社説:NATOと北欧 ロシアの誤算が招いた拡大

 ロシアのウクライナ侵攻を受け、北欧のスウェーデンが今月、北大西洋条約機構(NATO)に加わった。隣国フィンランドに続き、32カ国目の加盟国となった。

 高まるロシアの脅威に対抗するため、200年以上続いた中立政策に終止符を打ち、米欧との軍事同盟に踏み出した。NATOの対ロ抑止力が大幅に高まる一方、偶発的に軍事衝突が起きる懸念は拭えず、緊張緩和に向けた外交努力が欠かせない。

 スウェーデンは19世紀初頭のナポレオン戦争以降、他国と交戦せず、非同盟・中立を国是としてきた。

 だが、ウクライナ侵攻は北欧では同盟国を持たない国の悲劇と受け止められた。その衝撃が国是の転換に慎重だった国内世論を動かしたと言えよう。

 一昨年5月、同じく中立政策を貫いてきたフィンランドと共に加盟を申請した。ところが、トルコとハンガリーが国内事情やロシアへの配慮もあってスウェーデンの加盟に難色を示し、想定以上に批准が遅れていた。

 スウェーデンは、有数の軍事大国として知られる。高性能の兵器を開発し、高い防衛力を築いてきた。

 ロシアに対抗する欧州安全保障体制は新たな段階に入る。ロシアと欧州に面するバルト海をNATO加盟国が取り囲むことになり、ロシアの軍事戦略にとって大打撃に違いない。

 ロシアのプーチン大統領は、NATOの拡大阻止をウクライナに攻め入る口実の一つとしていたが、逆に対ロ包囲網の拡大を招いてしまった。自らの浅慮と誤算がロシアの孤立を深めたことを認めねばなるまい。

 北欧全体が集団的自衛権を定めるNATOの領域となり、ロシアと欧州が「緩衝地帯」なしに直接向き合い、軍事的脅威がより身近に迫る。

 プーチン氏はNATO拡大に対し、国境付近での兵力増強を指示するとともに、戦略核兵器の配備で威嚇する。危険な挑発と軍事対立を激化させてはならない。

 ロシアの侵攻後、2年以上にわたり戦闘が続くウクライナのNATO加盟は早々には難しいとみられるが、支援は欠かせない。

 現在の膠着(こうちゃく)状態が続けば、ロシアによるウクライナ領土の実効支配が固定化する恐れがある。力による現状変更を認めれば、国際秩序を揺るがしかねない。

 戦闘の長期化に伴う「支援疲れ」もあって、NATO加盟国の対ロ政策に温度差が目立つ。足並みの乱れはロシアを利することになろう。

 とりわけ、11月の米大統領選に向け、共和党の候補者指名を確実にしたトランプ前大統領が米国第一主義を掲げ、加盟国の軍事費増額を求めてNATOを軽視する姿勢が気がかりだ。

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