中国に根付くドイツ企業、9割以上が「撤退しない」

中国に根付くドイツ企業、9割以上が「撤退しない」

江蘇省太倉港の海通自動車埠頭(ふとう)内にあるヤード。(2023年3月13日、小型無人機から、太倉=新華社記者/李博)

 【新華社南京3月23日】ドイツ経済研究所のリポートによると、2023年のドイツの対外直接投資に占める中国向けの割合は10.3%となり、2014年以来の最高水準に達した。ドイツ企業は依然として中国を巨大な成長市場と見なし、中国での事業を拡大しようとしている。

 ドイツの政府や研究機関などが最近発表したリポートやデータを見ると、中国とドイツの経済貿易協力は拡大傾向にあり、ドイツ企業は対中投資を続け、中国での展開を加速している。中国に進出しているドイツ企業は、実際にどう感じているのか。現実主義で堅実なドイツ人がこぞって中国市場に進出するのはなぜか。「ドイツ企業の街」として知られる江蘇省太倉市とドイツの首都ベルリンを訪ね、ドイツ企業の幹部や中国で起業したドイツ人に話しを聞いた。

 「ドイツ企業の街」進出企業の発展の歩み

 「車を1台造るのに、太倉だけで7割の部品が見つかる」。市内に拠点を構えるドイツ企業のうち、7割を自動車関連企業が占める。太倉には「メードインドイツ」の強力なクラスターが形成されている。

 自動車大手フォルクスワーゲンのサプライヤーの一つで世界的に有名なばねメーカーのケルン・リーバースは1993年、太倉に「お試し」で進出。400平方メートルの賃貸工場に従業員が6人と小規模でのスタートだったが、11回の増資を経て、今では7万平方メートルの自社工場を持つ。年間生産額は15億元(1元=約21円)で同社にとって世界最大の拠点となる。

中国に根付くドイツ企業、9割以上が「撤退しない」

ドイツのノルトライン・ベストファーレン州ベックム市で行われた、太倉進出500社目の記念プレート授与式。物流システム大手ボイマーグループに贈られた。(1月22日撮影、 ベックム=新華社記者/杜哲宇)

 同社の進出が、太倉とドイツ企業の協力の始まりだった。現在はドイツ企業500社余りが太倉に根を下ろし、事業を展開している。「個人の努力は足し算で、チームの努力は掛け算である」というドイツのことわざが、30年間加速し続けてきた太倉での中独協力の歩みを端的に物語っている。太倉進出のドイツ企業が100社を数えるまで14年を要したが、400社目から500社目まではわずか2年で到達した。統計によると、早い段階で太倉に進出したドイツ企業の9割以上が増資と生産拡大をしている。

 太倉ハイテク産業開発区欧商投資企業協会(太倉欧商会)の沈亜(しん・あ)副会長は、太倉では2001年以降、ドイツ企業が続々と進出し「開業のテープカットや風船を飛ばす様子が頻繁に見られる」と語った。

中国に根付くドイツ企業、9割以上が「撤退しない」

5日、ドイツ・ベルリンで開かれた世界最大級の旅行業界見本市「ITB ベルリン」の中国ブースで、面塑(しん粉細工)の説明を聞く来場者。(ベルリン=新華社記者/任鵬飛)

 創業100年の工作機械大手シロングループの太倉進出は12年。営業所から始まり、今では生産、研究開発、販売、サービスなど全てを現地化している。工場の規模は4倍に拡大した。

 同社の中国法人、巨浪凱竜機床(太倉)のウィリー・リスト最高技術責任者(CTO)は、太倉の良好なビジネス環境が外資系企業の中国での発展に寄与していると指摘。「わが社は中国での事業に十分な自信がある。今年も事業の安定を見込んでおり、20~30%の成長を目指したい」と述べた。

 中国市場の「ビジネス」環境に感嘆

 中国には「碧螺春(へきらしゅん、中国の代表的な緑茶)は大樹の下に植える」ということわざがある。地元に根を下ろした企業にとって、太倉は「碧螺春」、上海は「大樹」になる。長江沿いにあり、上海に隣接するという交通の便の良さは、多くのドイツ企業にとって太倉を選ぶ最初の動機となる。

中国に根付くドイツ企業、9割以上が「撤退しない」

江蘇省太倉港の夜景。(3月19日、小型無人機から、蘇州=新華社記者/毛俊)

 太倉の中心市街地は、上海の中心からわずか50キロ。太倉は長江最大のコンテナ港でもある。23年のコンテナ取扱量は800万TEU(20フィートコンテナ換算)、貨物取扱量は2億7千万トンをそれぞれ超えた。

 「上海に隣接し、港や空港などのインフラも整っている。起業するには理想的な場所だ」。中国に住んで十数年になる電子部品メーカー益技欧電子器件(中国)のアンドレアス・ホーンフィッシャー総経理は、太倉には十分な労働力と整備されたサプライチェーン(供給網)があるほか、ゆったりして落ち着いた雰囲気がドイツの小さな町を思い起こさせると話した。

 「水質の良しあしは、水の中の魚が一番よく知っている」。ドイツ企業の多くの中国駐在員は、立地の良さが「投資を呼び込む魔法の宝」となり、ビジネス環境が「人材をつなぎとめる武器」になっていると感嘆する。「ドイツ企業の街」として発展に力を入れる太倉の取り組みは、経済構造の転換と高度化の加速、ビジネス環境の最適化、高水準の対外開放の拡大などの施策の縮図でもある。大規模な消費者市場、先進的で整備されたサプライチェーン、日増しに高まるイノベーション能力が、中国に根を下ろす多国籍企業を増やしている。

中国に根付くドイツ企業、9割以上が「撤退しない」

滬蘇通鉄道(上海-蘇州-南通)の蘇州省太倉区間を走行する列車。(2023年10月10日、小型無人機から、新華社配信)

 スポーツ用品大手アディダスは、中国市場への進出から20年余り。中国のビジネス環境の最適化と産業構造の高度化を見続けてきた。

 蕭家楽(しょう・からく)大中華区董事総経理は「中国の高水準の対外開放はここ数年、着実に進んでおり、中国市場の開拓に力を入れる多国籍企業に大きな発展の機会をもたらしている」と指摘。中国は世界最大の消費者市場の一つであり、アディダスを含む多国籍企業にとって最も重要な戦略的市場の一つだと述べた。世界で最もデジタル化が進んだ消費者市場でもあり、「デジタル小売り」やサプライチェーンなどの分野で世界の最先端を行っていると見る。

 中国を選ぶ理由 9割以上が「撤退しない」

 在中ドイツ企業などが加盟する中国ドイツ商会が1月に発表した調査報告によると、9割以上の企業が中国での事業展開を続け、撤退する計画はないと回答。半数以上が今後2年以内に対中投資を増やす計画だと答えた。

中国に根付くドイツ企業、9割以上が「撤退しない」

新ユーラシア・ランドブリッジ(中国江蘇省の連雲港市とオランダのロッテルダムを結ぶ鉄道)の東側起点。(2023年9月16日、小型無人機から、連雲港=新華社記者/殷剛)

 ドイツ連邦銀行(中央銀行)の複数の専門家は最近のリポートで、ドイツの多くの工業企業がここ数年、中国での生産を通じて高い売り上げと利益を得ており、対中輸出が企業にとって重要な収益経路になっているとの見方を示した。

 アナリストは、今の中国経済には世界の大きな仕組みに溶け込む力があり、世界が注目する中、「量的優位」から「質的優位」への高度化が進んでいると指摘。外資系企業にとっては試練であり、チャンスでもあると分析した。

 ドイツ企業の多くの責任者は、今の中国市場は「トレーニングルーム」のようなものだと語った。在中多国籍企業が競合しながら発展し、地元企業の飛躍的な発展を促した一方、外資系企業も転換と高度化を迫られたことで、多くのドイツ企業が研究開発本部を中国に置くことを選び、現地化による発展を実現したと話した。

中国に根付くドイツ企業、9割以上が「撤退しない」

世界最大の産業見本市「ハノーファー・メッセ」の蘇州省太倉市ブースで、スタッフ(右)と交流する来場者。(2023年4月19日、ハノーファー=新華社記者/任鵬飛)

 アディダスの蕭氏は「わが社は中国で、デジタル技術の応用と新たなチャンスの創造に取り組み、製品の研究開発の高度化とサプライチェーンの効率向上を実現させた」と説明。中国は生地の研究開発や生産工程、全産業チェーンの効率的な連携などの面で世界最先端の水準にあるとし「サプライチェーンやデジタル小売り、物流分野の実践が、アディダスの世界的な発展に経験と実証を提供してくれるよう願っている」と述べた。

 「デカップリング(切り離し)やチェーンの分断はあまりにも荒唐無稽である。どの国も単独ではやっていけない」。巨浪凱竜機床のリスト氏は、グローバル化は常に進行中との見方を示した。

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