【2024年フォーミュラEをイチから学ぶ/前編】東京E-Prix観戦で押さえたい週末の流れと決勝レースのポイント

 3月29~30日に東京都江東区有明の東京ビッグサイト周辺で開催されるABB FIAフォーミュラE世界選手権第5戦『東京E-Prix』。日本初の本格公道レースであり、完全電気自動車フォーミュラマシンを使用するフォーミュラEにとって、初めて日本で開催されるレースということで非常に大きな注目を集めている。

 ここでは、待ちに待った日本での初レースを控え『2024年フォーミュラEをイチから学ぶ』としてフォーミュラEのレギュレーションや使用マシン、参戦メーカー、ドライバーなどを整理して3回の“特別版”としてお届け。東京E-Prixで初めてフォーミュラEを観戦するファンの助けになれば幸いだ。まずこの回ではフォーミュラEの歴史を振り返りつつ、レースウイークの進み方や予選と決勝のレギュレーションをおさらいしたい。

■創立から10年が経過した世界初の電動国際シングルシーター選手権

 本シリーズは、2011年ごろ、元FIA会長のジャン・トッドとスペイン出身の実業家アレハンドロ・アガグのふたりによって、世界初の全電動国際シングルシーターチャンピオンシップとして構想された。以降、参戦チームやレーシングコンストラクターの共同開発によるマシンの開発や、レースフォーマットの決定を経て、2014/2015年のシーズン1が北京のオリンピック公園敷地内にて開幕を迎えた。

2014/2015フォーミュラE第1戦北京E-Prix 北京のオリンピック公園敷地内で行われたフォーミュラE初のレース

 シリーズ開始初年度は、マクラーレンがパワートレインを供給していたが、シーズン2からは各チームが独自のシステムを搭載することが可能となり、ルノー、ヴァージン、ベンチュリ、ABT(アプト)、マヒンドラなどがパワートレイン開発を開始。その後はマシンもGEN2へと進化したことで、自動車メーカーの参入も加速。DS、アウディ、ジャガー、ニッサン、BMW、メルセデス、ポルシェらが続々と参戦を行った。

 マニュファクチャラーの開発競争も加速し、各チームとともにセバスチャン・ブエミやストフェル・バンドーンなどがチャンピオンを獲得してきた。これまでフォーミュラEでは計8人のチャンピオンが誕生しており、シリーズ初年度王者のネルソン・ピケJr.以外となるブエミ、バンドーン、ルーカス・ディ・グラッシ、ジャン-エリック・ベルニュ、アントニオ・フェリックス・ダ・コスタ、ニック・デ・フリース、ジェイク・デニスの7人は現在も参戦を続けている。

 フォーミュラEが積み重ねてきた9シーズンの間には日本勢も参戦している。まず最初に挑戦を行ったのは、鈴木亜久里が率いるチーム・アグリだ。初代GEN1マシンの開発ドライバーでもあった佐藤琢磨や、山本左近とともにシリーズ開始からまもなくの時期を戦った。また、小林可夢偉もGEN1マシン時代に参戦しており、GEN3マシンが導入された現在は、日本国籍チームとしてニッサン・フォーミュラEチームが参戦しており、東京E-Prixでは初のホームレースを迎える。

最多2度のチャンピオンを獲得しており、シーズン1から全季にわたって表彰台を獲得し続けているジャン-エリック・ベルニュ
2017/2018フォーミュラE第2戦香港E-Prix MS+ADアンドレッティ・フォーミュラEから参戦した小林可夢偉

■予選/決勝が一日で行われる“ワンデイ開催”が特徴のレースフォーマット

 2023/2024年“シーズン10”のフォーミュラEには、22人のドライバーが参戦しており、基本の最大総電力は300kW(予選、アタックモード時は350kw)の出力を持つGEN3マシンを使用して、世界各国で行われる全16戦を競うシーズンを戦っている。

 フォーミュラEの各大会は金曜日からのフリー走行でレースウイークが始まるF1などとは異なり、予選と決勝レースが同じ日に開催されるという特徴がある。走行セッションはシェイクダウンから始まり、フリー走行、予選、決勝という順で行われる。1大会の週末に2レースを開催する“ダブルヘッダー”の場合は、シェイクダウン、フリー走行、1戦目の予選と決勝、2日目のフリー走行、2戦目の予選と決勝という順になる。

 各大会最初の走行となるシェイクダウンはタイム計測を行わない15分間のセッションとなり、最大出力110kw以内でマシンやコースの確認を目的に実施される。シェイクダウンの後には、最初の計時走行セッションとなる30分間のフリープラクティス1(FP1)へと移っていく。

2023/24年フォーミュラE第4戦サンパウロE-Prix FP1へ向かう各マシン

 FP1は基本的にレーシングスピード域でのマシンチェックやコース状況の把握がプログラムの中心で進められることが多い。レースの結果を占うという意味では、このFP1から良いタイムを刻んでいるドライバーは予選と決勝でも上位を争うことが多いため、調子の良い選手はチェックしておきたいところだ。

 FP1を終えた後は予選と決勝を前にした最後の走行となるフリープラクティス2(FP2)に移る。予選前最後のフリー走行となるFP2の終盤は多くのドライバーがアタックシミュレーションを行う。FP1で鳴りを潜めていたチームやドライバーがFP2のアタックシミュレーションで上位に顔を出してくるのがFP2の魅力だろう。なお、FP1およびFP2両セッションでのマシン最大総電力は350kwまで使用可能になっている。

■2023/2024フォーミュラE 各走行セッションの流れ(1レースの大会)

走行セッション 走行時間

シェイクダウン 15分

フリープラクティス1 30分

フリープラクティス2 30分

デュエル予選 2グループ+デュエル7戦

決勝レース 規定周回数+追加周回

2023/24年フォーミュラE第4戦サンパウロE-Prix FP2トップタイムをマークしたサム・バード(ネオム・マクラーレン・フォーミュラEチーム)。決勝レースでも好走をみせて優勝を飾った

■予選はドライバーが1対1で直接対決する“デュエル”方式

 フリー走行に続いて行われる予選は、コースインした2台のドライバーが1対1のタイムアタックで争う“デュエル”方式を採用していることが注目ポイントだ。

 予選はまず各ドライバーのポイントランキングをもとに、奇数順位と偶数順位でAとBのふたつのグループに分かれて12分間のセッションを行い、各グループの上位4台を決めていく。このグループセッションでは、マシンの最大総電力は300kwまでに制限される。

 AとBでの上位4台、合計8台のマシンはその後に行われるデュアル予選へと進む。コースインしたふたりのドライバーが直接対決を繰り広げるデュエル予選は、タイムが速いドライバーがトーナメントのようなイメージで準々決勝、準決勝、決勝と勝ち上がっていく形式となる。各ブロックはそれぞれ同グループの1番手vs4番手、2番手vs3番手の選手が競う。このデュエルでは、マシンの最大総電力を350kwまで使用することが可能だ。

2023/24年フォーミュラE第1戦メキシコE-Prix デュエルの決勝戦に向かうパスカル・ウェーレイン(タグ・ホイヤー・ポルシェ・フォーミュラEチーム)とセバスチャン・ブエミ(エンビジョン・レーシング)

 ふたりのドライバーが参加するデュエル予選の手順は、グループ予選でタイムの遅かったドライバーが先にコースインし、10秒の間隔を空けてもうひとりもコースインする。アウトラップを終えた両ドライバーは1周の計時ラップに入り、この周のタイムでデュエルの勝敗を決めていくという流れだ。

 この予選方式によって決定される決勝レースのスターティンググリッドは、1列目が決勝デュエル、2列目が準決勝、3~4列目が準々決勝のタイム順で決定される。以降のグリッドは決勝デュエルの勝利ドライバー、すなわちポールポジションを獲得したドライバーが走行したグループの選手が奇数グリッド、2番グリッドとなったドライバーが走行したグループの選手が偶数グリッドとなり、隊列の順番が決まる。

2023/24年フォーミュラE第4戦サンパウロE-Prix ダミーグリッドへ向かうジャン-エリック・ベルニュ(DSペンスキー)

■決勝レースの鍵を握る独自システム“アタックモード”

 同日にFP2と予選を終えるフォーミュラEの決勝レースは予選終了から少なくとも3時間後に行われる。決勝は事前に決められた周回数と追加ラップを合わせたレース距離(最大レース時間は75分間)を競う。

 フォーミュラEのレースでは、他のカテゴリーでスタート前に行われるフォーメーションラップを行わず、あらかじめマシンを停止させていたダミーグリッドから本グリッドへと移動することでスタートまでの準備を終える。このタイミングで、各ドライバーはタイヤを空転させるバーンアウトを行い、タイヤの温度を上げることが多い。

 レースはスタンディングスタートを基本として行われる。決勝レースでの各マシンの最大総電力は300kwと定められているが、開始から2周を終えた各ドライバーは最大総電力を350kwに引き上げることができる“アタックモード”の使用が可能となる。

2023/24年フォーミュラE第1戦メキシコE-Prix 決勝レーススタート

 このアタックモードは、特定のコーナーのレーシングラインからアウト側に設けられた『アクティベーションゾーン』を通過することで、一定時間マシンの最大総電力を350kwに引き上げることができるものだ。なお、フォーミュラEでは各ドライバーがレース中にアタックモードを2度使用することが義務付けられており、アタックモードの継続時間は合計8分間を分割する2分間/6分間、4分間/4分間、6分間/2分間という3通りから選択することになる。

 ここでポイントになるのは、アタックモードはパワーを上げることができる一方で、使用する際にはコースアウト側に設けられたアクティベートゾーンを通過する際に必ずレコードラインから外れる必要があるため、順位を落とすリスクがあることだ。そのため、フォーミュラEのアタックモードは、ライバルに先行して使用したり、逆にレース終盤まで温存したりと、各ドライバーによって使用タイミングが異なるため、戦略の幅を生む大きな要因のひとつになっている。

2023/24年フォーミュラE第3戦ディルイーヤE-Prix アタックモードを使用するユアン・ダルバラ(マセラティMSGレーシング)とレコードラインを走るパスカル・ウェーレイン(タグ・ホイヤー・ポルシェ・フォーミュラEチーム)

 また、もうひとつのポイントになるのはレース途中での周回数増加だ。道幅が狭く、両サイドが壁に囲まれた市街地コースがメインサーキットになるフォーミュラEでは、セーフティカー(SC)やフルコースイエロー(FCY)の導入機会が多い。そのため、レース80%の周回を終えるまでに導入されたSCやFCYの総計時間を、FIA国際自動車連盟が事前に定めた基準ラップタイムを基に周回数に変換し、元のレース距離終了の3周前までに“追加周回数”としてレースに加算される。

 ガソリン燃料ではなく電力をエネルギー源とするフォーミュラEでは燃費ならぬ“電費”が重要な戦いの鍵を握る指標となる。その“電費”を稼ぐためには、ライバルらと接近戦のバトルをしながらも、ブレーキング時の回生エネルギーを利用してエネルギーをセーブする必要がある。そのなかで、使用可能なエネルギーをすべて使い切って順位を競うため、最終的な追加周回数に合わせてエネルギーをマネージメントしつつレースを戦わなければならないのだ。

 このようにしてフォーミュラEに参戦する各ドライバーやチームは、多くのバトルを繰り広げながら、アタックモードの使用タイミングや電力消費に戦略を凝らし、残るエネルギーのすべてを使い切ってレースを戦っていく。今回の東京E-Prixが初めて、もしくはひさびさのフォーミュラE観戦となるファンは、これらの流れやポイントに着目しながら観戦してみてほしい。今回のフォーミュラEレースウイークの紹介はここまで。次回はマシン、パワーユニット、タイヤといった技術面を紹介していきたい。

2023/24年フォーミュラE第3戦ディルイーヤE-Prix 上位集団のポジション争い

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