2人の絵本作家の願い(3月23日)

 ほとんどの本は縦書きなら左へ、横書きなら右へ話が進む。小説、雑誌、詩集。読み終われば裏表紙にたどり着くのだが…。裏表紙のない絵本もある▼「どこへいくの? To See My Friend!」は両側から始まる。いわむらかずおさんとエリック・カールさんが合作した。いわむらさんは縦書きの日本語で、主人公に女の子を描いた。カールさんは横書きの英語で男の子。ページをめくるたびに犬や猫などが加わる。真ん中で出会い、みんなが笑顔で歌う。まるで永遠に続くように▼いわむらさんが手がけた野ネズミ一家の「14ひき」シリーズは国内外で読み継がれる。カールさんの「はらぺこあおむし」も世界中で翻訳された。作品展は県内で共に開かれ、根強いファンがいる。2人は幼い頃、戦時下の苦難を体験し、創作の根底に子どもの幸せと平和を望む思いがあった▼〈絵本には国や言葉の違いを越えて、人と人を結びつける力がある〉。いわむらさんの添え文が心に響く。なのに東欧で、中東で、子どもの笑顔が消え、命まで奪われ続ける。燃え盛る戦火の記には、人々の願いに行き着く裏表紙が欲しい。2人の望みを絵空事で終わらせてはならぬ。<2024.3・23>

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