熾烈なGT500ウエットタイヤ開発競争。「まったく新しい」ブリヂストンの新型トレッドパターンは脅威となるのか

 スーパーGT開幕前最後のテスト、富士公式テストは前回の岡山公式テストに続いて雨、ウエットコンディションでの開催となった。このオフのテストは雨が多く、ドライでは多くのチームで走り込みが足りない反面、どのタイヤメーカーも新しいウエット(レイン)タイヤの開発に取り組む絶好の機会となった。

 そして、今回の富士公式テストではウエットとなった初日の模擬予選で16号車ARTA MUGEN NSX-GTのトップタイムから11番手までの上位を、ブリヂストン(BS)勢が独占する結果に。ブリヂストンはこのオフ、昨年からまったく新しくなったウエットタイヤを投入して、いい手応えのままシーズン入りそうな気配を見せた。

 昨年まで雨といえば、ミシュランウェザーとも言い替えられるほど、ウエットコンディションで結果的に圧倒的な強さを見せたミシュランタイヤ。そのミシュランへの対抗として、昨年のこの富士テストでブリヂストンは新トレッドパターンのウエットタイヤを投入したが、そのウエットタイヤは結果的にシーズンへの投入を見送られていた。

 そしてブリヂストンは満を持してこのオフ、トレッドパターンの新しいウエットタイヤを導入してきた。

「去年のこのテストで投入したタイヤとも違う、まったく新しいタイヤなのですけど、基本の基調は似ているところがあると思っています。去年のこの富士テストで課題が明らかになって、シーズンへの投入を見送りました。その課題の部分を修正して、このシーズンオフに強化したものです」と話すのは、スーパーGTでブリヂストンの現場を率いるMSタイヤ開発部マネージャーの山本貴彦氏。今回のウエットタイヤのコンセプトを聞く。

「新しいウエットタイヤは(トレッド)パターンを変えて、去年と比べて排水性を高めています。昨年までのウチのもともとのパターンは、他社さんが走れないような雨量の多い中でも走ることができていたのですけど、去年試したパターンはその良さが失われていました。今年のウエットタイヤは、その良さを失わないように、そして去年試したパターンの良さを活かした、いいとこ取りを狙って排水性とグリップの高さを両立してきたものになります」と山本氏。

 新しいウエットタイヤには、BS陣営のドライバーからポジティブな声が多く、今年のブリヂストンのウエットタイヤは、「よほどのことがない限り、今シーズンはこのパターンで行くことになると思います」と山本氏も手応えを感じている。

 それでもまだまだ投入したばかりのウエットタイヤということもあり、改良の余地も残されているようだ。今回のウエットでの模擬予選のQ1でトップタイムをマークした36号車au TOM’S GR Supraの坪井翔が話す。

「今回も(昨年のウエットタイヤと)直接比較をしているわけではないので、特徴に関してはなんとも言えないですね。GRスープラも2024年車になって微妙にエアロとか車高も違っていて、今年に入って自分たちはこの新しいウエットタイヤでしか走っていないので比較のしようがないのですけど、タイムを見る限り常に上の方にいますし、乗っていてもグリップはしっかり感じます」と坪井。

 もちろん、良い部分だけでなく、課題も感じている。

「走っている時に感じる排水性など新パターンのいいところはもちろんあるのですけど、コンパウンドと構造の合わせ込みや組み合わせは、まだ(改善の)余地があるのかなと思っています。まだ完成形ではないのかなというのが正直なところで、少なくとも36号車のクルマとタイヤに関しては伸びシロとか可能性はあると思うので、BSさんと話し合ってこれから進めていきたいですね」(坪井)

 今回の富士の雨では路面温度が8℃と、シーズン中には想定されていないような低気温だったため、一概に今回のブリヂストンの上位独占を評価できるわけではないが、それでもまだまだパフォーマンスを上げられる可能性があるのは末恐ろしい。

 当然、ライバルタイヤメーカーもウエットタイヤの開発はしっかり、そして密かに続けられている。

「BSはあのパターンでも雨量が多めのところも走れていて、狙っているところが違うようで、ヨコハマタイヤは雨量の少ないところの強みがあると思っています」と話すのは、24号車リアライズコーポレーションADVAN Zの村田卓児エンジニア。ヨコハマのウエットタイヤは、同じく雨だった岡山公式テストの2日目にトップタイムをマークしており、ダンプ(降ったり病んだり)コンディションや少量の雨で強さがあると見られている。

 ダンロップに関しても伝統的に夏の暑い時期の雨に強く、昨年の開幕戦のウエットレースでも好パフォーマンスを見せるシーンが見られた。64号車Modulo CIVIC TYPE R-GTの伊沢拓也が話す。

「僕たちもウエットタイヤはこれまで何種類も新しいものを試してきています。それでも去年のレース、岡山や富士のウエットでよかったところがあったので、そこを越えようといろいとトライしていますが、GT300で試して良かったものでも、クルマが違うからかGT500ではうまく合わないなど悩ましいところがあります。これまでのウチのいいところはあると思っていますが、BSが新しく変えてきたことで、これまでのウチの優位性がどうなるかなというのが、今はわからないところですね」と伊沢。

 富士テスト初日午後の64号車Modulo CIVIC TYPE R-GTは模擬予選Q1、Q2の両方ともルーキーの大草りきがアタックする予定だったが、雨量の多くなったQ1の走行を回避。雨が弱くなったQ2では大草がアタックを行ってQ2で14番手となってしまったが、「今日のこの(低気温の)コンディションでは、何かを評価する必要はないかなと思います」と伊沢が話すように、あまり参考にはなっていないようだ。

 岡山、富士の2回の公式テストで明らかになった各社のウエットタイヤのトレッドパターン。そのままシーズンに投入するか否かは開幕戦までわからないが、いずれにしても、近年のレースでは土日のセッションのどこかで雨が絡むことが多く、ウエットタイヤのパフォーマンス、そしてウエットタイヤに合わせたクルマのセットアップは優勝争い、そしてチャンピオンシップにも大きく影響を及ぼすことになる。

 ミシュラン去し2024年、果たして次のウエットマスターはどのタイヤメーカーになるのか。開幕戦を控え、ウエットタイヤの開発競争はすでに佳境を迎えている。

2024年スーパーGT富士公式テスト、ヨコハマのウエットタイヤ
2024年スーパーGT富士公式テスト、ダンロップのウエットタイヤ

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