『ブギウギ』視聴者を魅了した草彅剛の表現力 すれ違うスズ子と羽鳥の“音楽の道”

NHK連続テレビ小説『ブギウギ』第25週「ズキズキするわ」が放送された。娘・愛子(このか)にかけっこのライバルができたのと時を同じくして、スズ子(趣里)もまた、水城アユミ(吉柳咲良)という若きライバルを意識せずにはいられない事態に。そこにはスズ子とアユミのライバル騒動に静かに巻き込まれていく羽鳥(草彅剛)の姿もあった。

これまで少年のような笑顔と好奇心を絶やすことのなかった羽鳥。だが第25週の羽鳥はどこか様子が変だ。いつもは気にしないであろう週刊誌の記事を読んで沈んだ表情を見せる。妻・麻里(市川実和子)の「私はあなたの歌は今もいいと思ってますわ」の言葉にも、「よく言うよ、興味ないくせに」と羽鳥らしからぬ突き放したもの言いをしていた。羽鳥の様子がいつもと違うことが気になってはいたが、調子が戻らないままに時は過ぎる。

スズ子がアユミの存在にどこか及び腰で羽鳥に頼りたいという気持ちが出てしまった時も、羽鳥は「水城アユミが『ラッパと娘』を歌って君以上だったら、君は戻る場所がなくなるかもしれないよ」とスズ子を突き放す。これまでなら「福来くんらしくないよ」などと優しい笑みを浮かべてくれたかもしれない。だが今の羽鳥は硬い表情を崩すことなく、以前の柔らかく弾むような声も明るい笑顔も見せてはくれなかった。さらに寂しいのは、今の羽鳥からは「音楽へのワクワク」が感じられないのだ。

羽鳥のこの態度や音楽への変化を、草彅は芝居で強烈に表現している。これまでの羽鳥は、ニコニコしないまでも冗談を言ったり、唇を尖らせたようないたずらっぽい表情でスズ子らと接していた。だが今回の羽鳥は違う。音楽から希望や輝きを受け取って世の中に届けてきた羽鳥の表情とは大きく違うのだ。これだけでもスズ子と羽鳥のあいだになにか埋められない想いがあることが想像できる。週ごとにくるくると表情を変える草彅の表現力は素晴らしいものがあるが、今週は特にテレビの画面を食い入るように見つめてしまう1週間だった。

そんな草彅は、羽鳥の心の内をさらに顕著に視聴者へと伝える。あえてセリフを発することはないものの、『オールスター男女歌合戦』でブラウン管の中、歌い踊るスズ子を見つめる瞳が言葉以上にひしひしと感じさせてくれるのだ。スズ子が「若い頃のワテにそっくり」と言ったときに少し悲しそうに片側の口の端をフッとあげた羽鳥。かつてのスズ子と自分も何度も一緒に「ラッパと娘」を歌ってきた。ステージの上で力強くシャウトするスズ子とタクトを踊るように振る自分……。私たちも羽鳥とスズ子の歩んできた道を振り返りながら、今の羽鳥の姿に切なさが込み上げる。スズ子をよく知る羽鳥だからこそ誰よりもその心の内をわかっている。そしてスズ子をよく知る羽鳥だからこそ、これからの2人が進むべき道について感じ取るものがあるのだろう。

スズ子が梅丸に義理を欠くことをしてしまったときも羽鳥は「センチメンタル・ダイナ」を歌ってもらうことをあきらめなかったし、愛助と結婚するために歌手を辞めると言い出した時も、羽鳥は絶対に歌手としての福来スズ子を諦めなかった。残り一週となった今、羽鳥にかつての笑顔が戻ることを信じながら、2人の音楽の歩みを見守り続けたい。

(文=Nana Numoto)

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