普通の生活 感謝し卒業 2013年心臓移植 平田の吉田葵彩さん(蓬田小) 「中学で合唱部入りたい」

卒業証書を母明子さん(右)に手渡す葵彩さん

 重い心臓病を患い、2013(平成25)年に米国で心臓移植を受けた平田村の吉田葵彩(あおい)さん(12)は22日、蓬田小を卒業した。11年前に多くの人の支えで手術を受けられた。今も検査などのため通院しているが、日常生活に大きな制約はない。娘の成長を見守ってきた両親は、節目を迎え「普通の生活を送れるありがたさを感じた6年間だった」と感慨を語った。

 卒業式は体育館で行われた。葵彩さんは同級生と共に、4月から通うひらた清風中の真新しい制服姿で臨んだ。石井里香校長から緊張した面持ちで卒業証書を受け取り、母の明子さん(49)に「お父さん、お母さん、ありがとう」とお礼の言葉を添えて手渡した。

 教室に戻ると、級友と思い出話で盛り上がった。担任の草野紗百合教諭とも別れを惜しみながら笑顔で写真に納まった。草野教諭は「何事にも挑戦するタイプ」と教え子を評した上で「これからも好きなことに挑み、学んでほしい」と旅立ちを見送った。

 葵彩さんは東日本大震災と東京電力福島第1原発事故発生から間もない2011年4月15日に生まれ、生後10カ月で拡張型心筋症を発症した。治すためには渡米して心臓移植手術を受けるほかない。多額を用立てる必要に迫られた一家を支えようと、村民有志が支援組織を設けた。全国から善意が集まり、2013年5月に手術は成功。帰国後は自宅で両親と兄、祖父母と暮らしている。

 免疫抑制剤などの服薬は毎日欠かせず、月に1度は郡山市や東京都内の病院で採血や心電図検査を受けている。

 6年間で心身ともに大きく育った。入学時に117.5センチだった身長は150センチに伸びた。校内マラソン大会は2年生まで先生と一緒に走ったが、3、4年生になると距離は短いながらも1人で完走した。5年生からは他の子と変わらない2キロを走り抜けた。

 仲間と一つのことに取り組む楽しさも知った。合唱を体験し、歌が大好きに。「中学では合唱部に入って、みんなと歌いたい」と明るい新生活を思い描いている。明子さんは「明るく育ち、自分でできることも増えた」と成長を感じている。

 卒業式に出席した父の昌博さん(51)は11年前を思い返す。移植手術の9カ月前に小児用補助人工心臓を取り付けるか迷っていた。医師から国内初の手術で、成功率7割程度と伝えられた。「娘の命が他の病の子どものためになるなら」と覚悟したが、出術は成功して葵彩さんの容体も回復した。募金の広がりや手術の成功などの奇跡が重なり、今の家族があると支援に感謝している。「人の痛みの分かる子に成長してくれた。普通に暮らせていることが何よりうれしい」と笑顔の娘にまなざしを向けた。

※「よしだあおいちゃんを救う会」による支援 2012(平成24)年10月に平田村の村民有志が救う会を設立し、渡米や手術の費用を賄うために募金活動に乗り出した。村内上蓬田の民家に事務局を設け、街頭募金活動や情報発信を展開。約1年間に募金件数は5983口、金額は約2億3600万円に達し、渡米手術にめどが立った。

米国で心臓移植を受け、笑顔で帰国する葵彩さんと両親=2013年11月、成田空港

© 株式会社福島民報社