大企業『満額回答』相次ぐ…全社員3万円賃上げの企業も 市民はどう感じているのか街で聞いてみると… 静岡

日本銀行は19日、金融政策決定会合を開き、2016年に導入した「マイナス金利」の解除を決めました。注目を集めていた大規模な金融緩和策の修正。これによって、実に17年ぶりの利上げとなります。

そもそも、「マイナス金利」が解除されることで、私たちの生活にはどのような影響があるのでしょうか? メリットは、預金の利息がわずかながら増えること。さらに、これまでの円安に歯止めがかかり、原材料やエネルギー、食糧などの輸入品の価格が下がることも期待されます。

一方、デメリットも。住宅や車のローンを組むときの金利、また既に組んでいる変動型のローンについても今後、金利が上がる可能性があります。

なぜ、このタイミングで「マイナス金利」が解除となったのか? 背景にあるのが「春闘」です。

大手企業「満額回答」相次ぐ

大手企業の大幅賃上げの回答が相次いだ今年の春闘。静岡県の大手企業でも、物価の高騰などを考慮した満額回答が相次ぎました。

浜松市に本社を置く自動車メーカーのスズキは、組合側が1人当たり平均2万1000円の賃上げを要求したの対し、要求水準を上回る平均10%以上の賃上げ実施を回答。

そして、同じく浜松市の大手楽器メーカー・ヤマハも、賃上げ月額1万3000円の要求に対し、満額回答で応じました。

街の人に聞くと…

大企業を中心に相次いだ賃上げの満額回答。実際はどうなのか? 街の声を聞いてみると。

塾講師(入社15年 富士市30代男性「賃上げする」):「ちょっと(賃上げ予定)。今のところ、業界的に少子化とかいろいろな影響があるので、どこまで期待できるかなというところ」

製造業(入社2年 焼津市20代女性「賃上げ未定」):「(賃金が)上がってくれるといいなって。欲しいものがあっても、ちょっと躊躇したりするので」

事務職(入社4年 菊川市20代男性「賃上げ未定」):「今のところ、何も聞いていない。本当に(賃金が)上がってほしい。生活にダイレクトに物価高の影響を受けているので、本当に上がってくれれば一番うれしい」

取材では、自分の勤め先の賃上げを把握できている人は多くいませんでした。

全社員対象に3万円の賃上げ

一方で、県内には歴史的な賃上げをした企業も。

笹村朱里アナウンサー:「焼津市内のスーパーに来ています。大手企業の賃上げが進む中、こちらのスーパーでは、今年1月から一律3万円の賃上げに踏み切りました」

静岡県内に14店舗を展開するスーパー「田子重」。265人の全正社員を対象に、今年1月の支給分から賃金を一律3万円ベースアップしました。

田子重 曽根礼助代表:「昨今、物価高が非常に激しかったので、従業員の生活の質を高めるために、賃上げが必要だと前から感じていた。それから、足元の環境でいくと、採用が非常に厳しくなっていたので、賃上げなどをして、魅力のある会社にしていくことが必要だと考えていた」

田子重では、これまで必要なポジションや年齢層に対して賃上げをしていましたが、全社員一斉にベースアップをしたのは、20年ぶりだといいます。

入社8年 40代女性
Q:率直に(3万円賃上げ)の感想は?
A:「うれしかった。」
Q:実際に3万円アップして、生活は変わった?
A:「少し迷っていたリップクリームとか、ファンデーションとか、欲しいものを買おうかなという気になった」

入社3年 40代女性
Q:3万円上がってどうですか?
A:「生活は主には変わらないが、自分の気持ちと家計は楽になりました。友達の子が高校生だが、やはり就職活動するにあたって、田子重の賃上げは話題になったらしくて、良いねという話をしていると聞くと、少しうれしくなった」

入社20年 30代男性
「もらえる分が多くなるのはすごくうれしいこと。家のことにプラスで使えるので、すごいありがたい対応だと思う。周りで(給料が)上がっているというのを聞くことないので、一気に上がるというのは、順々に上がっていくのはあるけど、残業代が多くなって給料が増えてくというのが現状なので、プラスで基本が上がるのはすごい大きい」

県内企業の6割近くが「賃上げ見込み」

従業員には、気持ちの面でも良い影響が出ているようです。

帝国データバンク静岡支店が1月、県内785社を対象に行った調査(回答率41.4%)によりますと、回答企業の57.2%の企業が「賃上げ見込み」と答えていて、2006年の調査開始以降、最高を更新しました。

賃上げの理由(複数回答)については、「労働力の定着・確保」が78.5%と最も多く、「採用力の強化」も38.7%と4番目に多くなり、賃金改善を通じて、採用活動へのプラス効果を期待している様子が伺えます。

そして、給料のベースアップに加え、今年、象徴的なのが初任給の引き上げです。田子重は一律3万円引き上げ、大卒が25万円、高卒が23万円に。3万円のベースアップを発表してから、中途採用の応募も増えていることから、新卒の人材確保にも期待が膨らみます。

ただ曽根代表は、こういった「人への投資」を、すべての中小企業で可能にするのは難しいといいます。

田子重 曽根礼助代表:「賃上げは経営的には利益のマイナスとして表れるので、ある程度原資がないと出来ない話だと思っている。中小企業の中でも、もちろんしっかりとした利益を上げられて、賃上げをされる会社もあるが、中々難しい会社もあるのではないかと思う。大手企業から中小企業に価格転嫁をしましょうと、経団連や商工会議所が言っているが、やはり大企業は大企業で仕入れ価格を上げてくれるかというと、簡単には上げてくれないので、何か技術力を中小企業が持っていないと厳しいかと思う」

賃上げの動きは少しずつ中小企業にも定着してきていますが、今後、膨らむ人件費をどうしていくか、各企業の経営手腕が問われそうです。

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