「もしトラ」ではなく「トランプ大統領復帰」に備えよ!|和田政宗 トランプ前大統領の〝盟友〟、安倍晋三元総理大臣はもういない。「トランプ大統領復帰」で日本は、東アジアは、ウクライナは、中東は、どうなるのか?

「大統領復帰」でどうなる、東アジア情勢

米国のトランプ前大統領の大統領復帰が現実味を帯びている。3月5日のスーパーチューズデーで共和党予備選を圧勝し、翌週には共和党大統領候補として指名に必要な総代議員の過半数を獲得し、指名を確定させた。11月の米大統領選は、民主党のバイデン大統領対共和党のトランプ前大統領の決戦となる。

最新の3月13日のロイターの全米世論調査では、バイデン大統領がわずかに1%リードで、横一線で並んでいる。我が国はトランプ大統領が再び誕生することを見越して備えなければならない。

一番重要なのは、対中国、対北朝鮮を中心とした東アジア外交であるが、米国にとっての外交の最重要事項はイスラエルを含む中東情勢である。バイデン大統領は東アジア外交の重要性も理解し、トランプ前大統領時代の「自由で開かれたインド太平洋」を重視する路線を継承した。

しかし、トランプ大統領時代に東アジア外交の重要性を理解させたのは、安倍晋三元総理大臣である。もともとトランプ大統領は北朝鮮問題や台湾危機については関心が薄かった。現在、トランプ前大統領は、これらの問題に対する積極的な発言はなく、言及しても前任期中の政策見直しが危惧される内容である。

3月5日の演説では、北朝鮮の金正恩総書記や中国の習近平国家主席との関係が良好だったとの発言が出ている。また、昨年、FOX系メディアのインタビューに対し、台湾の半導体産業が米国のビジネスを奪っていると発言し、台湾防衛への直接的な言及を避けた。

韓国とは前任期時に在韓米軍の駐留経費負担増額で激しいやり取りをしており、一昨年に発売されたエスパー元米国防長官の回顧録では、トランプ前大統領が在韓米軍撤退にこだわったが、エスパー氏が反対。ポンペオ国務長官が「大統領、在韓米軍撤退は2期目の優先事項にしましょう」と述べ、トランプ氏も「そうだな、2期目だな」と答えたと記されている。

もし、在韓米軍の撤退となれば、米軍の対北朝鮮の防衛ラインは日本まで下がってくる。

「大統領復帰」でどうなる、日本とウクライナ

トランプ氏の前任期時には日本に対しても米軍の駐留経費負担増額の要求があったが、これは安倍総理がしっかりと説明をし、事なきを得ていた。しかし、トランプ氏が再登板すれば同じような要求が来ることは確実で、対北朝鮮や対中国では「日本が最前線なのだから日本が対応すべき問題。もっと防衛費にお金をかけろ」と言って、米国の兵器を売り込む可能性が強い。

こうした交渉においてトランプ氏と深く話すことができた安倍元総理は逝去している。そのため、我が国は現在、トランプ前大統領との関係が深いハガティ元駐日大使とのコンタクトを重視している。ハガティ氏は現在、上院議員となっており、今年1月に来日し要人と面会した。トランプ氏の大統領復帰の可能性を見越しての動きは、水面下を含め強く進めていかなくてはならない。

そして、ウクライナ情勢についてのトランプ氏の発言が揺れていることも不安定要素だ。トランプ氏はウクライナにはNATO諸国が一義的に対応すべきとの考えで、どこまでウクライナを支援するかは不透明であり、ウクライナの存亡事態に影響が出る可能性もある。

米国が支援の手を緩めれば、ウクライナを守るために他の国々の支援強化が必要になり、我が国のウクライナ支援にも影響が及ぶことも考えなくてはならない。

「大統領復帰」でどうなる、中東情勢

さらに、中東情勢も混迷を深めている。イスラエルによるハマスのテロ攻撃に対する軍事作戦は着実に進んでいるが、トルコの行動が中東情勢の不安定化に拍車をかけている。トルコのエルドアン大統領は「ハマスは正義の戦士、イスラエルはテロ国家」とイスラエルを非難し、トルコ国内に拠点を置き資金調達を行っているハマスを全面的に支持している。

また、3月23日には、ロシアのモスクワ郊外のイベント会場でキリスト教徒を標的とした銃乱射テロ事件が発生したが、逮捕された実行犯のIS(イスラム国)メンバーはトルコから入国したと話している。ISはトルコで集めた資金が活動源になっていると米国政府公式サイトで指摘されている。

過去、プーチン大統領はトルコのISからの石油密輸を非難し、露国防省はエルドアン大統領の関与を指摘している。このテロでは、130人以上が死亡した。

そして、トルコの情報機関MITの暗躍も、世界各国で注視されている。

MITの工作活動は英国王立防衛安全保障研究所のリポートや各国の報道機関などで指摘されており、MITは、ジャーナリストを活用し虚偽の話を広めるとともにトルコ政府の立場を強める工作活動をしているとギリシャで報道された。トルコは過去にアルメニア人に対し大虐殺を行っているが、アルメニア人を排斥するための工作活動も各国の報道や米国務省の国別人権報告書で指摘されている。

トルコは隣国アルメニアと国交がなく、同じく隣国のギリシャとも犬猿の仲であり、エルドアン政権が中東の不安定要素を作り出し、テロを支援しているという状況となっている。その中で米国は今年1月26日、スウェーデンのNATO加盟をトルコが承認する事とのバーター取引で、F-16戦闘機を40機供与することを決定した。一方で翌27日は、ギリシャに最新鋭戦闘機F-35を40機供与することを決めた。

こうした中、イスラエルによるハマスへの軍事作戦について、トランプ氏は3月5日のFOXニュースのインタビューでイスラエル支持を明言した。大統領に再復帰した場合には、外交ではやはり中東情勢を最優先し、イスラエルへの支持不支持が米国との関係の踏み絵となる可能性が高い。

イスラエルはレバノンを拠点とするヒズボラからも攻撃を受けており、反撃する可能性もある。ヒズボラはイランが全面支援しており、さらに米国は、2月にトルコの企業と経営者をヒズボラに資金支援をしているとして制裁対象に指定した。ここでもトルコの関与が取り沙汰されるが、ヒズボラ、ハマスともイランが軍事面でも支援しており、イランが国家として軍事作戦を始めれば、第5次中東戦争の危機となる。

このように、中東、ウクライナ、そして東アジアにおいて様々な危機があり、トランプ前大統領の再登板でその不安定要素が増すかもしれない。「もしトランプ大統領が」ではなく、「トランプ大統領復帰」を見越して、こうした危機にどのように対処し抑止をしていくのかの外交と防衛を我が国は構築していかなくてはならない。

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和田政宗

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