大坂なおみ、難敵スビトリーナを撃破!「攻撃の手を緩めてはいけない」…攻めの姿勢を支えたのは相手への敬意<SMASH>

両者が打ち交わす打球がことごとく、コートの四隅に測ったように鋭く突き刺さる。

大坂なおみが、攻める。エリーナ・スビトリーナはポジションを下げることなく左右に走り、ボールに飛びつき、ヒザが地面に着くほど腰を落として、打ち返す。だが、どれだけボールが返ってこようとも、それを予測していたかのように大坂は、集中力を切らさず、何球でも高質のショットを打ち続ける。

女子テニスツアーの「マイアミ・オープン」2回戦。会場で3番目に大きな“ブッチ・バックホルツ・コート”のファンたちは、緊張感みなぎるその攻防に息を飲み、ポイントが決まるたびに拳を振り上げ、歓声を上げた。

互角に見えるつば競り合いの中、いずれのセットでも、数少ないチャンスを自身の手でつかみ取ったのは、大坂だ。第1セットは第6ゲームで、バックのクロスを豪快に叩き込みブレークする。ゲームカウント5-2とリードしたリターンゲームでも、再びバックの強打でブレークしそのままセットをつかみ取った。
第2セットも、第1セットを焼き直したかのような展開に。第6ゲームをラブゲームでブレークした大坂は、5-3とリードし自身のサービスゲームを迎えた。

ただここで、ダブルフォールトも絡めて3連続ブレークポイントを許す。サーブで2ポイントを返すも、最後はミスショットでブレークを献上。その後は互いにゲームをキープし、タイブレークにもつれ込んだ。

ここでも一進一退、主導権が激しく入れ替わる攻防が展開される。大坂がスマッシュを叩き込めば、スビトリーナはコートを斜めに切り裂くフォアで応酬。それでも最後はサーブ力と、大坂の攻撃力がわずかに相手を上回る。

ウイニングショットは、相手のラケットを弾くフォアのクロス。11カ月前に出産から復帰してきたスビトリーナを、2カ月半前に同じく産後復帰を果たした大坂が、6-2、7-6(5)で振り切った。

コートから引き上げる大坂のコーチのウィム・フィセッテは、いつもの理知的な佇まいを保ちつつも、幾分興奮した口調で「間違いなく、復帰後最高のプレー」と断言した。ヒッティングパートナーのフィリップ・ベスターも、「疑いなく、今季一番」と即答する。
当の大坂は試合後の会見で、落ち着き払った表情と口調で、そのような周囲の見解に賛同した。

「プレーヤーをプレーヤーたらしめる、“掛け替えのない何か”が存在する。私にとってそれは、打ち合いを支配すること、そして素晴らしいサーブを打つこと」

その、大坂を大坂たらしめるエレメントを、最後まで携えての勝利。それが可能だった背景に、16歳の時に初対戦し、以降も近く見てきたスビトリーナへの敬意があるだろう。

戦前から「彼女はいかなる状況でも諦めない」と警戒し、実際に今回対戦した際には、以前とは異なる圧力を相手から感じたとも言った。

「彼女は以前よりも攻撃的で、ポイントをもぎ取りにくるというか……、自分のショットの潜在能力に気付いたのではと思う。例えば今回、バックで打ち合っている時の私は、いつダウンザラインに打ってくるかと気掛かりだった。そのような不安は、以前は感じなかったと思う」
試合中に、常に感じていた相手からの圧力――。それが、第2セットの“勝利へのサービスゲーム”で、大坂が「ものすごくナーバスになった」理由だったろうか。

「それでも、攻撃の手を緩めるわけにはいかないと思っていた。残念ながらあのゲームは取れなかったけれど、そのおかげで『彼女は重要な局面でこそ素晴らしいプレーをしてくる』と心に刻み、タイブレークを戦うことができた」

最終的に勝利の鍵となったのも、やはり敬意と表裏の、攻めの姿勢だ。

かくして会心の勝利を手にした先には、またも好敵手が待ち構える。その相手は、今季既に2度対戦している、カロリーヌ・ガルシア。

「もはや友達というか、盟友って感じよね!」

苦笑い交じりにそんなジョークも飛ばしつつ、復帰後の成長を測る、格好の試金石へと挑む。

現地取材・文●内田暁

※大坂対ガルシアの3回戦は、日本時間の3月25日(月)早朝に行なわれる予定。

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