税務調査官「残念ですが、妹さんも対象です」…年金月30万円、元公務員の父が55歳長男に「多額の生前贈与」→52歳妹が“2度激怒”したワケ【税理士が警告】

(※写真はイメージです/PIXTA)

税務調査が行われるきっかけのひとつに「第三者からのタレコミ」があります。このタレコミ先が親族などの身内の場合、税務調査に発展する可能性は跳ね上がると、多賀谷会計事務所の宮路幸人税理士はいいます。今回、身内のタレコミから税務調査に発展した事例から、相続税の申告における注意点をみていきましょう。

実家住まいの兄に両親の介護を“丸投げ”していた妹

〈登場人物〉

Aさん……55歳の独身男性。実家住まい。高校を卒業後、実家近くの工場で働きながら両親の面倒をみていた。

Bさん……52歳の既婚女性。Aさんの妹。夫と2人の子供と都内のマンションで暮らしている。両親との折り合いが悪く、ほとんど実家に帰っていなかった。父親の介護が必要になってからは「子供の受験があるから」と1度も帰省しなかった。

AさんとBさんの父親は、小学校の校長として定年を迎えたあと、地元の市議会議員を務めていました。高齢により議員を引退してからは、月に30万円ほどの年金を受け取り、悠々自適な生活を送っていたそうです。しかし、日課の散歩中に転倒したことで足を悪くし、介護が必要に。2年半ほど在宅介護を受けた後、88歳で逝去されました。

父親の介護については、デイケアなどの介護サービスを活用しながら、Aさんがひとりで行っていました。

一方のBさんは、根っからの “末っ子気質”で、面倒事はすべて兄であるAさんに頼るクセがありました。加えて、幼いころから兄をひいきする両親とは折り合いが悪く、大学進学を機に上京してからは、結婚の挨拶などの節目を除いてはほとんど実家に帰っていなかったそうです。

もっとも、子供ができてからは両親にせがまれ、年に1度は帰省していたそうですが、両親の介護については「子供の受験があるから」と、すべて兄に丸投げ。父の介護が必要になってからは、受験のタイミングと重なっていたこともあり、亡くなるまで1度も帰省することはありませんでした。

両親の面倒を兄に丸投げしていたことについて、Bさんにも多少の後ろめたさはありました。しかし、Bさんは働きながら都内マンションの住宅ロ-ンを返済し、また子供の大学受験のためのサポ-トなども忙しく、自分の家族で手いっぱいな状況であったほか、兄であるAさんも「お前は自分の家庭で頑張っているんだから、父さんの介護は俺に任せておけよ」と気遣ってくれていたことから、Aさんの言葉に甘えていたそうです。

Bさん「相続財産が少なすぎる!」…いったいなぜ?

結局、父親の葬儀や相続に関する諸々の手続きについても、Aさんにすべて任せっきりにしていたBさん。

葬儀終了後、Aさんが以前から準備していたという財産目録を受け取ったBさんは、その内容に目を疑いました。自宅の土地建物のほか、その他の財産では預金残高が1,000万円のみとなっていたためです。

Bさんは両親との仲が良かったわけではありませんが、父親の昔気質で堅実な性格は知っていました。また、5年前に母親が亡くなった際、相続の話し合いで父親から「母さんの預金はお前らで分けろ。俺の預金はまだ3,000万円くらいあるから、心配いらない」と聞かされていたのです。

さらに、Bさんの疑念が深まったのは、Aさんが高級外車に乗っていることでした。独身で実家住まいとはいえ、こんなに良い車を買えるのか……「ねえ、兄さん。この車は父さんから買ってもらったんじゃないの?」と問い詰めても、Aさんは「失礼なこと言うな! 介護を頑張っているご褒美に自分で買ったんだよ!」と激怒。また、なぜこんなにも預金が減っているのかと尋ねても、Aさんは「介護に使った」の一点張り。

Bさんは結局、自分が親の介護を丸投げしていた後ろめたさもあり、しかたなくAさんに言われるがまま預金の1,000万円を半分に分ける形で、相続税の申告を終わらせました。

Aさんの態度に疑念をぬぐえないBさん…税務署に相談

相続税の申告は終わったものの、Bさんは「父は施設にも入らず自宅で暮らしていただけなのに、こんなに預金が減っているのはおかしい」という疑念が拭えませんでした。

このため、相続税の申告後もやはり納得のいかないBさんは、Aさんに言っても埒があかないため税務署に連絡することを決断。税務署には、相続税の申告を行ったが、兄が相続財産以外でも親から贈与を受けているのではないかと思う旨を説明しました。

5年前に母親が亡くなった時は預金で3,000万円ほどあったこと、年金額は個人年金等を含めると月30万円ほど受給していたので、普段の生活費はそれで賄えることなど話しました。

また、相続の申告の際、高級車が申告されてない事を相談したところ、税務署の職員から「もしお父さまが車を購入していた場合、車の名義がお父様であれば相続財産の申告漏れになりますし、名義がAさんの場合、贈与税の申告漏れに該当します」と説明を受けました。

税務調査→Bさんが「2度」激怒したワケ

Bさんから相談を受けた税務署が父親の預金通帳を遡って調べたところ、亡くなる2年ほどの間に、生前贈与らしき預金の動きを発見。追徴課税をとれる可能性が高いと判断した税務署は、調査を実施しました。

税務調査の結果、亡くなるまでの3年のあいだ、毎年300万円近い現金の贈与が判明しました。また、介護が必要になったタイミングで、現在Aさんが所有している高級車を父親が購入していたことがわかりました。

これらはすべて亡くなる3年以内の贈与となるため、相続税の課税対象となります。これにより、相続税の追徴税額560万円と、ペナルティとして加算税と延滞税約100万円が課されることとなりました。

この事実に、Bさんは大激怒。Aさんを問い詰めると、「現金は、介護のお礼として『将来の備えにしておいてくれ』と言われ、父さんから毎月受け取っていた。高級車は、毎週病院へ連れていく際に父さんが『どうせなら良い車で送ってくれ』と言って買ってくれた」とのこと。

Bさんはその話を聞き、介護を丸投げにしていた自分にも非があると反省。「最初から正直に話してくれていたらこんなことにならなかったのに」と、涙ながらにAさんを叱りました。

しかし、これだけでは終わりません。申告漏れの相続税申告を作成した所、贈与を隠して申告したAさんだけが相続税を追徴されるのではなく、相続税の計算上、全体の財産が増額された分、相続財産を隠したわけではないBさんも相続税額の追徴税額約50万円を納付しなければならなくなったのです。

税務調査官から「相続税が増額されているため、残念ですが妹であるBさんも追徴課税の対象になります」と告げられたBさんは、再び大激怒。「兄さんが嘘をついていたせいでなんで私まで余計に払わなきゃいけないのよ!ふざけないでよ!」と、Aさんを責め立てました。

ただ、介護をAさんに丸投げしていなければこんなことになっていなかったかもしれません。自分の行いを反省したBさんは、しぶしぶ50万円を払うことを了承しました。

税務署が調査に踏み切ったワケ

税務署は職権で預金通帳を調べることが可能です。相続税の調査の場合、おおむね10年ほどさかのぼって家族の預金口座を調べてから調査を行います。このため、銀行資金の流れにより、引き出されたお金が申告されていないことを突き止めました。

また、国税庁はホームペ-ジなどでも「課税・徴収漏れに関する情報の提供」を呼びかけています。つまり「脱税していそうな人がいたら教えてください」との呼びかけです。

通告後、すぐ調査に進展する可能性は低いですが、今回のように身内からの具体的な情報の提供の場合、信憑性が高い場合が多いため、追徴税額が取れると判断された場合、税務調査に至る可能性は高くなります。

相続財産が増加すると、相続人“全員”に影響する

いかがだったでしょうか? 相続税の申告漏れが発覚した場合、その分の相続税を納めることとなりますが、相続税の計算上、相続財産が増加した場合、増加した財産を取得した本人だけでなく、相続を受けた全員の相続税が増加することとなります。

また相続人のうち、相続税を納めない人がいる場合、相続税には各相続人に対し「連帯納付の義務」があるため、お互いに連帯して納付しなければならない義務があります(相続税法第34条第1項)。

こうしたトラブルを生まないためにも、普段から身内同士こまめにコミュニケーションをとっておくと安心でしょう。

宮路 幸人

多賀谷会計事務所

税理士/CFP

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