『ボカコレ』にDaoko、たなか、原口沙輔らプロが参戦 ルーキー部門の形骸化など課題も

先月の開催も大きく盛り上がった『The VOCALOID Collection ~2024 Winter~』(以下『ボカコレ 2024冬』)。期間中の投稿曲数は約7100件と最多記録をまたもや更新。シーンにおける祭典の存在感は勢いを増し続けるばかりだ。通算8回目の開催を迎えた今冬、注目を集めた話題のひとつにプロクリエイター参戦の動きがある。

重音テトを使用した「不可視天体」を投稿したDaoko。ボカロP・椎乃味醂による楽曲「ピリオド」で、自らの歌声を抽出したUTAU・彼方として参加したたなか(元ぼくのりりっくのぼうよみ)。そして今回「イガク」でTOP100部門優勝に輝いた原口沙輔。彼のSASUKE名義での過去の活躍は、すでに大勢の知るところでもある。

今回は、このようなプロクリエイターの市場参戦によって起こるシーンへの影響について考えたい。一点明確な懸念としては、イベントにおける純粋なアマチュアクリエイターが淘汰される可能性が挙げられる。しかしこれに関しては今に始まったことではない。イベント全体でこの機運は数年前から高まっており、リスナー間でも度々触れられてきた話題でもある。

当初はおそらく純粋なアマチュアクリエイターの登竜門として設置された、ルーキー部門。「ボカロPデビューから二年以内」という参画条件こそあるが、現在その実情はボカロP活動歴≠音楽制作活動歴というケースが大半となる。確かにボカロPとしては新人。だが過去に長年バンド活動をしていた経験者や、すでにトラックメイカーとして活動するクリエイターも大勢存在する状態だ。そのため近年は、およそルーキーの名に相応しくないハイレベルな争いが繰り広げられている。音楽制作初心者の参加ハードルを下げる役割がここで果たせていない点は、現在のイベントの課題でもあるだろう。

だが、それが一概にシーンの課題とはなり得ないのが、VOCALOIDジャンルのユニークさであり強みでもある。確かに『ボカコレ』は、今やシーンでも最たる注目を集める一大イベントへと成長した。しかしここでの優勝“のみ”が、その後のキャリアに繋がるわけではない。

先述の通り、ルーキー部門の役割は確かに形骸化しつつある。しかしシーンにはそれに代わる、新たなアマチュアの登竜門が今まさに育っている最中だ。昨年11月に第二回が開催された匿名投稿イベント『無色透名祭』はその最たる例だろう。応募総数は『ボカコレ』にも引けを取らぬ約4800曲を誇り、キタニタツヤをはじめシーン出身のプロクリエイターらもその動向に注目していた。

参加者の中には第一線で活躍するミュージシャンもいれば、今イベントで自作曲を初披露する、正真正銘のルーキーも非常に多い。活動歴や知名度を問わず全員が同じ土俵で勝負できる、稀有な環境。それが初心者の参加ハードルを下げることに大きく貢献しているのだろう。

また、昨年のシーン動向を見ても明らかだが、スマッシュヒットを成し遂げた曲は、『ボカコレ』の結果とは無縁のケースが大半である。ゆこぴ「強風オールバック」はSNSでの拡散が着火剤であったし、むしろシーンを超えた支持の獲得は、てにをは「ザムザ」、Guiano「私は、私達は」など、アプリゲーム『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク』がきっかけとなる方が傾向として強い。

同様に原口沙輔の出世作「人マニア」も確かに前回の『ボカコレ』投稿作だが、当時は11位と、TOP10圏外という結果だった。直近で「人マニア」のロングヒット記録を止め、話題となった吉田夜世「オーバーライド」。こちらも『ボカコレ』とはまったく別所で起こったムーブメントである。

そう考えれば『ボカコレ』へのプロクリエイターの参入は、イベントの存在意義を高めること、そして文化全体の興隆においてはデメリットだけではない。むしろある意味、シーンがより大衆化・一般化し始めたことを象徴する現象かもしれない。音楽を生業とするプロクリエイターにVOCALOIDという土壌が、正しく意義のある競争の場として認められた。それはすなわち、ひとつのシーン成熟の証左と見てもいいのではないだろうか。

次回の『ボカコレ』のみならず、今後より大勢のプロがシーンへ参画することも予測される。それはつまりVOCALOIDというジャンルで、さらに多彩な音楽が生まれる可能性を秘めていることになる。これからの拡大もまだまだ期待できる、シーンの変化の片鱗。それが『ボカコレ 2024冬』で垣間見えたと言ってもいいかもしれない。
(文=曽我美なつめ)

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