【3月23日付社説】能登地震・原発の災害対応/最悪を想定した策が不可欠

 情報の不足や不正確さが、混乱を大きくするというのは、東京電力福島第1原発事故の教訓だったはずだ。石川県の志賀原発(停止中)を管理する北陸電力を含む電力各社は、原発の安全対策の徹底に加えて、周辺住民から不信を招くことのないよう、情報発信の見直しを図る必要がある。

 能登半島地震により、志賀原発では1、2号機の変圧器が破損し、外部電源の一部が使えなくなった。変圧器からは放射性物質を含まない絶縁油が漏れた。福島第1原発事故をきっかけとして、電源の多様化を進めていたものの、施設内の変圧器が先に壊れる事態は想定外だったという。

 北陸電は再稼働審査に際して、能登半島北部の活断層の長さを96キロと評価していたが、今回の地震では長さ150キロにわたって動いたとみられている。

 福島第1原発事故を巡る刑事、民事裁判では建屋を襲った津波の規模を想定していたかどうかが大きな争点となっている。この事故の後である以上、安全性の楽観的な見立てや、起こり得る地震の規模を過小に見積もることは許されない。国や原子力規制委、原発を設置する各社は、最悪を過小に見積もっていないか、厳しく検証することが不可欠だ。

 北陸電は当初、2号機から漏れた油を約3500リットルと説明したものの、後に5倍超に訂正した。当初、絶縁油は構内の堰(せき)にとどまっているとしていたが、その後、一部は海に流れ出ていたとみられると発表した。

 地震直後の混乱で、正確な状況が把握しにくいのは理解できる。しかし今回のケースでは、最初の情報の後に、修正などが目立った。こうした修正は、やむを得ない場合であっても、周辺住民の不信を招くと自覚すべきだ。

 大規模災害時などに原発情報の速やかな発信は必要だが、データの正確性をできる限り担保することが求められる。

 今回の地震では、原発30キロ圏内で事故時に高齢者らが一時避難する放射線防護施設のうち、6施設に損傷や異常が起き、21施設が断水した。同原発のある志賀町では家屋の倒壊や道路の寸断が相次ぎ、地震により原発が事故を起こした際には、避難や屋内退避が難しいことが浮き彫りとなった。

 原子力規制委は2月、原発事故を含む複合災害が起きた際の屋内退避の対象範囲や実施期間などの指針見直しに着手した。事故は原発ごとにさまざまなケースが想定される。それを踏まえた指針とすることが重要だ。

© 福島民友新聞株式会社