーズが放ったジャンパーがリムに当たって落ちると、リバウンドを競り合ったジャレット・アレンの首の周りに手を回すような形で押さえ込んだゴベアに対し、審判はファウルをコールした。

このクォーターだけで4回目のファウル。計6回目で退場となったゴベアは、両手の指をすり合わせる、いわゆる“マネーポーズ”で主審のスコット・フォスターに対する不信感をアピール。フォスター本人は後ろを向いていてこのジェスチャーを目撃していなかったが、副審らの報告により、即座にゴベアにテクニカルファウルが科された。

試合後、ゴベアは「自分のリアクションは正しかった。ただ、タイミングがまずかった」と弁明。

試合はこのテクニカルファウルで得たフリースローをキャブズのダリアス・ガーランドが決めて同点に持ち込むと、オーバータイムの末に9点差で勝利を手にした。“たられば”を語るのは無意味とはいえ、テクニカルファウルがなければウルブズが逃げ切り勝ちしていた可能性もあっただけに、確かにタイミングは最悪だった。
体調不良のクリス・フィンチHC(ヘッドコーチ)に代わって指揮を執ったマイカ・ノリAC(アシスタントコーチ)も、両軍合わせて45ものファウルがコールされた試合展開にはフラストレーションを露わにしつつも、ゴベアの行為については「残り27秒でテクニカルファウルを取られるというのはあってはならないこと。彼の苛立ちは理解できる。しかしもっと賢く振る舞う必要がある」と苦言を呈した。

ゴベアには10万ドル(約1470万円)の罰金が科せられたが、通常なら高くても3万ドルほどの罰金がこれほどの額になったのは、これまでの度重なる審判批判を考慮したものであるという。

ゴベアは昨年3月、フェニックス・サンズに敗れた試合のあとも、「レフェリーは、自分たちのような商業的なマーケットの小さいチームには勝ってほしくないのだ」といった発言をして2万5000ドルの罰金を喰らっている。

しかしおそらく理由はそれだけではなく、“レフェリーによる賄賂を示唆する”という、NBA側がもっとも神経を尖らせている類のものだったことが、厳罰につながったのは想像に難くない。 選手の審判に対する“マネーポーズ”は、ゴベアが初というわけではない。

ダラス・マーベリックスのルカ・ドンチッチも、昨年3月のゴールデンステイト・ウォリアーズ戦で、コールされなかった相手のファウルに憤って札束を数えるようなジェスチャーをして、3万5000ドルの罰金を喰らっている。

キャブズ戦のあとゴベアは、「このスポーツは蝕まれている。ベッティングの重要性が増しているのは知っているが、そうあるべきじゃない」とコメントしている。

確かにNBA は現在、『FanDuel』、『DraftKings』 というスポーツベッティング2社をオフィシャルパートナーに抱え、大手の『bet365』を筆頭に15社、さらにローカルの9社をオーソライズ会社として公式スタッツ等の情報を提供している。

ただ、ベッティング会社との提携はNBA に限ったことではなく、ゴベアの母国フランスのプロサッカーリーグでも、業界大手の『Betclic』がメインスポンサーの一角であるように、現在のスポーツビジネスにおいては定番だとも言える。

ゴベアが今回このような行為に及んだのは、対象の主審が、以前から賄賂に関係していると噂されるフォスターだったからにほかならない。
フォスターは、2000年代に数々の八百長に関与して15か月の禁固刑を受けた元審判のティム・ドナヒーと親しい間柄にあると言われている人物。

ドナヒーの事件は『Netflix』のドキュメンタリー番組(『UNTOLD:コートに潜む八百長の闇』)にもなっているのだが、米『FOXニュース』などは、ドナヒーが八百長行為を繰り返していた頃、彼は自分のガールフレンドよりもフォスターに頻繁に電話をかけていた、といった通話記録もすっぱ抜いている。

フォスターはクリス・ポールといった特定の選手への当たりが厳しいことでも悪名高い。ポール自身は、関係が悪化したのは自分の息子が原因だろうと以前話している。詳細は語っていないのだが、フォスターが帰ろうとした時にポールの息子が遊んでいて道をふさぎ、いさかいになったらしいと、以前ギルバート・アリナスが明かしている。

ちなみにそのアリナスは、自身のYoutube番組『Gils Arena』でゴベアの件に触れ、「ある1人のレフェリー」とフォスターを示唆した上で、「こういう件をなくすには、このような人物をNBAから排除するしかない」と断じている。

彼に関しては、国際規模のオンライン署名サイト『Change.org』で、「フォスターをNBAから追放しよう」という案件が持ち上がったこともあるほど、選手のみならずファンからの評判も最悪であるから、ゴベアの問題提起に賛同する識者やコメントも数多く見られる。

もちろん、選手が“マネーポーズ”のような形で審判に対して賄賂の疑惑を向ける行為は、モラル的にあってはならないが、「バスケに限らず、笛を持っている人物がパワーを握っている。だからこそ、人々が疑念を抱くような“胡散臭い”人物がそうした権限を握ってはならない」と強調したアリナスの意見には、説得力があった。

文●小川由紀子

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