6歳の次男はある日突然「ママに会いたくない」と口にした。それから10か月、わが子に会えていない

この2月、法務省法制審議会は「共同親権」を可能にする民法改正要綱を答申しました。「共同親権」とは、離婚後は父か母のどちらか1名に子の親権が帰属する現状の「単独親権」ではなく、離婚後も父母の双方が子の親権を持つ方式です。政府は今国会にも民法改正案を提出する方針です。

改正の背景には「子の連れ去り問題」があります。離婚を考える親が親権を確保するための監護実績を作ろうと、子どもを連れて姿を消す事象で、海外では「誘拐」と判断される違法行為です。

長年この問題を追いかけてきたライターの上條まゆみさんが、連れ去りの実態を解説します。

【共同親権を考える#3】前編

そんなバカな…「子どもに捨てられた」母親。いったい何が起きたのか

離婚や別居で、子どもに会えない親がいる。父親だけでなく、母親もいる。もしかしたら世間では、子どもに会えない母親=酷い母親だというイメージが強いのかもしれない。子どものほうから「会いたくない」と言われてしまったと聞けば、なおさらだ。でも、ことはそう単純ではない。

「子どもの口から、はっきりと『ママに会いたくない』と言われてしまいました。私、子どもに捨てられたんです」というのは、坂本綾さん(仮名・51歳)。

綾さんは16歳と6歳、二人の子どもの母親だ。6年前、長男を連れて再婚。次男が生まれたが、1年前に離婚。綾さんを「捨てた」のは、6歳の次男のほうである。

「離婚にあたり、元夫は次男の親権にこだわったので、話し合いの末、親権は元夫に譲りました。そのうえで、週の半分ずつ互いの家を行き来すると決めたんです。書面にまとめ、捺印もしました」

金曜日に綾さんと長男が暮らす家に来て、月曜日に元夫の家に行く。保育園への送迎は、一緒にいる側の親がおこなう。いわゆる共同養育である。

数ヶ月は、それでうまくいっていた。ところが。

「元夫から『次男が明日、ママの家に行かないと言っている』というメッセージが入ったんです。離婚するとき、当然のように『ママと一緒に暮らす』と言っていたのを説得してママとパパ半々にしたほどのママっ子だったので、すぐには信じられませんでした。でも、金曜日に園に迎えに行ったら、『今日はママのところに帰らない。パパに電話して』と。そして、そのまま元夫に引き取られていきました」

その日から10か月ほど経つ今日まで、綾さんは次男と会えていない。

「モラハラ夫はある日突然モラハラを始めるわけではない」

綾さんと元夫は、仕事関係の会合で知り合った。綾さんは再婚だが、元夫は初婚。元夫は子どもを切望した。

「年齢的にも一か八かだと思ったので、まず妊活したんです。奇跡的に妊娠したので、籍を入れました」

元夫は子どもを授かったことを喜び、綾さんの実家から徒歩1分のところに家を買ってくれた。

「前の結婚相手には浮気や借金で散々な目に遭わせられたので、ポンと家を買ってくれる男気がうれしかった」

一方で、元夫はモラハラ気味で、お酒が入ると暴れる悪癖があった。豊かとはいえない生まれ育ちにコンプレックスがあり、それが刺激されるとキレる。逆境を乗り越え仕事で成功したタイプで、逆にいえばそれが自分の拠りどころなのか、綾さんが仕事で活躍するのをいやがった。

「面倒な性格だとわかってはいたのですが、愛情で包み込めば大丈夫、私が変えてみせる、と思っていたのです。完全に自分を過信していました……」

人を変えることなど不可能だ。一緒に暮らし始めて綾さんは、それを思い知ることになった。どんなに愛情を注いでも、元夫は満たされない。結婚してすぐ次男が生まれ、綾さんが子育てにかかりきりになったことも、元夫の心を不安定にした。

「両親との愛着に課題があり、自己肯定感が低いので、人の愛情を信じられないのだろうと私は分析しています」

前編記事では綾さんのご主人が「モラハラ夫」の片鱗を見せるまでの経緯を聞かせていただきました。後編ではモラハラ夫が一気に「誘拐夫」に変貌する経緯をお話いただきます。

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