<10>ひとり親へ 情報直に 行政と連携 希望って何ですか

ひとり親世帯向けの食品配布会の案内通知の準備する君嶋さん。食料支援を契機に困窮家庭とつながることを目指す=2月下旬、さくら市内

 2023年12月下旬、平日夜。さくら市の氏家福祉センター駐車場は、人の行き来が絶えなかった。

 「フードバンクさくら」のひとり親世帯向け食品配布会。寒空の下、食料の入った段ボール箱を来場者の車まで運ぶ同フードバンク代表君嶋福芳(きみじまふくよし)さん(65)が、一人の母親に声をかけた。

 「今日、餅を入れといたから」

 「やった!お正月に食べなきゃ」

 ぱっと表情が明るくなる母親。中高生2人の子どもは食べ盛りで、食費のかさむ家計に余裕はないという。物価高の影響も受け同じような悩みを抱く家庭は多い。この日は、118世帯が訪れた。

 「親が精神的に追い詰められて、子どもがつらい思いをすることがないようにしたい」。食料支援を契機に困窮リスクを抱える家庭とつながることを目指す君嶋さん。原点には、同市役所職員時代の経験がある。

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 20年ほど前の出来事。市内の困窮する母子家庭で暮らす女子児童が、児童相談所に一時保護された。

 育児放棄された児童の一日の食事は給食だけ。「1億総中流社会」の香りがわずかに残る時代。「自分の足元でそんなことが起きているのか」。君嶋さんが受けた衝撃は大きかった。

 以来、近所の農家で余った米を集め、役所の子ども関係の部署に置いてもらうようにした。「困っている親子が来たら何も言わず渡してほしい」。周囲に頼んで始めた「隠れフードバンク」が、現在の活動の原型となった。

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 役所を退職後の2022年6月に立ち上げたフードバンクさくら。「『生活が苦しい』と周囲に知られたくなくて窓口を訪れづらい家庭もあるのではないか」と考えた末に企画したのが、ひとり親世帯に絞った配布会だ。

 その案内は毎年、市がひとり親世帯へ送付する児童扶養手当の受給に関する書類などに同封してもらっている。個人情報が手元にない中で行政と連携し、支援対象へ直接案内を届けるための一工夫だ。

 そこから、利用登録につながった家庭は約130世帯に上る。年4回、学校の長期休暇前などに行う配布会には、平均で100世帯超が訪れるようになった。

 利用者からは毎回、アンケートを取る。職業欄が前回の正社員からパート従業員に変わっていれば「最近、大丈夫かい?」と声をかけたり、食品の数をさりげなく増やしたりする。

 「個々の家庭に入って伴走することまでは難しい」と君嶋さんは考える。でも、困った時にSOSを出せる相手として、つながり続けることはできる。

 「社会に取り残されているような感覚の人は多い。だから『あなたを気にかけている人は居るよ』って少しでも感じてもらうことは大切なんじゃないか」

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