63歳元公務員「自慢のわが家だ」→大後悔…現金購入のタワマンで“感動の暮らし”が一転、わずか3ヵ月で“憂鬱な毎日”となったワケ【マンショントレンド評論家が解説】

(※写真はイメージです/PIXTA)

定年後、タワーマンションを現金で購入した63歳の山崎さん(仮名)。感動の“タワマンライフ”を満喫していましたが、わずか3ヵ月で大後悔。…『60歳からのマンション学』(講談社)より、戸建てからタワマンに買い替えた60代夫婦の事例を、著者の日下部理絵氏が解説します。

戸建てを売り、駅チカのタワーマンションを購入した山崎夫妻

【事例:戸建てを売りタワマンを購入したものの……】

・物件概要…2LDK 63・57m/29階建て18階/築2年182戸/最寄り駅 徒歩3分

・資金概要…現金で購入

・家族構成…夫63歳、妻61歳、子供2人は独立(長女33歳〈既婚〉、長男30歳〈未婚〉)

地方都市のタワーマンションに住む山崎修さん(仮名)は、大学卒業後から地方公務員として勤務し3年前の60歳で定年を迎えた。

定年後1年ほどは、夫婦で旅行に行ったり、好きなお酒を昼から飲んだり、庭の草いじりをしたり悠々自適に暮らしていたのだが、どうも時間を持て余してしまう。

元部下に聞くと、公務員も段階的に定年が65歳になるような話が出ているようだが、修さんが定年の時はそのような話はなかった。民間企業に勤める同級生は、65歳までの再雇用でいまも働いている人が多い。

修さんもまだまだ元気だし、社会とのつながりが欲しいと考え、ハローワークに相談に行ったところ、管理員をすすめられ、いまは数駅先にあるマンションの管理員をしている。

修さんは大学卒業後から単身用の公務員寮で暮らし、智子さんと結婚後は世帯用の公務員寮に引っ越した。そして、長女の麻衣さんが小学校に上がる少し前の35歳で2階建ての戸建てを購入した。

子供は麻衣さんと拓也さんの2人。2人とも修さんの定年前に実家を出て、麻衣さんは結婚して子供(陽翔君、3歳)が1人いる。拓也さんはまだ独身生活を楽しんでいるようだ。

そしていま、山崎夫妻は26年間住んだ戸建てを売って、人生初の分譲マンション、しかもタワーマンション(タワマン)住まいをしている。

山崎夫妻が“タワマン住まい”を決めた理由

マンション(タワマン)にした理由は、まずは利便性である。戸建て住まいの時は駅から遠く車での移動が必要であった。徒歩6分ほどのところに路線のバス停もあったが、バスの便数も少なくあまり利用はしていなかった。とにかく何をするにも駅に行くまでが一苦労であった。

また戸建ては2階建てで、いまは元気だからいいが、将来足腰が弱った時に2階まで階段をスムーズに昇り降りできるか、階段から落ちてケガなどしないか、それに昔、空き巣に入られセキュリティが気になっていたこともある。また夫婦二人で住むには広すぎて、智子さんも掃除が大変だという。

気力・体力ともに元気で、時間があるいまのうちに、駅から近く、セキュリティにも強くてエレベーターがあり、ワンフロアでフラットに住めるマンションに買い替えようということになった。戸建て住まいが長かったが、管理員として働いたことで、マンション住まいも悪くないなと思ったのも大きい。

昔から「時間ができたら夫婦水入らず全国の温泉巡りをしたいね」と話していたこともあり、いままでの最寄り駅にはこだわらず、特急や新幹線の停車駅を中心にマンションを探した。

そして買い替えたのが、いま住んでいるタワマンである。購入を検討する際、コンシェルジュや警備員がいる24時間の有人管理のところを探した。防犯カメラやオートロック、エレベーターも非接触キーを持っている人だけが乗れ、最寄り階や共用施設がある階にのみ停止するなど、セキュリティ対策も万全。鞄などから鍵を取り出さずにオートロックを通過できる「ハンズフリーキー」の採用はすごいと思った。

コンシェルジュカウンターではクリーニングや宅配便の集荷などのサービスがありホテルライクな住まい。

それに宅配ボックスやスポーツジムもあり、ゲストルームに安価に泊まれるのも魅力的。モデルルームも豪華で最寄り駅からも3分とすべてがキラキラして見えた。

元公務員の修さんが、タワマンを「現金で購入」できたワケ

麻衣さんと拓也さんに「戸建てを売ってマンションに買い替えようと思うんだ。しかもタワマンなんだが」と相談したところ2人とも大賛成。父さんも母さんも元気なアクティブシニアなんだからというのが理由らしい。特に拓也さんには「いいな〜俺が住みたいぐらいだ」と羨ましがられた。

購入費用に関しては、戸建ての売却資金と退職金で、現金で購入することができた。いま思えば公務員寮に10年以上住み、その際に貯金できたのが大きかったと修さんは思った。

感動のタワマン暮らしだったが…わずか3ヵ月で「大後悔」

建築中もカラーセレクトやオプションなど、入居はまだかまだかと楽しみに待ち続けた。ようやく引き渡しになり、はじめてみた豪華なエントランスには感動し夫婦とも言葉が出なかった。

高い天井にシャンデリア、一面のガラス窓からは陽が差し、豪華なソファセットが並ぶ。コンシェルジュカウンターからは、ビシッと制服を着た女性陣から「お帰りなさいませ」と声をかけられ、恥ずかしさと一気にセレブになったような気分になった。

老後にこんな豪華なタワマンに住めるなんて戸建てから買い替えて本当に良かった。まさに友人知人を呼びたくなるような自慢のわが家だ、タワマンライフが楽しみ、と住み始めの頃は充実したタワマンライフを送っていたのだが……、3ヵ月もしないうちに現実に引き戻されることになる。

眺望に飽きると、日当たりの良さがむしろデメリットに…

近くにこのタワマン以外、高い建物がないので抜け感があるという点も決めた理由のひとつだったが、眺望にはすぐに飽きてしまった。それどころか、ガラス張りの部屋は陽射しが強烈でまさに温室状態。晴れた日はエアコンをつけないといられず、思った以上に電気代がかさむ。まぁカーテンを引けばいいのかもしれないが、だったらなんのための眺望なのかと思ってしまう。

IH調理器の火力が弱く、料理が楽しめない…

また智子さんは料理好きだが、IH調理器の火力が弱く料理のレパートリーが減ったと嘆いている。特に中華料理などの炒め物が美味しくできないという。

当初は、オール電化はガス代の節約にもなるし、火事も発生しにくく良いなと思っていたのだが、使用できる調理器具もIH対応に限られてしまう。スーパーなどで激安フライパンを見つけても対応しておらず使えないという。智子さんはガスコンロより調理に手応えを感じず、「ガスコンロだった前のわが家が懐かしいわ」とことあるごとに言う始末である。

ベランダに洗濯物が干せないというストレス

そのうえ、智子さんからすると、落下防止などの理由から、ベランダの手すりに洗濯物や布団などが干せないのも気になるという。当初は、憧れの浴室乾燥機にドラム式洗濯機もあるから大丈夫と思っていたが、やはり天気がいい日はシーツとかお日様にあてて干したいと嘆く。それに物干し用の金具の位置も決まっていて、干せる丈が限られたり腰にも負担があるという。

「なんだこのニオイは!?」部屋から突然悪臭が…なぜ?

さらに最近になって、部屋でドブや吐しゃ物のような悪臭がするようになった。特に風呂場や、洗濯機置き場がひどく、臭すぎて寝られない時もある。管理会社に聞いたところ、いま理事会で初めての雑排水管清掃について検討中だという。

一般的に築2年を超えたあたりから、定期的に雑排水管清掃を実施するそうだが、せっかく管理組合で実施することになっても不在などで清掃を受けていない部屋や、人が一定期間住んでいない部屋では排水溝から逆流し、臭いがするそうだ。

またこのタワマンは、ホテルのような内廊下の構造のため、一定の換気をしていても、臭いがこもってしまうことも原因のひとつだという。それに内廊下は高級感があり素敵だと思っていたが、絨毯は水洗いの掃除がしづらくホコリや臭いのもとになってしまうケースもあるという。

しかも物件選びの条件にしていた、エレベーターの待ち時間でイライラすることもある。朝の5分は当たり前、ひどい時は10分近く待たなければならないこともある。もし川崎・武蔵小杉のタワマンのようにエレベーターが止まったら(2019年10月の台風による浸水被害で長期間電源が止まった影響)、階段で昇り降りできる自信はなく、いまさらながら高層階にしたことを後悔している。

その他にも、1階にある宅配ボックスから重い荷物を部屋まで運ぶ時、非接触キーをいたるところでかざすのがとても大変である。それに、強風が吹いたり地震があったりすると「長周期地震動」によって大きく揺れ、智子さんのほうがひどいのだが、乗り物酔いのような症状になる。しかも頑丈で壁が厚いと思っていたのに、子供の泣き声、水が流れる音、ドアの開閉音など生活音が気になることもある。

修さんがいまもっとも気にしている、物件の“心配ごと”

築2年で3割が「売れ残り」という恐怖

不満をあげたらきりがないが、いまいちばん修さんが気になっているのが、築2年にもかかわらず、いまだに3割ほどが売れ残っていることだ。利便性や豪華な共用施設は素晴らしいが、エリア的には割高であったことが要因のようだ。

しかも1年を過ぎた頃から、販売価格が見直しされ、なかには個々で値引きされるケースもあり、販売価格を下げたことに対する不満が内在している。

現在、売れ残っている住戸の管理費等は、デベロッパーが一括で支払っているが、この状態がいつまで続くのかという不安もぬぐい切れない。それにタワマンにしては規模が小さいことが影響して、他のタワマンと比較すると毎月の管理費等も高いようだ。

住み始めた頃はタワマンにして良かったなと心底思っていたが、このまま終の棲家として住み続けられるのか、日に日に不安は大きくなるばかりだ。理想と現実とのギャップとはまさにこのことを言うのであろう。

子供たちや孫は自慢のタワマン住まいができて良かったねと、とても喜んでくれているが、早くもタワマンにしたことを後悔して憂鬱な毎日を送っている。

日下部 理絵
マンショントレンド評論家
オフィス・日下部 代表

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