【ドジャース】「肩代わり」か「窃盗」か。大谷専属通訳、水原氏解雇

米大リーグ・エンゼルス時代から専属通訳として大谷翔平投手(29)を公私でサポートしてきた水原一平氏(39)がドジャースから解雇された。韓国・ソウルでの今季開幕戦(2024年3月20日)では大谷とともに試合中のベンチに入っていた水原氏。それからわずか数時間後、2024年3月21日早朝(日本時間)に駆け巡った衝撃のニュースだった。賭博で借金が膨らんだ水原氏が「大規模な窃盗」に関与した疑いがあると、複数の米メディアが報じた。

ESPN、通訳本人に90分の電話取材

この報道はドジャースの地元紙、ロサンゼルス・タイムズで汚職調査を専門とするポール・プリングル記者のスクープだった。プリングル記者は報道部門で2019年、優れたジャーナリズムに贈られるピューリッツァー賞を受賞している。一方で、この疑惑を時間をかけて追っていたのが、米スポーツ専門チャンネルESPNの調査・企業報道部門の女性記者、ティシャ・トンプソン氏だった。

ソウル・高尺スカイドームで他のスポーツメディアが安穏と「大谷初安打、二盗も決めた」「大谷の妻、真美子さんもスタンドで観戦」などと報道するなか、トンプソン氏は開幕戦前夜、水原通訳に単独で90分間の電話取材を敢行していた。大谷礼賛一辺倒のスポーツメディアの中にあって、水面下で「疑惑」の核心に迫っていた。しかし、ESPNは思いもよらぬ「横やり」によって、ロサンゼルス・タイムズに先を越されてしまった。しかも、ロサンゼルス・タイムズが報じた「水原氏が『大規模な窃盗』に関与した疑い」は、ESPNに水原氏自身が語った肉声を打ち消す、矛盾したものだった。

「9月、10月、大谷自身がパソコンで」

ESPNのトンプソン氏は、スポーツベッティングが違法であるカリフォルニア州で、連邦政府の捜査を受けている南カリフォルニアの賭博業者に、水原氏がギャンブルによる多額の借金を負っているという情報をキャッチしていた。しかも、大谷の銀行口座から業者に直接、返済の電子送金がされている事実もつかんでいた。

トンプソン氏によるインタビューのなかで水原氏は、450万ドル(約6億8千万円)にも膨れた借金の返済を大谷に依頼し、それを知った大谷は決して快くは思っていなかったものの、その借金返済への肩代わりを承諾してくれたこと。そして、必ず大谷に返済する主旨の発言をしたと自ら語ったという。さらに大谷が水原氏にお金を渡せば再びギャンブルに使うことを心配したため、大谷自身がパソコンで賭博業者に2023年9月と10月、送金をしたことを明かしていた。ESPNの記事を読むと水原氏の発言は具体的で、大谷との関係性においても自然な内容だ。このインタビューをもとに、ESPNは着々とスクープに向けて、準備を整えていた。

大谷の弁護士「翔平は被害者」

ところが、ESPNのトンプソン氏に思わぬ「横やり」が入る。ESPNがその記事をアップする準備をしていると、ドジャースの広報担当者は水原氏の説明を否定して、大谷の弁護士が声明を発表すると伝えてきたのだ。

21日に出された声明は「メディアの問い合わせに対応する過程で、翔平が『大規模な窃盗』の被害者であることが判明し、捜査当局に問題を委ねることにした」という驚くべき内容だった。肩代わりしたのではなく、盗まれたというのである。大谷側の弁護士が水原氏を告訴したのは「大谷は被害者でギャンブルには関与していない」と主張するためと思われる。

水原氏もつじつまを合わせるように「大谷は自分の借金については全く知らず、大谷は賭博業者に送金していない」と前日のESPNへの発言を翻した。窃盗の嫌疑を法律事務所からかけられたかどうかについて水原氏は「僕は何もコメントしないように言われている」とだけ話し、誰にそう命じられているのかについては口をつぐんだという。

「ワイルドな物語のごく小さいポーション」

賭博業者に大谷自身の口座から複数回送金されていることから、筆者自身は水原氏が最初にESPNに語った「借金返済への肩代わり」を大谷が承諾してくれたという当初の発言が自然であると考える。今回の水原氏の賭博は違法行為だが、「大規模な窃盗に関与」というのは大谷と水原氏のこれまでの関係性からしても唐突感があり、大谷の口座から賭博業者に送金がなされていることとの間に矛盾が生じる。ドジャースが水原通訳を解雇したことでこの問題が一件落着となるだろうか。FBI(米連邦捜査局)が捜査しているとの情報もあり、大谷に捜査が及ぶかもしれないとする論客もいる。成り行きは不透明だ。

ESPNのトンプソン氏の同僚にあたるクリス・バックル氏はXで「この号砲(ニュース)は、 @TishaESPNと彼女の同僚によって独占的に語られる、本当にワイルドな物語のごく一部にすぎません」とコメント、この問題で明らかになっているのは氷山の一角であると示唆し、さらなる続報に含みを持たせている。

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