ネスレ株主、「不健康な食品」の削減呼びかけ

ネスレは昨年、2030年までに「より栄養価の高い」製品の売上を50%増やす目標を掲げた (KEYSTONE/© KEYSTONE / LAURENT GILLIERON)

スイスの食品大手ネスレの株主である複数の機関投資家が、健康に良い食品に関する同社の販売目標に対して苦情を呈している。今の目標では、不健康な食品の削減にはつながらないとの見方だ。 食品世界最大手ネスレの一部株主が4月の年次株主総会に先立ち、同社に対して不健康な製品への依存度を減らすよう求める議案をまとめた。同社が2023年に設定した目標では不十分だと主張する。 議案に賛同する機関投資家の運用資産は総額1兆6800億ドル(約255兆円)に上る。「キットカット」や「クオリティ・ストリート」などのブランドで知られるネスレに対し、売上高に占める不健康な商品の割合について、国際的に認知される削減目標を設定するよう要請した。規制や風評被害のリスク、公衆衛生上の懸念が増していることを理由に挙げた。 議案を調整した英NPO「シェアアクション(Share Action)」のキャサリン・ハワース最高経営責任者(CEO)は「ネスレは健康的な食品が売上高に占める割合について、どんなバランスを目指すのか一貫して明らかにしていない。懸念を抱く投資家は、4月の株主総会で議案に賛同するしかない」と述べた。 ネスレは昨年、2030年までに「より栄養価の高い」製品の売上げを50%増やすという新たな健康目標を発表した。 この目標に対し株主らは、不健康な製品からの脱却につながるよう、売上高に占める健康的な食品の割合を目標値に据えるよう求めている。売上高目標は全社的な成長目標と連動しており、不健康な製品の売上げを減らすことにならないと指摘した。 ネスレの掲げた目標にはコーヒーなどの栄養価のない製品も含まれているため、「ネスレはコーヒーの販売を増やすだけで健康目標を達成できる」とも指摘。ベビーフードなど同社の特殊な栄養食品も同様だと付言した。 英リーガル&ゼネラル・インベストメント・マネジメント(LGIM)のシニア・グローバルESGマネージャー、マリア・ラーソン・オルティノ氏は「ネスレが目標に特殊な栄養食品を盛り込んでいることを問題視している。グレーゾーンで時間を稼いでいるだけだ」 利益なし? 議案にはLGIMのほか、カンドリアムやラ・フランセーズなどの資産運用会社が名を連ねている。ネスレに対し「信頼できるガイドラインから逸脱するのではなく」、国際的に認められた基準を導入するよう求めた。 ネスレは豪政府が創設し複数国で食品包装に記載されている「ヘルス・スター・レーティング(HSR)」と、飲食品の健康度を示す「栄養アクセスイニシアチブ(ANTI)」という2種の食品ラベルを採用している。 2023年の年次報告書によると、ネスレは純売上高(ペットフード、ベビーフード、ビタミン、医療用栄養などを除く)の38%がHSRで「健康的」とみなされる3.5以上の評価を受けている。前年の37%から微増した。 議案に賛同する機関投資家らは、食生活の乱れと心臓病・肥満など生活習慣病との間には明らかな関連性があるとして、ネスレの他に英ユニリーバ、米クラフトハインツなどの食品会社に対しても、取扱い商品の健全性を改善するよう要求し始めた。 ラーソン・オルティノ氏は「LGIMは、医療費の増長と生産性の低下がさまざまな分野にわたって顧客資産に深刻な悪影響を及ぼしているとみている」と述べ、LGIMとネスレの関係は「行き詰まり」に達していると強調した。 ANTIのグレッグ・ギャレット氏は「すべての食品会社、特にネスレのような最大手企業は、売上高に占める健康的な製品の割合を期限付きで増やす目標を設けなければならない」と語った。 ネスレの広報担当者はシェアアクションの議案には賛同せず、株主らは「標的にする企業を誤っている」と述べた。ネスレは全ての取扱い商品の栄養価を公表する食品企業の先駆けで、数十年にわたって健康度の向上に向け取り組んできたと主張した。 「特定の商品群の成長に制限を設けるべきだという考えに、我々は同意しない。売上高のシェアを目標に据えれば我が社の貴重な商品群が弱体化し、競合他社がシェアを伸ばす余地を生むだけで、公衆衛生上の利益をもたらすことはない」 Copyright The Financial Times Limited 2024 英語からの翻訳:ムートゥ朋子、校正:宇田薫

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