「みなさん、偶然の出会いを楽しんでくださいね」
1月下旬、佐野市内の子ども食堂「ちょこっと」。運営団体の代表熊倉百合子(くまくらゆりこ)さん(50)が笑顔で呼びかけた。
普段は市内のNPO法人が高齢者の居場所として使っている会場を、子ども食堂として活用。昨年6月から月に1回開いている。
この日は市内外の親子連れや近隣住民ら計約30人が訪れた。地元の農家などから提供された食材をふんだんに使ったご飯を、みんなで囲んだ。
熊倉さんが狙いを話す。
「子ども食堂って、利用が困窮家庭に限られるイメージがありませんか。あえてうちの食堂は、誰でも来られることを前面に押し出しているんです」
◇ ◇
中学校の教員を経て、2008年から2年半、青年海外協力隊員としてインドネシアに派遣された経験がある熊倉さん。現地の課題だった学校に通えない子どものいる施設運営に携わったことで、帰国後は地元の課題解決のために活動したいと思うようになった。
胸の内にあったのは、教員時代、貧困状態にある子どもが目の前にいるのに、学校として家庭に介入できずにいたもどかしさ。
「今こそ、なんとかする側になりたい」。子どもの貧困対策に取り組もうと決心した。
19年、子ども支援のためのNPO法人が市内で立ち上がった。創設メンバーの一人として熊倉さんは、市役所から紹介された特定の子どもが利用する子ども食堂の運営に携わった。1年が過ぎたころ、「ここを必要とする人はもっといるはず」との思いが強くなっていた。
家計が苦しくても生活保護を受けずにいる母子家庭など、行政の支援の網にかからない子どもと親たちにも来てもらいたい。対象を限定せず、地域にも広く利用を呼びかけた。
だが、反応は鈍かった。子ども食堂は「困窮する親子が訪れる場所」という印象が固定化され、利用対象者にも地域住民にも敬遠されているような気がした。
「初めから対象を限らない方が来やすいのかもしれない」
支えたいターゲットは変わらないが、アプローチの仕方を変える。イメージを一新するために場所も名称も変え、地域の人なら誰でも来られる子ども食堂を自ら立ち上げた。
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間もなく開設1年。開催すると毎回、定員30人に達するようになった。
経済的に困っている家庭が来たら、お米を渡したり、相談に乗ったりしている。ただもっといるかもしれない、支援を必要とする子どもや家族につながれている実感を持ててはいない。
今は「手助けが必要な家庭が来ているかもしれない」という思いで子ども食堂を運営している。いつか悩みを打ち明けてもらえるように。その時はすぐに手を差し伸べて、受け入れてもらえるように。