バーチャル第一世代の津田健次郎が子どもに伝えたいこと「体感は子どもにも大事にしてほしいし、自分自身も大事にしていきたい」

津田健次郎 撮影:有坂政晴

キャリアを重ねるにつれ、職業づけするのが無意味に思えてくる津田健次郎。声優に俳優、ナレーター、さらに2019年には映画監督としてもデビューした。そもそもは声優として、アニメ『呪術廻戦』の七海建人、『ゴールデンカムイ』の尾形百之助、『極主夫道』の龍と、様々な役でその存在を知られ、いまや連続テレビ小説『エール』、連続ドラマ『最愛』を皮切りに、特に2020年以降、俳優としても引っ張りだこ。そんな津田さんのTHE CHANGEとはーー。【第3回/全5回】

「おしりたんてい」の作品を見たことがない人でも、そのビジュアルは知っているだろう。見た目がおしり。しかも“顔”がおしりの名探偵が数々の事件を解決する、人気児童書シリーズを原作にしたアニメである。

公開中の『映画おしりたんてい さらば愛しき相棒(おしり)よ』は劇場版長編第2弾。津田さんは、おしりたんてい(三瓶由布子)のかつての相棒スイセン(仲里依紗)の師である、キンモク先生の声を演じた。

スイセンの勤めるメットー美術館で、多数の絵画が贋作にすり替えられる事件が発生。おしりたんていは、秘密結社に捕らえられて贋作を描かされているという、キンモク先生を救ってほしいと依頼される。

そのビジュアルゆえに「子供向けだろう」と高をくくりそうになるが、本作はおしりたんていの活躍を楽しむだけでなく、大人にこそ響く、非常に深い内容になっている。

――本編には、ゴッホやフェルメールなど、有名画家の絵画をモチーフとした楽しい「作品」がこれでもかと登場しますが、「本物」と「偽物」への姿勢など、深いテーマに切り込んできます。正直、ビックリしてしまいました。

「本物だと言われると、みんなありがたがる。世の中には、そんな側面があります。ちょっと逸れますけど、たとえば僕はラーメン屋さんに並ぶのとかが死ぬほど嫌いなんです。それでもたまに我慢して並んでみるんですが、“本当にこれが美味しいと思って、みなさん並んでたんですか?”という瞬間があったりしますよね。並んだ30分間に見合う味だったのか」

――(苦笑)

「かと思うと、すごく美味しいときもある。並ぶからとか有名だからで味が保証されるわけじゃない。ジャンクフードも美味しかったりするし、好みもあるので一概には言えないですし。本物だけに囲まれることがいいのかもわからない。それこそAIが作ったものと人が作ったものの差はなんなのか。そもそも何が本物で偽物かというのは、本当に難しいんですよね。ほかにも近年、フェイクニュースが溢れていたり。
“本物って?”って。ドキッとするテーマですよね。キンモク先生を通して、いろんなことを感じます。それでも表現に携わる人間としては、できれば本物に触れていきたいなとは思います。本物を追求したいですよね」

子どもには体感を大事にさせたい

――難しいけれども、やはり「本物」に触れることは大事だと。

「僕は現代っ子の走りの世代なんです。スーパーファミコンではない、最初のファミコンが小学生のときに出てきた世代。あとパソコンのことをマイコンと言っていて、それがまだ普及はしていなかった時代です。マイコンが世に出て来て、お金をかけられる人だけが手にいれ始めていた。バーチャル第一世代です。本物から遠ざかり始めた世代だからこそ、本物を追求したい思いもあるのかもしれません」

――いまは親という立場でもあります。お子さんには本物を与えたいですか?

「体感を大事にさせたいとは思います。テレビで山を見て、それがステキだったからといって、山を見たとは思わないでくれと。本物を本当に見ないと、山はわからないよと。自分自身が体感することで得ることがある。
今回、たくさんの絵画が出てきますが、僕自身、初めてゴッホの絵を見たときは驚きました。もちろん本などでは見ていました。でも本ではあの立体感はわからなかった。“これ、立体じゃん”と。絵画というより彫刻に近いぐらいで、そこにゴッホの執念を感じました。
それは本物を見ないと絶対に伝わらないと思うんです。何が本物か・・・。すごく難しいですけど、体感したなかでいろいろ感じてくれるといいなと思います」

――体感が肝ですかね。

「やけどすると“本当に熱いんだ”とか。転ぶと思った以上に“痛い” とか。ポジティブなことだけでなく、ネガティブなことも含めて、体感をしてほしいなと。映画館の没入感もそうです。音も全然違いますし、強制的に最後まで観る体験や、ほかのお客様と一緒に観る良さもある。体感は子どもにも大事にしてほしいし、自分自身も大事にしていきたいです」

哲学的な話になっていきそうだが、『おしりたんてい』を観た大人たちは、深淵なテーマを考えることになる。

津田健次郎(つだ・けんじろう)
1971年6月11日生まれ、大阪府出身。1995年に声優デビュー。近年は俳優業でも活躍。声優業の近年の代表作として、『遊☆戯☆王 デュエルモンスターズ』や『薄桜鬼』『ゴールデンカムイ』『呪術廻戦』『チェンソーマン』など。俳優業として、2020年のNHK連続テレビ小説 『エール』(兼ナレーション)、ドラマ『最愛』『ラストマン-全盲の捜査官-』『大奥 Season2』、映画『映画 イチケイのカラス』『わたしの幸せな結婚』『映画 マイホームヒーロー』など多数。

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