ピアノを大事にするために。ピアノと長く一緒に暮らすコツ【榎政則の音楽のドアをノックしよう♪】

音楽が好きな人なら、自分の楽器を買ったときの喜びは一生忘れられないものとなるでしょう。その中でもピアノは、家に設置するタイプの楽器であり、一緒に生活することになるといっても過言ではありません。ケースにしまうことができないため、あなたが家の中で感じている空気はピアノも同じように感じています。

ピアノは大切に扱えば100年後も音楽を奏でることができます。一緒に生活する仲間としてのピアノとの接し方のコツをお話します。

定期的な調律

やはり、ピアノのメンテナンスといえば調律です。家庭用のピアノの調律は目安としては1年に1回行います。アップライトピアノの場合は10,000円~15,000円、グランドピアノの場合は15,000円~25,000円程度が相場となります。

一度に払う金額としては決して安くないですが、楽器を長持ちさせるために、そして楽器の魅力を最大限引き出すためにぜひ定期的な調律を行いましょう。

バイオリンもギターも、弦楽器であれば、演奏前に毎回調弦をします。楽器の調律は本来それほどずれやすいものです。調律がずれる要因として大きいものは、以下のようなものです。

・弦の伸縮 ・弦を留めるネジのゆるみ ・楽器本体のたわみ具合の変化

弦の素材・楽器本体の素材は、木材だったり金属だったり合成繊維だったり動物由来だったりと様々です。もちろんそれぞれ温度や湿度によって伸縮の具合が異なります。

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ピアノも弦が張られている楽器ですから、本来は演奏前に毎回調律するべきです。実際、演奏会用のピアノは、リハーサル前、本番前、前半と後半の間の休憩の3回調律を行うこともあるくらいです。

それでもピアノの調律が1年に1回でよいのは不思議なことです。

ピアノの内部には金属のフレームがあり、これがガッチリと弦の張力を支えているため、木だけで支えているバイオリンやギターよりかは調律がずれにくくなっています。

それでも一本の弦にかかる張力は70kg~90kgもあるため、それが毎日24時間常に緩むことなく掛かり続けていることを考えると、定期的な調律の大切さがよくわかります。

なるべく毎日弾く

楽器は演奏すること自体がメンテナンスになります。これはどんな楽器でも変わりません。人が住まない家は驚くほど速く廃墟になってしまいますが、楽器も同じです。

ピアノを1年間弾かずに放置しておくと、1年間毎日8時間弾いているときよりも速く劣化してしまいます。

できれば、毎日すべての鍵盤を弾いてあげましょう。そうすることで、楽器がやわらかい音を奏でるようになってきますし、ちょっとした不調にもすぐに気づけるようになります。

特に自分の耳も楽器に慣れてきます。聞いている人にはなかなか気づかないような、ちょっとした音色の変化も、自分の指でコントロールできるようになってきます。

また、楽器になれると、リラックスして演奏することができるため、楽器にとっても優しい演奏が可能になり、音色も良くなってきます。

毎日弾くということは、楽器もあなたも柔軟になり、それ自体がメンテナンスになるのです。

ピアノと生活するうえでの心構え

それでは、生活のなかで、ピアノを大切にする心構えをいくつかご紹介します。

・飲み物をピアノの上に置かない

単純にこぼしてしまうリスクがあります。ピアノは思った以上に振動し、揺れる楽器です。

ピアノは木材と金属でできていますが、木材は液体を吸い込んで膨張してしまい、金属はさび付いてしまいます。こうなると、ピアノの劣化が速くなるどころか、最悪の場合修理に出す必要がでてきてしまいます。

たとえこぼさなかったとしても、冷たい飲み物は結露した水分がピアノの上に垂れてしまったり、温かい飲み物はその熱で本体にダメージを与えてしまいます。

もちろん、ピアノを生活の一部として、机に使って、食卓に使って、という愛情のかけ方もあるかもしれません。あなたのピアノであればそのような使い方を絶対に禁止するというわけではありませんが、楽器としてはやはり大きなダメージを負ってしまいます。

・キッチン、食卓から離して設置する

ピアノに油分がついてしまうと、なかなか取ることができませんし、慌ててアルコールペーパーで拭いてしまうと塗装が剥げてしまったりと、余計劣化してしまうこともあります。

また、湯気もピアノにとっては大敵です。

できるかぎりキッチン・食卓とは距離を置き、食事のあとは手を洗って演奏したいものです。

・内部構造にはできるかぎり触らない

そして、弦や響板といった内部にはできる限り触らないようにしましょう。手の油分が金属に付着すると、錆び付きの原因となってしまいます。

しかし、弦を直接はじくと、ギターのような独特の音色が鳴り、これはこれで面白い効果を得ることができます。

これは「内部奏法」といって、立派な演奏方法の一つです。

⇒ピアノでどうしても弾けない難しい曲に出合ったら?マスターする方法とは

もし、あなたが創造力に満ち溢れていて、新しい響きとピアノの可能性を追求したい、という場合は、手をよく洗い、できるかぎり手から油分を取って、優しく弦に触れるようにしましょう。

また、触る際も、ひっかくようなことはせず、押さえたり、軽くはじく程度にしてください。

そして、自分の所有しているピアノでない場合は、許可なく内部に触ることは絶対にしないでください。

いろいろなことを試して、ピアノの可能性を広げよう

ピアノはげんこつでたたけば雷に打たれたような破壊的な音が鳴りますし、ゆっくりと音が鳴らないように鍵盤を動かすと、弦から音を止めるためのフェルトが外れたときのフワッとした音が鳴ります。

どんなことをすると、どんな音が鳴るのか、思う存分試してみましょう。

そして、とにかく毎日弾きましょう。

ピアノの鍵盤の蓋は一切閉じなくても良いと考えています。

ピアノの横を通ったらとりあえず鍵盤を押してみたり、考え事をするときにピアノで音階練習でもしながら考え事したり、右手でスマホをいじりながら左手で何か弾いていたり、そのように独り言のようにピアノを弾くようになると、自分の声のように自由に演奏をすることができるようになるかもしれません。

ピアノを生活の一部にしていってください。(作曲家、即興演奏家・榎政則)

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 榎政則(えのき・まさのり) 作曲家、即興演奏家。麻布高校を卒業後、東京藝大作曲科を経てフランスに留学。パリ国立高等音楽院音楽書法科修士課程を卒業後、鍵盤即興科修士課程を首席で卒業。2016年よりパリの主要文化施設であるシネマテーク・フランセーズなどで無声映画の伴奏員を務める。現在は日本でフォニム・ミュージックのピアノ講座の講師を務めるほか、作曲家・即興演奏家として幅広く活動。

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