ご存じですか?「鉄道公安官」 37年前、民営化で国鉄職員→警察官に転職…残り数人に

民営化に伴う引き継ぎ式を終え、鉄道警察隊員に握手して回る旧鉄道公安官ら=1987年4月1日、JR神戸駅

 1987年4月の「国鉄民営化」によって、警察官に転身した国鉄職員がいた。駅や客車の治安を守る「鉄道公安官」だ。同僚の多くが新会社のJR各社へ籍を移す一方で、警察組織に新天地を求めた彼らも、37年の歳月の間に次々に退職。昭和の一大改革の影響をじかに受けた「公安官出身」の現職警察官は、もうほとんど残っていない。 ### ■お客さんとの触れ合いも多かった

 「鉄道公安」の腕章、警笛に手錠…。古びた手帳には、所属先の「福知山鉄道公安室」とともに20代前半の頃の顔写真が貼られている。

 かつての仕事道具を手に、南但馬署地域課警部補の金子昌敏さん(60)=兵庫県丹波市=が懐かしそうに振り返る。「公安官といっても、いつも事件があるわけではなくて。お客さんとの触れ合いも多かったですね」

 82年、高校を卒業して福知山鉄道管理局に入った。配属先の客貨車区で労働組合間の対立に巻き込まれ、「公安官になれば、組合から外れることができる」と試験を受けて鉄道公安室に異動。86年12月に起きた余部鉄橋列車転落事故の初動捜査にも携わった。

 民営化に当たり、警察官以外の選択肢もあったが「公安官は全員がなるものだと思い込んでいました」と苦笑い。東灘署を振り出しに、自動車警ら隊(現機動パトロール隊)など地域部門を中心に歩んだ。

 昨年5月に60歳となり、気が付けば、兵庫県警の現職警察官で公安官出身は数人に。今春以降も再任用で勤務するが「自分たちが退職すれば、公安官の記憶も絶えてしまうんだろうな」と感傷に浸る。 (小川 晶) 【鉄道公安官】駅舎や車両内など国鉄の管理下における事件、事故の捜査を担当した国鉄職員。逮捕権を持ち、身柄を拘束した場合は管轄の警察などに引き継いだ。国会の議事録によると、民営化直前の1986年11月時点の定数は2882人で、うち約1900人が警察官への転籍を希望。民営化で発足した各都道府県警の「鉄道警察隊」に配属された公安官もいたが、多くは一般の警察官と同様の処遇を受け、各部門に振り分けられた。

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