【試乗記】「酔う特急やくも」払拭できたか!? 新型・273系に興奮と感動 気になる点も・・・ 

4月6日に営業運転を始める特急やくもの新型車両273系=出雲市斐川町直江

 4月6日に運行を開始する特急やくも用の新型車両「273系」の一般向け試乗会が23日、JR山陰線と伯備線であった。全国の鉄道ファンのほか、鉄道関連動画を投稿する「鉄道系ユーチューバー」も多数乗車し、JR西日本が技術の粋を集めた新型車両の乗り心地を体感した。ファン注目の試乗会に添乗した様子を紹介する。

 試乗会はJR西日本のアプリ「WESTER(ウェスター)」の会員限定で、出雲市-米子、米子-生山など計6区間で各100人を募集した。JR西によると、応募は全国各地から計3万人を超えたといい、42年ぶりとなる特急やくも新型車両への注目度の高さを物語った。

 4両編成の273系には、普通車、グリーン車のほか、JR西管内の在来線特急で初めてという2~4人用のグループ向け座席「セミコンパートメント」を設置。座席の下部を拡張し、足を伸ばしながらくつろげるシートを採用し、大型テーブルを挟んで家族や仲間の旅を楽しめる。

 座ってみると、背もたれの感触がほどよく、窓も大きいため、宍道湖や出雲平野の眺めを存分に楽しめた。静粛性も保たれており、普通車指定席料金で乗車できることを勘案すると、かなり「乗り得」な席といえる。

 現在のやくもで活躍する381系は、普通車の座席間隔が窓の配置と合っておらず、「座席の横が壁」という”はずれ席”がいくつかある。273系では座席と窓の間隔を合わせており、どの席でも車窓を楽しめるようになった。

「やくもは酔う」過去の思い出に

 肝心の乗り心地はどうか。381系は、カーブの通過時に急に傾いたり、加速時や高速走行する際に左右・前後方向の細かな振動が起きたりし、乗り心地悪化の要因となっていた。一方の273系は、制御付振り子装置の効果で、カーブに進入する際はゆっくり傾き、直線に入ると徐々に正常な位置に戻るようになったほか、出発・減速時も非常に滑らかになり、乗車時の不快感は大幅に減った。

 記者も幼少期は特急やくもに頻繁に乗車したが、横揺れで気持ち悪くなった経験がある。「やくもは酔う」というイメージは過去の思い出となりそうだ。

新型にも気になる点が・・・

 気になった点もある。走行中に通路を移動中、駅などにあるポイントやレールのつなぎ目を通過した際に、やや強い横揺れと上下の振動を感じた。座席上部に付いているグリップ(手すり)が大型化されたため、381系よりふらつきは収まったとは思うが、線路改良などで改善できないものだろうか。

 座席に付いている可動式の枕カバーが動かしづらかったのも気になった。JR東日本の新幹線車両では、頭位置に合わせやすいよう簡単に上下にスライドできるが、273系は少し力を入れて動かしながら調整する構造となっており、子どもやお年寄りが困るのではと心配になった。

同乗者の評価は?

 参加者に273系の乗り心地を尋ねた。やくもに複数回乗車した京都市の会社員小田庸夫さん(58)は、「乗り心地は格段に良くなった」と評価。特にセミコンパートメントが気に入ったといい「山陰への旅行の楽しみが増える」と話した。

 車内では、参加者が撮影機材やスマートフォンを使い、熱心に撮影する様子が見られた。登録者数55万人の鉄道系ユーチューバー・西園寺(さいおんじ)さん(23)=大阪府=は「座席のレパートリーが増え、乗る楽しみが格段に増えた。何度でも乗りたい」と笑顔。同じく鉄道系ユーチューバーで登録者数11万人のZAKI(ザキ)さん(23)=同=は「座席間隔も広く、車内スペースをぜいたくに使った良い車両だ」と満足そうだった。

完成度の高さに興奮、感動

 JR西によると、273系は運行開始以降、段階的に本数を増やし、6月16日から全便が置き換わる。所要時間短縮は行わないが、山陰営業部の足立智課長代理は「快適性は大幅に向上しており、多くのお客さまに新しい乗り心地を体験してほしい」と話した。

 試乗会に添乗し、さまざまな工夫が凝らされた273系の良さを実感した。近年登場した新型車両の中でも完成度は非常に高く、記者も実車に乗車して興奮と感動を覚えた。参加者の多くが笑顔で車内を散策していた様子からも、陰陽連絡の主力である特急やくもの顔となる273系への期待の高さを感じた。

 山陰地区のJR線では、特急スーパーおきなどに使われるキハ187系以来、約20年ぶりの新型車両となった273系。旅が楽しくなる仕掛けと最新鋭の技術を搭載した新型車両の運行開始で、陰陽連絡特急の歴史に新たな1ページが刻まれる。

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