家庭内の事故対策に「危ないもの探し」が大切。「あ、おすしやさん」を合言葉に!【子どもの安全教育の専門家】

「おうちでヒヤッ でない、あけない、のぼらない~子どもの身をまもるための本~」文・監修/清永奈穂、絵/石塚ワカメ(岩﨑書店)より

家庭内で子どもの事故・けがが起きそうになってヒヤリとした経験はありませんか? 「危ないからダメ!」と毎日のように言っているというママ・パパもいるかもしれません。自治体や幼稚園、保育園、小学校などで安全教育を行っている清永奈穂先生は、「家庭内での危ないもの探しをすることが大切」といいます。清永先生に事故を回避できる子の育て方について聞きました。

家での「危ない!」を防ぐために親が知っておきたい、子どもの体の特徴と行動パターン【安全教育の専門家】

子どもと家の中で「危ないもの探し」をしてみよう

――家庭で子どもに事故防止や安全について、きちんと教え始めるのは、何歳ごろからがいいのでしょうか?

清永先生(以下敬称略) 言葉が理解できない年齢でも「これは危ないからダメだよ」「触るとアチチだよ」と言い聞かせることは大切です。家庭で安全教育をスタートさせるのは、言葉の理解が進んで、ある程度親と言葉でコミュニケーションが取れるようになる2歳ごろからを目安にするといいでしょう。このころから、親子で一緒に危ないこと・ものについて学んでいくといいと思います。

私がおすすめしているのは「危ないもの探し」です。おうちの中を探検しながらゲーム感覚で危険を見つける力を養えます。たとえば「落ちたら危ないところはどこかな?」「口に入れて詰め込んじゃったら、息ができなくなって危ないものは何かな?」などと子どもに聞いてみましょう。親子で一緒に考えながら玄関や部屋、台所、おふろ場など家中を探してみてください。

危ない場所のヒントは「あ!おすしやさん」と覚えるとわかりやすいです。ぜひ「あ!おすしやさん」を合言葉に家の中をチェックしてみてください。

あ…熱いもの
お…落ちるようなところ
す…滑るようなところ
し…閉まるようなところ
や…やけどするようなところ
さ…触ったら危ないもの
ん…「ん⁉」と注意

危ないもの探しは子どもが「何が危ないか」を自主的に考えるきっかけになります。また、ママ・パパも実際に子どもと回りながら「あ、ここにはもう手が届くんだ、補助の鍵をつけたほうがいいな」「これに寄りかかったら上から物が落ちてきて危ないな」といった気づきもあるはずです。その都度、安全対策をアップデートできるのもメリットです。

言葉が理解できる2歳ごろからは危ない理由もきちんと伝えましょう

安全教育を重視している国・地域が多い欧州。写真は安全について学べるイギリスの体験施設の様子。「危ない場面がセッティングされていて、何が危ないかを探しながら学ぶことができます」写真提供/清永奈穂先生

――2~3歳ごろだと、「子どもに『これは危ないよ』と言い聞かせても、同じことを繰り返す」という悩みもよく聞きます。どのように言うと、子どもに伝わりやすいのでしょうか?

清永 「危ないと理解できること」と「危ないからやめておこうと我慢できること」は別です。ですから、きちんと伝えても同じことを繰り返してしまうことはよくあります。我慢は成長とともに身についていくものですが、もしも、そもそも「危ない」ということがうまく伝わっていない様子であれば、伝え方を変えることで効果があるかもしれません。伝え方のコツを三つ紹介します。

一つ目は「わかりやすくやさしい言葉」で伝えることです。
2歳ごろになると、子どもなりに身の回りには危ないものがあることに気がついてきます。ママ・パパの言葉がわかるようになったら「お鍋が熱いね。あちち、やけどしちゃうよ」「ソファでジャンプすると落ちて頭がイテテになるね」というように、できるだけやさしい言葉で「こうするとこうなる」「こうだから危ない」と理由をしっかり伝えましょう。

二つ目は「あえていつもと違う雰囲気を出す」こと。
たとえば、やかんを触るふりをしておおげさに「わっ!あちち!」と言って見せるなど、大人が小芝居をするのもいいでしょう。子どももおもしろがって記憶に残りやすく効果的です。また、「熱いものは何かな?」「落ちるようなところはどこかな?」「閉まるようなところは?」などと子どもに質問してこたえさせるのもいいでしょう。命にかかわるような危ない行動を子どもがしたときは、目を見て真剣に「危ないよ」と伝えることも大切です。

三つ目は「興味を持ったときが教えどき」ということ。
3歳ごろになるとはさみやカッターを使いたがる子も出てきます。そんなときは「安全な使い方をしっかり教えるチャンス!」と捉えましょう。もし、しっかりと伝えてから使わせたのに、子どもがふざけたり、危ないことをあえてやったりする場合は、時期早尚と判断して速やかに片づけて。

安全教育は大切ですが、子どもを不安にさせすぎるのはNG

「写真はイギリスの公園で撮影したものです」と清永先生。「イギリスの公園では、保護者と一緒に体を動かす遊びをする子どもの様子をたくさん見ることができました」写真提供/清永奈穂先生

――事故防止や安全について教える上で、親がしてはいけないことや気をつけたいことはありますか?

清永 家庭で危ないこと・ものを教えるのはいいですが、「世の中は危ないものだらけなんだ」と子どもを不安がらせるのは望ましくありません。乳幼児期は、いろいろなものを見たり、触ったり、においをかいだりして五感をはぐくんでいく時期です。子どもを守ってばかりで何もさせないでいると、体の運動発達は進みませんし、冒険心をかえってくじいてしまうこともあります。

また、実は安全な遊具などで「滑る」「落ちる(段差をジャンプする)」などの遊びをすることも、事故・けがから身を守るために大事な体験なんです。大人がそばで見守っていても、「走っていて転ぶ」などの事故はなかなか防げないもの。そんなときに大きなけがにつながらないように「とっさに手を前に出す」などの行動は、遊びの中で体の動かし方を学び、いろいろな動きを体験することで習得していくものなのです。

年齢に合ったおもちゃや遊具を上手に使って少しずつ危ないときのふるまいも学んでいくようにしましょう。それと同時に、子どもには「もし危ないことがあったら言ってね、ママ・パパが絶対守るから」と声をかけて安心させてあげてください。

危ないこと・ものが理解できたら約束を決めて自立を促そう!

――危ないことが理解できるようになり、親との約束も守れるようになって、ある程度の時間お留守番ができるようになるのは何歳ごろからなのでしょうか?

清永 これは家庭環境によりますし、個人差もあるので一概に言うのは難しいです。一般的には小学生になると1人で登下校するようになり、少しずつ1人で行動できるようになってきます。親がゴミ出しをする間などの数分程度であれば、小学生になるころから留守番ができる子はいるかもしれません。ただ、ある程度の時間一人でお留守番ができるようになるのは、10歳ぐらいが目安でしょう。とはいえ、10歳になったからといっていきなり「1時間、お留守番してね」というのは難しいです。まずは10分くらい短時間からお留守番の練習をするといいでしょう。

お留守番の練習をするときは、「玄関とベランダの鍵は開けない」「火は使わない」「だれか来てもインターフォンには出ない」などの約束を子どもとします。約束が多いと混乱するので、最初は3つくらいがいいでしょう。短時間のお留守番のあと、子どもがきちんと約束を守ることができたら、「ちゃんと守れてすごいね」とほめて。だんだんと約束の数を増やし、お留守番の時間も長くしていきます。

子どものお留守番で気をつけたいのが、インターフォンです。つい好奇心から出てしまう子もいますし、「今ママもパパもいません」と大人が不在なことをそのまま正直に伝えてしまう子も。「ママはいるけれど、今は手が離せません」などと、防犯を意識して事実とは違うことを言えるようになるまでは、「出ない」と約束させるほうがいいでしょう。

お留守番ができるようになる前に、インターネットとのつきあい方のルール作りもしておくといいでしょう

保育園で園児たちにインターネットの安全な使い方を教える様子。「小さいときから使用時間や、見ていい内容などの約束を守って使うことを教えましょう。小学生の内は、子どもが使うIT機器などを保護者が管理・制限する”ペアレンタルコントロール”をしっかりしておくこと、またインターネットでつながった先には怖い人がいる可能性があることも少しずつ教えておくことが大切です」写真提供/清永奈穂先生

ーー子どもが10歳になったとしても、1人でのお留守番はなるべくさせないほうがいいのでしょうか?

清永 室内の安全面などの準備ができていたら、お留守番をさせることがあってもいいと思いますが、子どもの性格や自立度、家庭環境やお留守番の時間の長さにもよります。状況を見て、親が判断しましょう。また、一人でお留守番をするようになる前に、タブレットやスマートフォンなどの使い方も改めてルール作りをしておくといいと思います。

ママ・パパは、子どもの成長をよく見極めながら、適切な時期を見計らって子どもの自立を後押ししてほしいと思います。自立の後押しと「お留守番をさせること」はイコールではないですが、子どもを守ろうと心配しすぎて「あれもダメ」「これもダメ」とするのではなく、事故が起きないように気をつけながら、時には挑戦させることも大切です。

親がサポートして自立を促すことで、子どもは成長するにつれて、何が危ないかを理解するとともに、「約束は守らなくてはいけない」「これは危ないから、ここでは使っちゃいけないんだ」といった社会性も身につけ、自ら危険を回避できる子に育っていきます。

監修/清永奈穂先生

取材・文/永井篤美、たまひよONLINE編集部

子どもの「イヤ」という言葉で、犯罪者の7~8割があきらめるという調査結果も。自分の身を守るためにこれだけは子どもに教えてほしい【専門家】

子どもが小さいうちは安全な環境を整えることが大切です。2歳ごろから、危ないもの・ことは理由も含めて積極的に教えていくといいでしょう。ただし、守ってばかりで子どもの冒険心をくじくのはNG。時には年齢にあったおもちゃ・遊具で、けがをしない範囲でチャレンジさせることも大切です。

●記事の内容は2024年3月の情報で、現在と異なる場合があります。

『おうちでヒヤッ でない、あけない、のぼらない 子どもの身をまもるための本』

家庭で起きがちな事故にどう注意するといいのか、親子で楽しく読みながら学べる絵本。清永奈穂 文・監修 石塚ワカメ 絵/1430円(岩崎書店)

© 株式会社ベネッセコーポレーション