アラカン夫婦の「終のすみか問題」8500万円のマンション、購入して大丈夫?

ここ数年、都市部での不動産価格が上昇しています。持ち家の有無に関わらず50代後半になると、老後の住まいについて悩む人も多くいらっしゃいます。

筆者はファイナンシャル・プランナーとして活動していますが、ご相談に来られる多くが50代後半から定年前後の方々です。特に、最近増えてきたのが終のすみかを見据えたお金周りのご相談です。

相談内容はさまざまですが、具体的に挙げていくと、長年の賃貸暮らしから50代のうちにローンを組んでマイホームを購入した方がいいのか、持ち家の戸建てをリフォームする際の予算はいくらまでなら適切か、持ち家の戸建てからマンションへ移りたいが購入しても大丈夫か、など。どんな方が相談に来られているかというと、単身からご夫婦まで世帯状況や働き方、収入、金融資産の金額までそれぞれ状況は異なります。

今回は、その中から、持ち家の戸建からマンションへの買い替えをお悩みのAさんご夫妻の事例を参考にお伝えしていきたいと思います。


健康問題からマンション住み替えを検討することに

Aさんは59歳の現役会社員です。定年は60歳、継続雇用せずに退職予定とのこと。最近では65歳で年金をもらうまで働く人が多い中、60歳でリタイアと聞き、その理由をAさんに聞いてみると「58歳の時に心臓疾患が見つかったこともあり60歳で一旦リタイアすることに決めた。長年やってみたかった芸術系の学びにチャレンジしようと思っている」とのことでした。

50代後半に突入すると、人生が有限であることを筆者も同年代として共感するところです。いっぽう、Aさんの妻は58歳、出版社を早々に退職し、現在はフリーランスとして働いています。定年がないため、健康である限りは収入が少なくなってもなるべく長く働く予定です。

また、Aさん夫妻にはお子様がいらっしゃいますが、すでに独立して別居しています。現在は夫婦2人の戸建て暮らしです。来年Aさんがリタイアするタイミングでマンションへの住み替え案が上がってきたのです。理由はAさんの健康問題です。木造の戸建ては冬の寒さが厳しく、家の中での寒暖差は心臓によろしくありません。そこで夫婦で話し合いをして退職金や貯蓄で購入できるマンションを探すことにしました。

マンション価格が高すぎる…買っても大丈夫?

物件選びで優先したことは、最終的にどちらかがおひとりさまになった場合でも売却できそうな資産価値が見込めることです。駅近物件、かつ、Aさんが通院する病院へのアクセスの良さを条件に探し始めたのですが、希望する間取りと広さで調べてみると築20年でも7,000万円を超える物件がほとんどでした。売り出し当初購入したという地元の知人が、今の方が価格は上がっているよと嬉しそうに話すのをAさん夫妻は複雑な思いで聞いていました。というのも、同じく20年ほど前に注文住宅で建てた家を査定に出したところ、当時かけた金額の2分の1ほどの見積額だったからです。

過去を悔いても仕方ないので、気を取り直してマンション購入計画を進めていた中でこれだ!という物件に出会ったのです。来年完成する駅近の新築物件、ネットで検索していたときに大手不動産会社の広告を見て、早速オンラインで相談することにしました。ホームページ上では価格未定となっていたのですが、詳しく聞いてみると許容できる間取りでも8,500万円ほどすることが分かりました。退職金や貯蓄、持ち家の売却益など含めてギリギリなんとか購入資金は用意できそうです。ただし手残りは1,500万円ほどまで減ってしまいます。

がんばれば買えるけれど、本当に購入して良いのか?第三者の助言が欲しいと筆者の元に来られたわけです。

物件次第だがマンションの固定費はチェックポイント

まず、Aさんご夫妻にお伝えしたのは65歳までの家計収支はどうなるのかです。年金を受け取る年齢は原則65歳ですから、それまでの5年間で貯蓄を取り崩すのであれば購入計画に無理があると思われます。確認したところ、妻の収入とAさんの企業年金でギリギリやっていけそうとのことでした。

第一段階はクリアしましたが、検討することは他にもあります。マンション暮らしになると住まいにかかる固定費が戸建てより高くなることです。毎月の管理費・修繕積立金・駐車料金、そして固定資産税を加えると、今より年間80万円以上負担が増えます。将来、車を手放すことになったとしても、マンションにかかる固定費は戸建てと違い自分でコントロールできません。今回、購入を検討しているのは40世帯ほどのいわゆる小規模マンションなので、毎月の固定費も高いのです。購入に向けて前のめりのAさんご夫妻でしたが、30年間の固定費総額を思い浮かべて冷静になられたようです。

「注文住宅の反省から、資産価値が高いマンションを購入すれば出口も安心だと思っていた。最終的に売却できることは重要だけど、果たしてその時に大金を手にしても意味があるのだろうか」と思われたようです。

率直なところ、今回のマンション購入計画は、価格自体にいささか無理がありました。物件選びは難しいところではありますが、予算を下げる、あるいは現在の住まいを断熱リフォームなどして住み続ける、そして、戸建て暮らしに不自由を感じるようになったらマンション購入か賃貸、さらには高齢者住宅の選択もあります。今すぐ決める必要はないこと、そして、Aさんも完全リタイアではなく今後可能であれば働く意思をお持ちとのこと、もう少し検討期間を設けることとなりました。

人生の最終ステージに向けて、終のすみか選びに悩むアラカン世代は多いものです。参考の一助になれば幸いです。

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