日本代表のビルドアップにリスクあり。森保監督の回答に残った疑問

日本代表 森保一監督 写真:Getty Images

FIFAワールドカップ26アジア2次予選(兼AFCアジアカップ・サウジアラビア2027予選)が、3月21日に東京都の国立競技場にて行われた。この試合でサッカー日本代表と朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)代表が対戦。最終スコア1-0で日本代表が勝利している。

日本代表はこの試合でいくつかチャンスを作ったが、北朝鮮代表の速攻を浴びる場面や自陣からのパス回し(ビルドアップ)が停滞するケースも散見され、試合の主導権を握りきれず。国際サッカー連盟(FIFA)のランキングで格下にあたる北朝鮮代表を圧倒できなかった(日本代表18位、北朝鮮代表114位)。

この試合で筆者が最も感じた、日本代表の問題点は何か。ここでは現地取材で得た森保一監督の試合後コメントを紹介しながら、この点について分析・論評する。


日本代表 MF田中碧 写真:Getty Images

キックオフ直後に幸先良く先制

前半2分、日本代表のFW上田綺世が敵陣左サイドでボールを収め、その後MF田中碧から逆サイドのMF堂安律へパスが繋がる。堂安のクロスを受けたMF南野拓実のシュートは相手選手に阻まれたが、この直後に堂安が再びパスを繰り出す。このボールに反応した田中がペナルティエリア内で強烈なシュートを放ち、日本代表に先制点をもたらした。

日本代表vs北朝鮮代表、先発メンバー

日本代表のビルドアップ問題

前半、日本代表は基本布陣[4-2-3-1]からのビルドアップを試みる。北朝鮮代表が敷いた[4-4-2]の守備隊形をいかに崩すのか。先制ゴールが生まれた後も、筆者はこの点に注目していた。

田中が2センターバック間へ降りる、もしくは田中とMF守田英正(2ボランチ)のいずれかが味方センターバックとサイドバック間へ降り両者の中継役を担う場面もあったが、筆者が問題に感じたのは彼らがこれらの場所へ降りてこないケースだ。

ビルドアップ時に4バックが低い位置(自陣後方)で横へ広がり、伊藤洋輝と菅原由勢の両DF(サイドバック)がタッチライン際でボールを受ける。これがこの試合の日本代表に見られた現象で、ここでボールを受けた両サイドバックが相手サイドハーフに度々パスコースを塞がれていた。

日本代表 森保一監督 写真:Getty Images

森保監督の見解は

森保監督はこの試合終了後に行われた会見で、筆者の質問に回答。前述の現象について私見を述べた。

ーお伺いしたいのは、日本代表のビルドアップについてです。4バックが低い位置(自陣後方)で横に広がり、なおかつサイドバックがタッチライン際に立つ場面が時折ありました。それによってパスコースが無くなりかけたり、相手のプレス(寄せ)をもろに浴びかけたりする場面があったように見受けられました。森保監督としては何か意図があって「これで良し」としていたのか、それともこれとは違う理想的な配置があったのか。監督がどうお感じになられていたかをお訊きしたいです。

「(狙いは最終ラインの)4人でピッチの横幅68メートルを受け持って、ボールを動かすということです。(戦況の)受け取り方には色々あって、パスコースが無くなるという受け取り方をされたということですけど、マークに付かれることで相手の陣形がどう変わるかを考えると、(日本代表の4バックが)幅を広くとれば、相手(の守備隊形)を広げることができる。パスが繋がったかどうかは分からないですけど、そういうこと(攻撃)もできます」

「相手が幅をマークせずに(守備隊形を横に広げずに)中央を締めてくれば、サイドバックがボールを受けられる。こういうビルドアップのやり方があっても良いのかなと思います」

「(ビルドアップが)うまくいっていないと捉えられるというのは、改善の余地があるということだと思います。仰る通り1点取った後、もう少しスムーズに(ビルドアップ)できる場面もあったと思いますので、そこはチームの改善点として取り組んでいきたいです」


菅原由勢(左)森保一監督(中)守田英正(右)写真:Getty Images

森保ジャパンが抱えるリスクとは

自軍の4バックが自陣後方で横に広がれば、相手の守備隊形を広げられる。相手の守備隊形が広がらなければ、日本代表のサイドバックがフリーになる。一見理に適っているように思えるが、このやり方には大きなリスクがあると筆者は考える。相手チームが日本代表のビルドアップを片方のサイドへ誘導し、追い詰めた先でプレス強度を一気に高めることが今後想定され、この守備への対策が不十分に思えるからだ。

仮に相手チームの守備隊形を、今回の北朝鮮代表と同じく[4-4-2]とする。日本代表のサイドバックをあえてフリーにし、2トップが日本代表の2センターバックを、両サイドハーフが内側に絞って同代表の2ボランチを捕捉。こうすることで中央が封鎖され、日本代表のパスコースがサイドバックしか無い状況に。サイドバックへパスが繰り出された瞬間、相手チームのサイドハーフが日本代表のサイドバックへ寄せ、これと同時に2ボランチもスライド。相手チームが逆サイドのマークを捨て、ボールサイドの日本代表選手のマークを完遂したとき、前述の森保監督の目論見が崩れてしまうのだ。

相手チームがこの守備を仕掛けてきた場合、サイドバックが一瞬フリーになるためここからのロングパスで局面を打開することもできなくはないが、これを防ぐために相手サイドハーフが日本代表のサイドバックに寄せてくるため、成功する確率は低いだろう。森保監督が語ったビルドアップのやり方(選手配置)で、この追い込み漁に近い相手の守備を攻略できるのか。筆者のなかでこうした疑問が残った。

より高度な守備戦術を有するチームと対戦する際、日本代表が今後こうした守備を仕掛けられる事態が想定される。この筆者の危惧が、ビッグゲームで現実のものとならないことを願うばかりだ。

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