君たちはどう生きるか

 米アカデミー賞の長編アニメ賞に輝いた宮崎駿監督の映画「君たちはどう生きるか」はもちろん、編集者で児童文学者の吉野源三郎が1937年に発表した小説から題名を取っている▲少年少女向けの小説「君たちはどう生きるか」は時代を超え読者の胸を打つ名作だ。2017年には漫画化され、200万部を超す大ベストセラーになった▲映画では、主人公の少年が、亡き母が残してくれた「君たちは-」を読み、本の上にポタポタ涙を落とす。小説はあくまでもモチーフの一つで原作ではない。けれども映画が小説にささげた敬意の作品なのは間違いないだろう▲映画は宮崎監督の生い立ち、母と子、生と死といったテーマが折り重なり、昨夏の公開時には難解とも評された。だが物語の中心には、小説に込められたメッセージが確かに息づく▲すなわち、人間は誰もが善と悪、強さと弱さを共に備える存在だ。そして、そのどちらかを選択できる自由を持つ。一人ひとりが意志をどう積み上げていくかによって、世界は良くもなれば悪くもなる。だから、君たちはどう生きるか-▲吉野が若い世代に送ったメッセージは、宮崎監督の手によりファンタジーの中に転生したと言っていい。分断と混迷を深める今の世界だからこそ、受賞の意義は大きいはずだ。

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