森保Jの大きな武器に?“ロングボール”の有効活用→連動性ある崩しで仕留める。北朝鮮戦の先制点を徹底分析

森保一監督が率いる日本代表は、ホームで朝鮮民主主義人民共和国に1-0で勝利。ワールドカップのアジア2次予選で3連勝となった。

2分に田中碧のゴールでリードを奪った日本は、その後も前半だけで多くのチャンスを作りながら1-0のまま、迎えた後半に北朝鮮の攻勢にあい、終盤は5バックにして逃げ切った。

ある種、自分たちから難しくしてしまったゲームとも言えるが、センターバックで90分奮闘した町田浩樹が「前半の入りだけで言ったら100点に近い」と振り返るぐらい、スタートが良かったのも確かだ。

得点シーンにはまさに日本の狙いと選手たちの特長が凝縮されていた。3バック、5バックという予想もあったなかで、4-4-2でスタートしてきた北朝鮮に対して、日本は右サイドバックの菅原由勢から板倉滉、町田、左の伊藤洋輝と最終ラインでボールを左に繋いで、北朝鮮のコンパクトな3ラインを揺さぶる。

伊藤にボールが渡ったところで、右サイドハーフのペク・チョンソンがプレッシャーをかけてくると、ボランチの田中が左外に開いて縦パスの受け手に。そのタイミングで、左前方の前田大然が縦に走り出した。

伊藤が左足で前線に送ると、前田は北朝鮮の右サイドバックであるキム・キョンソクにコンタクトで倒されてしまう。一度マイボールにされるが、前田が素早く立て直してチャレンジに行き、こぼれたボールをFWの上田綺世が拾った。

そこから上田が前にボールを持ち出すと、北朝鮮は2人(キム・キョンソクとチャン・グクチョル)がタイトに付いて、ボールを奪い返そうとする。その動きによって生じた手前のスペースに、田中が潜り込んでいた。

「綺世がディフェンス2枚引きつけて...ヒールかな。その前に目が合ったので、来るかなと。あまり顔を出さずに、そこで待ってても来るかなと思って。すごく良いパスをくれたので」

そう振り返る田中は左のコーナー側まで持ち上がった上田から文字通り、絶妙なチップキック気味のヒールパスを受けると、田中が「リツがファーにいるのは見えてました」と振り返るように、ファーサイドで待つ堂安律に左足のクロスボールを送り込んだ。

田中としては堂安の直接のシュートをイメージしていたようだが、実際はヘッドで折り返されたボールが、センターに走り込む南野拓実に届く。

南野が至近距離で放った右足のボレーシュートはセンターバックのキム・ユソンにブロックで弾かれたが、右前にこぼれたボールに反応した堂安が右足で再び折り返し、ちょうど空いていたマイナスコースのポケットに左から田中が入り込み、鮮やかな右足のシュートをゴール右に突き刺した。

田中は「マイナスが空いてたので、そういう意味では、良いボールをくれたので、あとは決めるだけだったかなと思います」と語るが、流れのなかで空く場所がイメージできていたからこそのゴールだろう。

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ゴール前の仕事としては、決めた田中はもちろん、アシストの堂安、その前にシュートを打った南野が目立つが、その前に深い位置でボールをキープしながらチャンスに繋げた上田、そして一度は相手に奪われながらも粘り強く自分たちのボールにした前田の貢献が大きかった。さらに言えば、前田は、上田から田中がボールを受けた時点で、そのインに走ってニアでフィニッシュに厚みをもたらしている。

起点のロングボールを出した伊藤は「立ち上がりは背後をしっかり狙って行こうということを話してましたし、そのセカンドボールが点に繋がった」と振り返るが、北朝鮮のディフェンスを裏返す意味で、もっとシンプルに前田のスピードを活かしていけたら、リズム良くチャンスを作ったり、ゲームを進められたとも感じたようだ。

ロングボールというのは、アバウトに蹴り続けると攻撃が単調になってしまうし、そもそも日本の特長に向いていない。しかし、有効に織り交ぜながら、セカンドボールからこうした連動性のある崩しで仕留めることができれば、日本の大きな武器にもなりうる。

アジアカップの8強敗退によって、ロングボール対策という課題が言われており、北朝鮮戦でも終盤は5バックにして耐え抜く形だった。しかし、一方で日本側もグラウンダーの組み立てと織り交ぜながら、うまくロングボールを活用するなかで、得点を奪ったり、自分たちのペースを掴む1つの道筋になっていく可能性を感じられる先制シーンだった。

取材・文●河治良幸

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