「わたしは私でいたい」10回“ペーパー離婚”している夫婦も…選択的夫婦別姓 “名前”を主体的に選べる未来を求めて

「結婚してもお互いにそれぞれの姓を名乗りたい」。そんな思いを持った東京都や北海道などに住む男女12人が国を提訴しました。「夫婦別姓の選択肢を認めない今の法制度は憲法違反」だと訴えています。広島でも長年、実現を求める人たちがいます。

『選択的夫婦別姓制度』については長い間、議論が行われています。「夫婦同姓」あるいは「夫婦別姓」を本人の意思でそれぞれ選べる制度です。現在、日本の法律では夫婦どちらかの姓に統一しなければなりません。

アメリカや中国など、法務省が把握する19か国の中では、法的に夫婦別姓が認められていないのは「日本のみ」です。さらに、全体の約95%が「女性が姓を変える」ということで「夫婦同姓」という状況が今の日本の中にあります。

3月8日、東京都や北海道などに住む30代~60代の男女12人が「夫婦別姓の選択肢を認めない現行の法制度は個人の尊重などを求める憲法に違反する」として国に賠償などを求め、東京地裁と札幌地裁に提訴しました。

「自分のアイデンティティを守りたい」

3月10日、広島市で『選択的夫婦別姓』の早期実現を求める会の会合がありました。

参加者
「結婚という幸せなときにどちらかが自分の姓を失う、変えるっていうこと自体が、家族の一体感を失わせること」

会は「姓名」の大切さやジェンダー平等実現のための学習会を定期的に開いていて、この日は40代~60代の男女7人が集まりました。

今回の訴訟の応援のため札幌に駆けつけた参加者もいます。

札幌の訴訟で応援した人
「名前変えたい人は変えてもいいよ、変えたくない人は変えなくて結婚できるよとするだけなのに」
参加者
自分のアイデンティティを守りたいっていうのが強くあって」

「時代は前に進んでいて『選択的夫婦別姓』だけが進んでいない」。この会の代表、広島市在住の医師恩地いづみさんはこう話します。

夫(71)と3人の子どもがいます。恩地さんは1983年に現在の夫と結婚しましたが…

恩地いづみさん
「当時、医師免許は戸籍名でないとダメっていうようなことだったので、職場では夫の姓で働くようになって、だけどやっぱりなんかいやだなって。わたしは私でいたいから恩地で生きていきたいから。恩地を使うためにはペーパー離婚しかない状態だった」

結婚から7年後に法的には夫と離婚。以後34年間「事実婚」の状態が続いています。

かつて広島でも国に賠償を求めて提訴 その思いとは?

恩地さん自身は、2018年に夫婦同姓を定めた民法の規定は憲法違反だとして、国に損害賠償を求め、広島地裁に提訴しました。しかし、2021年当時、最高裁は夫婦別姓を認めない民法の規定を「合憲」と判断していて、訴えは退けられたのです。

恩地いづみさん
「なんで、もう本当になんでしかないですね」

長年、事実婚を続けながらも、法律婚ではないことに将来への不安を感じているといいます。

恩地いづみさん
「例えばどっちかが亡くなった時、相続人にはならないとか、あと銀行口座の解約も相続人でないと解約できないとか、連れ合いが口座の解約一つできないことになったりしかねない」

事実婚のパートナーには原則、遺産を相続する権利がありません。

この『選択的夫婦別姓制度』には「家族の一体感が失われる」「子どもがかわいそう」といった懸念の声があるといいます。

恩地さんの3人の子どもは長男と長女が「夫の姓」を、次女は「恩地」を名乗っています。長女の希さんにとって、兄妹の姓が異なっていることは幼い頃からの自然な状態だったそうです。

恩地さんの娘・希さん
「周りの友達に『なんで名字違うの?』みたいに聞かれたことがあったんですけど、『うちの親は名前が違うって、子どもたちも名前が違うんだよ』っていう話を簡単に友だちに伝えて…」

自身も結婚し、夫とは「事実婚」を選んだといいます。

恩地さんの娘・希さん
「自身の経験として、困ったことがなかったのは経験としてはっきりしているので、逆に子どもがかわいそうって言われる親がかわいそうだなっていうか…法律婚をしながら夫婦別姓っていうのが認められる日が近いうちに来るんじゃないかなという期待をもっている」

恩地いづみさん
「法律を変えるという一歩を踏み出してもらいたいと思う」

「夫婦それぞれの姓」に高まる声 旧姓の通称使用にも限界が…

通称使用のデメリット
▼旧姓を通称使用で行くと金融機関では旧姓で銀行口座の開設やクレジットカードが作れない ※金融機関によって異なる
▼金融機関では旧姓で銀行口座の開設やクレジットカードが作れない・パスポートに旧姓併記も海外ではダブルネームとして不正を疑われることがある
▼ビジネス
学会発表などで海外に行くと論文上の名前が戸籍上の名前と異なることについて説明が求められる

広島市在住の村上恵理子さんは夫と事実婚生活をしていて、年末の時点で所得税の扶養が決まるので夫の扶養に入るために年末に婚姻届を出して年が明けたらすぐに離婚届を出しているといいます。

配偶者控除などを受けるためには夫の税法上の扶養になる必要があるからです。
そのため、これまでに10回のペーパー離婚を経験しているといいます。

経団連も政府に導入を要望しています。2月13日、経団連の十倉雅和会長は「なぜ長い間棚ざらしになっているのかよく分からない。女性の働き方や多様な改革をサポートする一丁目一番地としてやっていただいたらいい」と話しました。

「夫婦の名前」をそれぞれの夫婦が主体的に選べる…そんな未来を求める人たちの声が高まっています。

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