【漫画】対話型AIは“生きづらさ”にどう寄り添う? 人生の儚い輝きを感じるSNS漫画『私の先輩』

メンタルに不調を抱える女性・明石の家には、アプリ会社から送られた対話型AIを搭載したモニターがある。そのモニターには“先輩”に似た女性が映し出され、明石の話し相手を務め、日常生活にちょっとした刺激と癒しを与え続けていく。それでも、明石のぼんやりとした生きづらさは消えることなく、今日も淡々と日常を送る――。

Xに3月中旬に投稿されたオリジナル漫画『私の先輩』は、多くの人が共感できる漠然とした生きづらさと、それでも生きている/生きていくことの儚い輝きが収められたドラマだ。本作を手掛けたのは、普段はイラストレーターとして活動しており、描きたい物語が浮かんだ際には漫画を制作しているというSienaさん(@Siena_140)。明石の心境に共感したくなる本作をどのようにして制作したのかなど、話を聞いた。(望月悠木)

■感覚を重視して描いた作品

――今回『私の先輩』を制作した背景は?

Siena:利用していたメンタルヘルスアプリに、AI系の機能が導入されたことがキッカケです。そこから展開から肉付けまで何もかも、感覚と流れに任せてストーリーを作成しました。言い換えれば「ただ自分の中にあるものを素直に描きたかった」という感じです。

――明石と先輩も感覚を重視して誕生したキャラということですか?

Siena:はい。描きながら微調整した部分もありますが、自分の中で求めているものを漠然と入れた感じになりました。

――「職場のおばさんはネガティブな話を頻繁にしている」など、明石の送っている日常がリアルに描かれていました。

Siena:本作の日常についても、「ただ純粋に自分の中の描くべきことを描こう」としたらこうなりました。「リアルに描こう」とこだわって描いたわけではありません。

――明石が起きた時に「…ふぁるほほ」、明石がたい焼きを食べている時に「…ほふでふね」と言っていますが、こういった何気ないセリフも感覚的を重視して選んだのですか?

Siena:そうかもしれません。いわゆるエンタメとしての日常感というよりは、自分の中のしっくりくるセリフを抽出した結果、こういったセリフを採用しました。

■遺言みたいな作品

――明石の「長生きしたいけど楽に死にたい」という感情が繊細に表現されていました。

Siena:正直「こういった感情を描いて良いのか」ということは迷いました。ただ、この物語は自分にとってある種、ネガティブな意味ではなく“現状の遺言”みたいな側面があります。ですので、「描けるだけ描いちゃおう」という思いから描きました。

――「君は全力で生きてきたと私は思っているよ」という言葉をはじめ、先輩のセリフはどれも印象的でした。先輩のセリフはどのように決めましたか?

Siena:セリフはできる限り感覚で決めました。また、私自身「誰でも全力で生きている」「生きてきた」と思っているから、「君は全力で生きてきたと私は思っているよ」というセリフが生まれたのかもしれません。

――ラストに対話型AIから「君がどんな風に生きて、あるいはどんなふうに終わるとしても見守っているよ」と言われた時、明石は乾いた笑い声を発して、「…ありがとうございます」と口にしていました。ラストの明石の心情はどのようなイメージで描いたのですか?

Siena:私自身、明石がなぜあの表情を浮かべ、あのような言葉を口にしたのかよくわかっていません。ただ、そういう“よくわからなさ”を描くことが必要だと判断したのかもしれません。

――最後に今後の漫画制作における目標などあれば教えてください。

Siena:正直言いますと、「本作を区切りにして、またちゃんとイラストを描いていかなきゃ…」と思いながら描いてました。ただ、描きたい物語はまだいくつかあります。「多分また新しく何かを描きたくもなるし、衝動で描いてしまうこともあるし…」という感じなので、必要性が自分の中で生じたら描きたいとは思っています。

(望月悠木)

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