お菓子好きが集う隠れ家パティスリー「équ(エキュ)」(大阪・堺筋本町)。世界で活躍した中村忠史が伝えたい”お菓子の本質”とは?

今回取材に向かったのは、大阪のビジネス街・堺筋本町です。堺筋本町駅を降りて3分ほど歩くと緑に囲まれたデザイナーズビルがあります。この4階に隠れ家的に存在するお菓子屋さん「équ(エキュ)」が、今回の目的地。

2022年にオープンし、スイーツファンの間で話題になったこのお店。世界的に有名なフレンチレストラン「ジョエル・ロブション」の東京店、香港店、パリ店でシェフパティシエを務めてきた中村忠史さんのお店です。

今回は世界の美食家を相手にスイーツを振る舞ってきた中村さんの至極のお菓子を紹介します。

入店は1組ずつ。中村シェフから直接お菓子のこだわりを聞く贅沢な時間が堪能できる!

店名の「équ(エキュ)」は、複数の意味をもつ造語。例えば「equilibre(エキリーブル)」の”調和”、「equal(イコール)」の”平等”、「equation(エクアシオン)」の”方程式”、「equipé(エキップ)」の”仲間”…どれも、中村さんがお菓子を作り、お客様と関係を作る過程で大切にしたい言葉だそうです。

例えば、このお店に入ることができるのは「1組ずつ」で、2組目のお客様は扉の外で待ってもらうのだとか。中村さんは入ってきたお客様一人ひとりに対してお菓子の説明を自分の言葉ですべて説明するそうです。

「製造も接客も、全部やりたいっていうのが自分なりのこだわり。知り合いには『アルバイト雇ったらいいやん』って言われるけど、自分で作って、自分で渡したい。レストランサービスと同じ感覚です」

仕込みは定休日と営業前にすべて終わらせ、営業時間中は接客を最優先。お店に入ると必ず中村さんから直接お菓子のこだわりポイントが聞けます。お菓子好きにとって贅沢な時間が味わえるので、ぜひ行ってみてください!

ホワイトチョコレートでコーティングされた珍しい「オランジェット」。コルシカ産の肉厚なオレンジコンフィを、日本酒の獺祭を使用したダークチョコレートのガナッシュに1度くぐらせて、もう一度ホワイトチョコレートでコーティング。ボンボンショコラとオランジェットの中間のような食感と味わいです。

「一般的にはダークチョコレートでコーティングするじゃないですか。でもオレンジの香りと味を活かすのであれば、僕としてはこの組み合わせかなって。ダークチョコレートの苦味は入れつつ、ホワイトチョコレートで柑橘の香りを引き立てています」

超薄焼きのクッキーは「パータ タルト」という商品名。フランス語で「タルト生地」を意味しています。

「修行時代から、タルト生地の切れ端をつまみ食いした時に『美味しいなぁ』ってずっと思っていて。その感動を商品化しようと思って作りました」

中村さん曰く、「équ」で一番人気があるのがこのパータ タルト。他に見ないほど薄いクッキーで、サクサクと軽い食感。バターのコクに手が止まらなくなります。

「生地は薄く伸ばせば伸ばすほど扱いづらくなります。伸ばすのも難しいし、型で抜くのも難しい。すぐに柔らかくなるからギリギリまで冷凍させています。缶に入れるとなるとそれだけ枚数を増やさないといけないし、それだけ工程が全部倍になります」

作る側からすると、生地の薄さは手間と時間が増える。それでもその薄さにこだわる理由はただ一つで「このサクサク食感が美味しいから」なのだとか。しかも使うのは一番生地のみ。型抜き後に生地を寄せ集めた「二番生地」は食感が変わってしまうため使用しないというこだわりぶりです。

トンカ豆を削って香りづけした55%カカオ使用のタブレットチョコレート。1枚20gで、一般的なタブレットよりも小さく、薄めに作られています。

「分厚いタブレットって、折るのも大変じゃないですか。口の中に入れたらなかなか溶けない。僕からすると、タブレットは食べるというより”溶ける”、口溶けを重視しています」

ボンボンショコラは6種類入りと9種類入り。タルトタタン、獺祭、キャラメル、カプチーノなど。

「ボンボンショコラのポイントは、カカオがどうこうよりも出したい味をどう感じてもらえるか。例えば中にフランボワーズのジュレを入れたとして、フランボワーズの味がすればいいって訳ではない」

フランボワーズをチョコレートと合わせる意図は何なのか?なぜ、美味しくなるのか?素材と素材を合わせた結果は「足し算」ではなく「掛け算」であるべきだというのが中村さんの持論です。

ボンボンショコラの中でも特に自信をもつ「ピスターシュ・シャルトリューズ」は、故・ジョエル・ロブション氏のスペシャリテをボンボンショコラに落とし込んだものだそう。「リキュールの女王」とも称される「シャルトリューズ」の繊細な香りとピスタチオの濃厚なアイスクリームを合わせた大人のスイーツが、ボンボンショコラとして味わえます。

「エレガントな組み合わせで、すごくフランス人チック。味わい、香り、その余韻をも感じてもらえたらな、というのが僕の意図です」

店の至るところに「こだわり」が。一つひとつのストーリーに耳を傾けよう

話を聞いていると「このお菓子はこうしたい」「こう味わってほしい」という、明確な意図を感じられるものばかり。他にも、カヌレの生地に混ぜるバニラビーンズはタヒチ産の最高品質のものを使うなど、素材にも妥協はありません。

またお菓子を作る工程ひとつひとつ、真正面から向き合います。フィナンシェに混ぜるバターの焦がし具合、メレンゲの泡立て方、素材の香り、材料を合わせるタイミング。効率のために「〜しながら」作業を同時に行うことはないのだとか。

「お菓子の本質って『美味しい』がすべて。本当はこうしたらもっと美味しくなるのに…と思ってても利益とか手間とかを考えてやらないとか、そんなことは絶対にできない。でも商売として考えたら、そうなるのも仕方ないことかもしれないから、悪いとは思っていません。『手軽な値段でそれなりに美味しい』が求められるのも理解できます。でも自分の想いには反する」

「équ」には、パティシエとして約30年で感じたお菓子の「美味しい」と思うもの、他にも「良い」と思ったものが詰め込まれています。例えば、床の材質。

デンマークの家具デザイナー、ヨハネス・アンダーセンのアンティークチェア。

テーブル、壁、ディスプレイ、ショッパー…どこを切り取っても中村さんは「ストーリー」を語れます。

厨房の奥の休憩スペースで寛ぐ中村シェフ

これまでは百貨店の催事にも参画していた中村さんですが、今後は「équ」の運営と異業種コラボの仕事に絞っていく方針だそう。

例えば京都の建築事務所「吉原組」のプロジェクト「TOHU(トーフ)」では、建築の基礎「BASE(ベース)」と構造を組み上げる「ASSE(アッセ)」、屋根「ROOF(ルーフ)」の3つの建築工程をテーマにしたタブレットを開発。

「洋菓子や飲食の業界ではなかなか考えつかない仕事で、楽しそうだなって思ったんです。こんな世界もあるんだなって。自分が『面白いな』と思う仕事のみに集中するつもりです。慣れている仕事じゃなくて、経験したことのない領域で、自分を高めていきたい」

焼き菓子のテイクアウトのみでスタートした「équ」、現在はアシェットデセールを提供する予約制サロンも始まっています。約20年勤めた「ジョエル・ロブション」での経験が発揮される中村さんのサロンにも、ぜひ足を運んでみてください。

About Shop
équ(エキュ)
大阪府大阪市中央区南久宝寺町1-6-6 CONCOM南久宝寺 4F
営業時間:11:00~15:00
定休日:月曜、火曜、水曜

あかざしょうこ

ウフ。編集スタッフ

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関西方面のスイーツ担当。1984年生まれ、大阪育ちのコピーライター。二児の母。焼き菓子全般が好き。特に粉糖を使ったお菓子が好きです。

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