その停留所にバスは来ない…なぜ設置した? ある症状に着目した国外発祥の取り組み、鹿屋のグループホームが実践中

「バスの来ないバス停留所」で談笑する利用者たち=鹿屋市笠之原町のグループホーム「イーストサイドおぐら」

 認知症の人が暮らすグループホーム「イーストサイドおぐら」(鹿児島県鹿屋市笠之原町)の敷地内に“バスの来ない停留所”がある。認知症状の短期記憶障害に着目し、不安になった人の気持ちを落ち着けるための仕掛け。国外発祥の取り組みで、周辺住民の認知症への理解にも一役買っている。

 ホームによると、認知症の人は「自宅に帰りたい」などと不安を口にすることがある。実際に帰宅することは難しいものの、職員と一緒にバス停で待っているうち、「バスがなかなか来ないから戻る」と心変わりし、落ち着いてくる。

 バス停は昨年1月、鹿児島交通鹿屋営業所から本物を譲り受けた。利用者の憩いの場としても活用され、14日も女性3人が談笑する姿があった。木下民子さん(82)は「いくら待ってもバスが来ないと、大笑いしたことを覚えている」とにっこり。息抜きがてら頻繁に訪れているという。

 ホームでは15年以上、朝の会で新聞を使った交流活動にも取り組んでいる。この日も約30分間、黒ヂョカの音読をしたり、県立高校の合格発表の記事を題材に思い出話をしたりして盛り上がった。

 ケアマネジャー上妻幸治さん(52)は「心から安心して過ごしてもらうことが私たちの使命だ。バス停を通して周囲の理解が深まったり、新聞記事で共通話題を見つけたりしながら、日々明るい気持ちで生活してもらえれば」と話した。

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