消える遊具の一方で「インクルーシブ公園」が登場も… “みんなが遊べる”の実現にはまだ大きな課題も

危険な遊具は消え、誰もが遊べるインクルーシブ遊具などが登場している最近の公園。時代とともに変遷してきた公園の現状について、TOKYO PLAY代表の嶋村仁志さんに聞きました。

老朽化や安全上の理由で消える公園の遊具

かつて「公園の三種の神器」といわれ、どの公園にもあったのが、ブランコ・滑り台・砂場。いずれも都市公園法でその設置が義務付けられていましたが、1993年の改正でその必要がなくなりました。 時代とともに進化する公園。最近は一つの遊具でいろいろな遊び方ができる「複合遊具」も増えています。逆に「箱型ブランコ」のように、安全上の理由から姿を消した遊具もあります。 「子どもの遊びにやさしい東京を」をビジョンに掲げ、都立砧公園のインクルーシブな遊び場「みんなのひろば」の運営も手伝う一般社団法人TOKYO PLAY代表の嶋村仁志さんは、次のように話します。 「国土交通省が遊具の安全確保に関する指針などを整備し、昔はそこまで考えられていなかった安全性が格段に上がりました。子どもはメーカーが想定した以外の遊び方をするものですよね。 私たちは子ども自身が予測できない隠れた危険のことを『ハザード』と呼んでいますが、そうしたハザードによって不用意に命を落とさないで済むように遊具が改善されているのはよいことだなと思います。 それでも、事故の可能性をゼロにするのは難しく、結果、管理責任を問われないよう挑戦度の高い遊具はなくなる傾向にあります。 老朽化してもメンテナンスや新しい遊具を設置するための予算がなく、ケガが発生したことをきっかけに管理責任の問題で撤去されてしまうことが多くなっています」 All About編集部が実施した公園についてのアンケートでは、こうした現状に「昔に比べて遊具が少なくさびしい」「遊具が撤去された公園で遊ぶのは楽しいのかな」といった子育て世代の声がありました。

ハード面の整備が進むも、“みんなが遊べる”の実現にはまだ大きな課題も

一方で新しい公園づくりの動きもあります。最近は、障がいの有無や年齢、性別、国籍などを問わずみんなが楽しく遊べる「インクルーシブ公園」が増えてきました。 インクルーシブとは、「包含性/すべてを含む」という意味の英語。車いすにのったまま遊べる複合遊具や、背もたれ付きのブランコなどがインクルーシブ遊具の一例です。 「しかし、せっかくそういう公園を用意しても、多動であったり、こだわりが強かったり、パニックになりやすい子どもを持つ保護者の方は、トラブルや他の親子に迷惑をかけることを避けるために、そもそも公園には遊びに行かなくなったということもあるんです」と嶋村さん。 「あっちに行って」と心ない言葉をかけられたり、大人に舌打ちされたりすることもあり、公園には他に誰もいないような時間帯にしか行かないようになったり、もう公園には何年も行っていないという親子にも出会ってきたと言います。 「人って関わり合いの中で育つものですが、今はコミュニケーションがとても希薄になっています。 1980年代には年齢や性別、人種、障がいの有無などに関わらず、多様な人が利用しやすく、安心して利用できるようなデザインでバリアをなくす“ユニバーサルデザイン”という考え方が提唱され、社会に普及してきました。 けれども、誰もが豊かに遊べるようにするには、物理的環境を整えるだけではなく、血の通うコミュニケーションの中で解決されていけるような心理的環境も整えることが必要です。 だからこそ、人と人との関わり合いでバリアをなくすことの重要性に意味を込めた“インクルーシブ”という考え方が生まれてきたのだと思います」と嶋村さんは力を込めます。

子どもの周りは本来、「プレイアブルスペース」であふれている

子どもが遊ぶ場所として大切なのは、物理的環境と心理的環境のふたつが整っていることです。 たとえ、遊具を配置したりして大人が物理的に整備した“遊び場(プレイスペース・play space)”があったとしても、その場所で子どもが大人から怒鳴られたり、年齢や障がい、特性、国籍、ジェンダーなどを理由に仲間外れにされたりして、心理的に“遊べる場所(プレイアブルスペース・playable space)”となっていなければ、子どもは遊ぶことはできません。 「コロナ禍以来、オンラインも増え、マスクをしたり、黙食として話もせずにごはんを食べたりする生活が何年も続いてきました。 『こんなとんでもない親がいた!』というSNSの炎上なども影響して、トラブルになることを恐れ、親としてこうすべきというプレッシャーを必要以上に負っている人が増えたように感じます。 東京都立砧公園内『みんなのひろば』に遊びに来た親子やグループなど200人を対象に実施されたアンケートでは、『あなた(子どもの家族や引率者)の身近で、障がいのある人と直接関わる機会はありますか?』という質問に対して、『わが子に障がいのない』人の66.4%が『直接関わる機会はない』と答えています。 関わり自体がそもそも少ないことによって、子どもも大人も、どう接してよいのかが分からずに関わりを躊躇したり、人間関係の貧困に拍車がかかっていたりするのかもしれません。 実際に、遊ぶ環境が豊かであれば、大人が介入しなくても、子どもたちだけの関わり合いの中で配慮する姿はたくさん見られます。 『手伝ってあげるよ』『そうじゃなくて、こうするんだよ』という声かけや、ルールがよく分かっていない子に特別ルールを用意したり、身体能力に合わせてブランコや回転遊具のスピードを調整したり、鬼ごっこで同じ子が何回も鬼になり続けないようなルールを作ったりして、子どもも自分たちなりの配慮をすることができます。 子どもの遊びの中では、想定外の状況やルール通りでないことは頻繁に起こります。大人の方も、そのたびにトラブルに対処するのは大変なので、まずは『そんなことしちゃダメだよ』と禁止したり、『うちの子がすみません』と謝ったりしたくなる気持ちにもなりますよね。 ただ、それと同時に、言われたことしかできないような子どもにならないように、子どもたちが良し悪しを判断して、最善を自分たちで見つけていく力が育つような機会もしっかりと確保していきたいところです。 それに子どもたちがケンカになったときの関係の修復の仕方って、単に『ごめんね』『いいよ』だけじゃなくて、ときに感動的なシーンもあるんですよ。 うまく謝れないけど、何かの拍子に『このどんぐりあげる』なんて言ったり、秘密基地の横を通り過ぎたときに『もっと居心地のいい場所にする方法、知ってるよ』『何、教えてよ』なんて会話して、また二人で遊び始めたりとかね」(嶋村さん) まずは大人が無理のない範囲で、これまでよりも少しずつ率先して他者とコミュニケーションを取る機会を増やし、周囲の人たちとの関係性を変えてみることが、子どもの心理的な“プレイアブルスペース”を広げていく一歩になるかもしれません。

古屋 江美子プロフィール

子連れ旅行やおでかけ、アウトドア、習い事、受験などをテーマにウェブ媒体を中心に執筆。子ども向け雑誌や新聞への取材協力・監修も多数。これまでに訪れた国は海外50カ国以上、子連れでは10カ国以上。All About 旅行ガイド。 (文:古屋 江美子(ライター))

© 株式会社オールアバウト