1学級に1~2人がヤングケアラー「親が働かないんでお金を出してあげたりとか」6割以上に相談経験がない 解決策は…【岡山】

特集は貧困などを理由に家事や家族の世話をする子どもたち、いわゆるヤングケアラーです。不登校になったり、希望する進学が叶わなかったりと様々な弊害があるため、政府も、対応を強化する方針を打ち出しています。しかし、岡山県内の元当事者や専門家を取材すると、依然として不十分な支援の実態が見えてきました。

「親が働かないんでお金を出してあげたり」「おなかすいた時も寝たら大丈夫か」

(元ヤングケアラーのAさん)
「親が働かないんで、お金を出してあげたりとか。17歳の時には学校を辞めて、本格的に(コンビニの)バイトに入りだした。妹も(小学生で)小さかったんで、弟も中学生だったんで、僕がちゃんとしないとなと思っていた。収入があまりなかったので、おかずですかね。肉団子だけとかで、ご飯足りないなとか。おなかすいた時も、寝たら大丈夫かとか、そんな感じで過ごしていましたね」

津山市に暮らす、20歳の男性、Aさんです。3年前まで5人の家族を一人で養っていました。

きっかけとなったのは高校1年生の時。トラックの運転手をしていた父親が突然会社をやめ、酒に溺れるようになりました。そのような中、母親も精神的に病み、引きこもりの状態に。同じく精神的に問題を抱えていた姉、さらに幼い弟と妹を食べさせるため、Aさんは学校にも行かず、コンビ二のバイトに明け暮れるようになってしまったのです。1年後には高校を中退。夢も諦めました。

(元ヤングケアラーのAさん)
「子どもが好きなので、学校の先生か保育士とかをやってみたいなと思っていた。そういう家庭になってから、勉強する時間も減ったし、諦めましたね。その時は『辛い』はなかったですね。がんばらないとだけ」

母親がNPO法人に助けを求めると…開かれた未来

そんな生活を始めて1年半…。耐えかねた母親がNPO法人に助けを求めます。Aさんは津山市のNPO法人「ゆいか」に保護され病院に就職しました。ゆいかの代表、福原さんは保護する前の生活が続けばAさんの人生は制約を受け続けていた可能性があると言います。

(NPO法人ゆいか代表 福原寛人さん)
「もしうちに来ていなかったら、(Aさんは)車の免許も取れていない、就職もしていない、ずっとアルバイトで過ごしていたかもしれないですね。人生をそれで終えるところだったけれど、たまたま何かのきっかけで関わりあえたので変わっただけで」

かつてのAさんのように、大人に代わって家事や家族の世話を行う子どもは「ヤングケアラー」と呼ばれています。国の調査によると、中高生の約20人に1人が、世話をしている家族が「いる」と回答。つまりは1学級に1人から2人、ヤングケアラーが存在していることになります。注目すべきはこのうちの6割以上に相談経験がないということ。「相談するほどの悩みではない」「状況が変わるとは思わない」などと感じているといいます。
Aさんの場合も…

(元ヤングケアラーのAさん)
「友達にも心配させたくなかったし、相談はあまりしなかったですね」

当時のAさんの様子について、同級生は。

(Aさんの同級生)
「会った時はそういう感じには見えなかったです。深刻な環境にいたっていうのは衝撃というか」

当事者を把握するための学校の体制が不十分 その解決策は

実態把握が難しいヤングケアラー。自治体の取り組みを促そうと、政府は去年12月、ヤングケアラーについて法律に明記し、新たに支援対象に加える方針を固めました。

しかし、学校現場ではいまだ対策が進んでいないとケアラーの支援を続けてきた岡山弁護士会の竹内弁護士は指摘します。

(竹内俊一弁護士)
「一番の理由は、学校の先生がいっぱいいっぱい、やることがあまりに多すぎてそこまで手が回らない」

そんな中、自治体が取り組むべき対策としてあげるのが、専門職の増員です。

(スクールソーシャルワーカー)
「小さいSOSがあるんですよ。遅刻が多くなったりすると、その背景に何かあるかもしれないと」

たとえば、スクールソーシャルワーカー。子どもや保護者と面談を行い、課題が見つかれば専門機関につなげる仕事です。

しかし岡山県も、岡山市でも一人で複数の学校を掛け持ちしているため、つぶさな実態の把握は難しく、増員が課題であると竹内弁護士はいいます。

(竹内俊一弁護士)
「一つの学校に一人専属みたいな形でないと(当時者の把握は)難しいと思うんですよね。スクールソーシャルワーカーを増やすことにお金を投入することはある程度は、できると思っています。子どもたちが苦しい状況になっていくのを、大人たちが放っておいていいのか、というのが一番大事な考え」

かつてヤングケアラーだったAさんも、社会が変わることを望んでいます。

(元ヤングケアラーのAさん)
「どこに相談していいとか全く分からなかったんで、手助けしてくれる、そういう世の中だったらよかったですね」

すぐそばにいるヤングケアラー。今も静かに大人の助けを求めています。

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